緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

ベートーヴェン ピアノソノタ第31番を聴く

2013-06-01 21:17:07 | ピアノ
こんにちは。
今年に入ってからベートーヴェンのピアノソナタの鑑賞に力を入れています。
ベートーヴェンのピアノソナタは全部で32曲あるのですが、2,3曲を残して聴き終わりました。
このブログでも第14番(月光)と第32番の録音を紹介してきました。
今日紹介するのは第31番です。
今まで聴いた演奏は以下のとおりです。

①アルトゥール・シュナーベル(1882-1951) 1932年(スタジオ録音)
②アナトリー・ヴェデルニコフ(1920-1993) 1969年(スタジオ録音)
③グレン・グールド(1932-1982) 1956年(スタジオ録音)
④スヴヤトスラフ・リヒテル(1915-1997)1965年(ライブ録音)
⑤マウリツィオ・ポリーニ(1942-)1976年(スタジオ録音)
⑥ヴィルヘルム・バックハウス(1884-1969)1963年(スタジオ録音)
⑦ヴィルヘルム・ケンプ(1895-1991)1964年(スタジオ録音)
⑧ルドルフ・ゼルキン(1903-1991)1971年(スタジオ録音)

この31番はベートヴェンのピアノソナタの後期の曲の中では古典形式による比較的簡素な曲ですが、簡素でありながらとても美しい曲だと思います。
私の中では第32番、第14番に次いで好きな曲です。
こういうピアノソナタの中でも装飾や華麗さの無い、簡素な形式的書法や旋律で作られた曲は演奏者によって曲の価値が全然違ってくるものだと思います。
今回聴き比べしてその意味がわかったし勉強になった。

さて上記の録音で最も感動したのは、④スヴヤトスラフ・リヒテルの1965年のライブ録音。



このリヒテルのライブ録音を聴くまでこの31番の曲の価値が正直わからなかったです。
なんとなく通り過ぎていったような受け止め方でした。
でもリヒテルのライブ演奏を聴いて、この曲が素晴らしい曲だと改めて気づいた。
まず第1楽章モデラートの高音がとても美しい。リヒテルの高音は澄み渡っており、芯のあるきらびやかなホールの奥まで突き抜けていくような音です。他の奏者の音と全然違います。そして低音の重厚な音のとの対比が浮き出ており、強弱の幅が広い。
この第1楽章は比較的簡素な曲ですが、音の美しさと表現の多彩さで曲の価値が最大に引き出されています。
第2楽章アレグロはスフォルツアンドの強い和音が冒頭から現れますが、リヒテルのこの音が凄いです。ものすごい強い音で弾いているのに、魅力的にすら感じる。
⑤のポリーニのこの第2楽章も同じく強い和音で弾いているが、はっきり言って不快、不愉快に感じます。聴いているのがつらいくらい。この違いはなんなんだろうか。
リヒテルはどんな強音を弾いても不快どころか音楽的魅力が伝わってくる。ポリーニは非の打ちどころの無い精緻な完璧な演奏であるが、私には無機的でうるさくさえ感じます。
(ちょっと言い過ぎたかな。でも本当にそう感じます。)
第3楽章アダージョはこの曲の最も美しい部分。この楽章を抒情的に表現するのは結構難しいのではないかと思います。



変ロ短調のこの哀しい旋律を速いテンポで弾く奏者が多いですが、リヒテルはゆっくりしたテンポで詩情をたたえた演奏をしている。
第4楽章フーガは高音部と低音部の各声部が明瞭に聴き分けられ、途中低音部の重厚な強い和音が挿入されるが、これもリヒテル独特の表現。
そして第3楽章の短調の主題が再現され(アリオーゾ)、静かに演奏される。この短調の主題の挿入がベートーヴェンらしく素晴らしい。



再びフーガに戻りテンポが速くなりクライマックスへと進んでいくが、リヒテルの演奏するある部分がパイプオルガンのように聴こえます。最後はよどみのない力強い演奏で終わります。

この1965年10月10日のライブでは、ベートーヴェンの他のソナタも演奏され、録音されていますが、どれも素晴らしい演奏です。リヒテルが40代の一番力のみなぎっていたころの演奏で、強い感動を与えてくれると共に音の表現の仕方、強弱等々、さまざまのことを教えてくれる。
またホールの響き方も良く、録音はホールでのライブ演奏の方がピアノの音の美しさを隅々まで感じることができます(ホールと録音技術にもよりますが)。
リヒテルは人によっては凡庸だと評価する人もいますが、恐らくリヒテルは曲や、演奏により出来不出来があるのではないかと思います。実際ベートーヴェンのピアノソナタ第32番の出来は良くありません。
でもこの31番のソナタの演奏は非常に価値のある演奏であることは間違いないと思っています。
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