世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

片想いの香り

2006年08月19日 23時37分42秒 | Weblog
「あっ…。」

尾道の商店街で、驚きの声を隠すことができなかった。
仏具屋さんの店先で、販売していていたお香。
何気無く手に取り嗅いだ瞬間…ふと、感嘆の溜め息が私の唇から漏れた。

私の鼻孔から脳に侵入したその香りは、凛とした音を発しながら拡散した。
そして、眠っていたはずの記憶がプチプチと弾けた。

あの人の香りだ。

そう思った。
私の横を通りすぎるとき、彼の躰から薫る、切ないような甘いようなあの香り。
13年が経過した今も、香りの記憶は風化せずに私の中にずっといる。

あれから何人かの殿方と付き合ったが、彼等の香りが私の記憶に残ることはなかった。

「好きです」…たった一言、心に秘めた想いを告げることができなかった片想いの香り。鮮明に私の記憶に残っている。
ふとした瞬間、彼に似た香りを嗅ぐ度に、記憶のシャボンは私の中で弾けた。

随分、彼の香りを探した。
香水の専門店、男物の整髪料…。結局、同じ香りは見付けられなくて、CHANELの「CHRISTAL」が一番彼の香りに近いということが判明した。
そのことが分かったときよりも、尾道の商店街で嗅いだ香りと彼とがリンクした瞬間の衝撃の方が、比にならないぐらい大きかった。

「尾道のにおい 海」

罪な香りだと思う。
皿の上で、真っ赤な点がやがて白い灰になっていく様子を見ながら、静かに溜息を吐いた。
その刹那、煙が揺らめいた。
まるで私の心のようだ。

彼自身の面影よりも、彼から放たれた香りの印象は、何故こんなにも強烈なのだろうか。
嗚呼、眠っていた想いが、目覚めてしまったではないか。
どうすればいいのだろう。

…どうにもできない。
…どうにかしたい?
…でも、どうにもならない…。

想いを告げることすら許されない、そんな遥か彼方に彼は行ってしまった。

遠いところに想いを馳せる。
尾道も彼も、容易に手が届かないところに存在しているから、
私の中で好きな気持を存続することが可能なのだろうか。

残した香りの罪の大きさのことなんて、彼は微塵も思ってないに違いない。
そうやって、この世界のどこかで今もきっと息をしているのだろう。

私も息をしている。たぶん、明日も明後日も明々後日も。
片想いの香りと、共に。
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土曜出勤

2006年08月19日 08時15分30秒 | Weblog
こんなに気持良い土曜日なのに、出勤。

いつもより空いている電車に揺られ、あくびが一つ…。

さて、働くか。

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