晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

高杉良 『虚構の城』

2013-03-03 | 日本人作家 た
だいぶ前ですけど、「金融腐蝕列島」や「濁流」を読んで、あとがきに
「デビュー作が話題に」云々という説明があって、しかも中に出てくる
石油会社が実在する会社の内実に近い、というか元社員か関係者じゃない
の?などといわれるくらいリアルに描いていた、とあり、そりゃ面白そう
だ、読むしかない、と思いつつ、ずいぶん経ってしまいました。

大和鉱油の技術職で入社7年目の田崎は、乾式排煙脱硫装置の研究開発
の功績で、表彰式で社長から賞状とお褒めの言葉をいただきます。

この大和鉱油という会社、財閥系とは違い社長が一代で築き上げて、
従業員1万人、売り上げは年間1兆5千億の業界最大手。
「大家族主義」という会社の方針で、これだけの大企業でありながら
労働組合が無く、その他にも「定年なし、出勤簿なし、解雇なし」の
「人間尊重主義」を標榜していますが、じっさいには老害ともいえる
上が詰まってしょうがないのに居座られて、一応9時5時の勤務時間は
決められていますが、どの社員も7時半には出社して、”自主的に”
残業し(もちろん残業手当など出ない)、そして、解雇はないとはい
っても、居づらくなって”自主的”に退職。

さて、そんな田崎のもとに、後輩が訪ねてきます。後輩は、この会社
はおかしい、とまくしたて、労働組合を作りましょう、そのさい、
ぜひ代表に田崎さんを、と。

話を聞けば、数年前に”自主退社”した、田崎も認めていた後輩社員
がいたのですが、彼は労働組合立ち上げを画策していて、それが上に
バレて、あれやこれやの嫌がらせを受けて、実質”辞めさせられた”
というのです。

しかし、現在の待遇その他会社に不満がこれといって無く、田崎は、
いきなり組合という話はよくないので、まずは懇親会といったかたち
からはじめれば、と提案。

後輩が帰り、それにしても前にいた後輩にそんなことがあったとは
知らずショックで、同じ社宅に住む同期に聞いてみます。
ところがこの同期、バリバリの”大和イズム”の持ち主で、田崎が
帰るやいなや、上司に「田崎が労働組合に感化されている」と報告。

翌日、上司に呼ばれた田崎は「組合に関心を持つとは、けしからん」
と叱責され、さらに、”根性を叩き直す”という名目で、東京本社に
飛ばされ、「企画部調査課」に配属、ここで田崎は情報収集のために
通産省に日参、という仕事に。

通産省に日参、とはいってもようは接待で、そこで宮本というノンキャ
リアと親しくなり、もともと酒は弱いのですが無理やり喉の奥に流し
込み宮本と飲みに付き合います。
一方社内では、田崎に大和精神を叩き込んでやってくれということで
屈辱の言葉を浴びせかけられます。

田崎は現在結婚していて子はいません。が、妻とは在り来りな言葉
ですが「価値観の違い」で毎日ウンザリ。
組合の話を持ってきた後輩の女子社員からの手紙を勝手に開けて、
これには田崎も怒り、離婚を切り出します。

そんな中、「美保」という銀座のクラブにいる雅子というホステス
と仲良くなり、ドライブデートをして、そして体の関係に・・・

先述の手紙をくれた後輩の名前は「広瀬政子」、そしてホステスの
雅子と、ここでの章の題名は「二人のマサコ」。洒落たタイトルですね。

それはさておき、ある日、通産省の宮本と昼食の約束があったのですが、
宮本は急に行けなくなり、かわりに外資系の陽光石油の上林という男と
いっしょに昼食に。そこで上林からヘッドハンティングの話が・・・

今でこそ冷遇の田崎ですが、いつの日か組合もできて、まともな会社に
なるのではと心の奥では期待していますが、そんな日は来るのか。

宮本と上林の引き抜き工作はどうなるのか、そして雅子との関係は・・・

山崎豊子の書く企業小説もそうですが、きちんと人間が描けているので、
堅苦しくなく読みやすいですね。

この小説のラストは衝撃的ですが、あとがきで佐高信さんは「アッ」と
いう表現でしたが、いざ自分が田崎だったらと考えてみると「うぎゃーっ!」
ぐらいですね。

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