晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

雫井脩介 『犯人に告ぐ』

2009-09-11 | 日本人作家 さ
日本の推理小説は、完全に偏見ですがおおまかに2種類に
分けられると考えられ、それは松本清張以前か以後。
「社会派」というジャンルが確立されてから、良くも悪くも犯人
の背後というか、犯罪に至った要因をしっかりと描くことによ
って、忌まわしい過去や時代背景といった現代社会の歪みを
鮮明にするのです。

ところが、アメリカのサスペンスでは、全部とはいいませんが
犯人の全貌はラストあたりにようやく分かってきて、それまで
は正体不明、思考不明のとにかく頭のアレな猟奇的殺人が
次々と発生して、その犯人の背景などはあまり説明されてい
ないものが多いのです。
例を挙げれば「羊たちの沈黙」であったり「ボーン・コレクター」
といったところ。犯行の動機は懸命な捜査で判明するのです
が、そこに至った部分が描けてない。
(もっとも、「羊たちの沈黙」に登場するレクターは続編で、人食
いになった素地というか忌まわしい少年時代が描かれています)

『犯人に告ぐ』も、それまでの日本の推理小説の主流である、
「犯人側をきちんと描く」のではなく、犯人の顔が見えないサス
ペンス要素が盛り込まれ、しかしそれでいて、犯人と警察の対
立構図のアイデアが面白く、展開も飽きさせずにタネあかしを
小出しにする巧みさ(意地悪!と言いたくもなりますが)もあり、
これは久しぶりに出会った傑作です。

端役のあまり仕事の出来ない警官が出てくるのですが、そんな
彼が最終的に大手柄となるあたりが、どんでん返しの筋書きと
いってしまえばそれまでなのですが、なんだか作者の推理小説
にかける愛情、人の良さみたいなものが伺えた気がします。


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