「ふたりならば、負ける気がしねえ!」とは、ヤンキーとロリータの少女の友情を描いた嶽本野ばら先生の「下妻物語」のコピーだが、この角田光代の「対岸の彼女」の中盤で、あのキラキラとした青春期の友情への、祈りのような感覚が蘇ってきた。
さばさばした旅行会社の女社長・葵。
その下で働くことのなった内気な主婦・小夜子。
働く女と主婦の対立みたいなことが描いてあるのだろうという先入観があったのだが、あまりそういう感想を持たなかった。
本作品は、現在の葵と高校時代の葵が交互に出てくる。
高校時代の葵はどちらかというと小夜子のような内気な少女で、神奈川で酷いいじめにあい、群馬に引っ越してきた。
そこで魚の子と書いて「ナナコ」と呼ぶ、不思議な少女と友達になる。
一人でもへっちゃら、いじめに遭っても「私の大切なものはここにはないから」と気にしないナナコ。
放課後、二人で川辺でおしゃべりをしたり、友情を深めていく。
夏休みに二人で伊豆のペンションにアルバイトに行くのだが、それが葵とナナコの運命を揺るがす。
家がひどく荒んでいて、そこには「帰りたくない」と伊豆の駅のホームで泣くナナコ。
葵はそんなナナコの気持ちを汲んで、「二人でどこかに行こう」と逃避行に出る。
二人でならば、きっといい未来が待っている、そこへ向かうのだ…と。
精いっぱいの変装とアルバイト料だけで横浜のラブホテルを渡り歩き、二人は、後に世間を賑わせる事件を起こす。
結果、二人は離ればなれになった。
ナナコに会いたいのに会えない、部屋に閉じこもりっきりの葵。
「レズビアン女子高生。自殺未遂」という週刊誌の見出しとこの二人の尊い友情とのギャップが切なかった。
角田光代は「八日目の蝉」でも「三面記事小説」でも、世間一般で流れる週刊誌ネタと実際とのギャップを描くのが本当に上手い。「本当は違うんだよ」と言いたいけれど言えない辛さとか、秀逸。
いつしか葵はナナコのようなさばさばとした性格になり、社長になり、小夜子と出会う。
仕事が軌道に乗り、ノリで熱海に行く葵と小夜子と娘のあかり。
かつて高校生だった葵とナナコに似た眩しい友情が海に反射する光のように横たわっていた。
しかし、ちょっとした立場の違いから出た言葉や感覚のずれで歯車が一気に狂う。
高校時代の葵:ナナコ=小夜子:社長になった葵…という方程式がずっと脳裏にあったのだが、最後、上手い具合に裏切られる。希望が見える清々しい終りだったので、読了したときの爽快感が半端ない。
あの事件の後、葵はナナコと会っていない。
しかし、それでいいのだと思う。
孤独だった高校時代の葵を救ってくれたナナコは、大人になった葵の血となり肉になって、やがて小夜子を救ったのだから。
嗚呼、本当に良い作品だった。暫くは思い出すだけで涙が目を潤すだろう。
私にも、ナナコや葵のような「この子とならば、なんだってできるような気がする」という友達がいる。
そんな彼女たちの面々を思い浮かべて読んだ。
Tommy Heavenly6 - Hey My Friend (lyrics)
↑
私の中の女友達のテーマソング。
映画「下妻物語」のエンディング。
さばさばした旅行会社の女社長・葵。
その下で働くことのなった内気な主婦・小夜子。
働く女と主婦の対立みたいなことが描いてあるのだろうという先入観があったのだが、あまりそういう感想を持たなかった。
本作品は、現在の葵と高校時代の葵が交互に出てくる。
高校時代の葵はどちらかというと小夜子のような内気な少女で、神奈川で酷いいじめにあい、群馬に引っ越してきた。
そこで魚の子と書いて「ナナコ」と呼ぶ、不思議な少女と友達になる。
一人でもへっちゃら、いじめに遭っても「私の大切なものはここにはないから」と気にしないナナコ。
放課後、二人で川辺でおしゃべりをしたり、友情を深めていく。
夏休みに二人で伊豆のペンションにアルバイトに行くのだが、それが葵とナナコの運命を揺るがす。
家がひどく荒んでいて、そこには「帰りたくない」と伊豆の駅のホームで泣くナナコ。
葵はそんなナナコの気持ちを汲んで、「二人でどこかに行こう」と逃避行に出る。
二人でならば、きっといい未来が待っている、そこへ向かうのだ…と。
精いっぱいの変装とアルバイト料だけで横浜のラブホテルを渡り歩き、二人は、後に世間を賑わせる事件を起こす。
結果、二人は離ればなれになった。
ナナコに会いたいのに会えない、部屋に閉じこもりっきりの葵。
「レズビアン女子高生。自殺未遂」という週刊誌の見出しとこの二人の尊い友情とのギャップが切なかった。
角田光代は「八日目の蝉」でも「三面記事小説」でも、世間一般で流れる週刊誌ネタと実際とのギャップを描くのが本当に上手い。「本当は違うんだよ」と言いたいけれど言えない辛さとか、秀逸。
いつしか葵はナナコのようなさばさばとした性格になり、社長になり、小夜子と出会う。
仕事が軌道に乗り、ノリで熱海に行く葵と小夜子と娘のあかり。
かつて高校生だった葵とナナコに似た眩しい友情が海に反射する光のように横たわっていた。
しかし、ちょっとした立場の違いから出た言葉や感覚のずれで歯車が一気に狂う。
高校時代の葵:ナナコ=小夜子:社長になった葵…という方程式がずっと脳裏にあったのだが、最後、上手い具合に裏切られる。希望が見える清々しい終りだったので、読了したときの爽快感が半端ない。
あの事件の後、葵はナナコと会っていない。
しかし、それでいいのだと思う。
孤独だった高校時代の葵を救ってくれたナナコは、大人になった葵の血となり肉になって、やがて小夜子を救ったのだから。
嗚呼、本当に良い作品だった。暫くは思い出すだけで涙が目を潤すだろう。
私にも、ナナコや葵のような「この子とならば、なんだってできるような気がする」という友達がいる。
そんな彼女たちの面々を思い浮かべて読んだ。
Tommy Heavenly6 - Hey My Friend (lyrics)
↑
私の中の女友達のテーマソング。
映画「下妻物語」のエンディング。