私事で恐縮ですが、今の職場を4月の半ばで退職することになりました。クビになるわけではありません。あくまで自己都合の退職。なんだかんだで4年と5ヶ月かな、在籍していたことになります。じつは今年の社会福祉士国家試験に合格し、さらに通信制の大学も無事卒業できまして、今の職場に特別大きな不満があるわけでもないし(あるにはありますが)、残ってほしいと引き止められもしましたが、まあここらでいっちょ違う世界に飛び出してみようかなと思ったわけであります。そんな冒険ができるのもおそらくこのタイミングを逃したら年齢的にも難しいかなと。
以上、このブログのプロフィール変えないと。
さて、井上ひさしさん。家の書棚にあるもう一人の井上さんは井上靖さん。井上靖さんにも一時期ハマってけっこう読んだのですが、井上ひさしさんが読んだ本の数で抜きそうな勢いです。
「九州天草一揆が鎮まってまだ間もない」とありますから江戸の初期、下総国(現在の千葉県北部と茨城県南部)にある、馬の産地として有名な桜七牧(「佐倉」ではありません)の高野村に、痩せた馬を連れた若者がどこかからやって来ます。馬の名前は花雲といい、いわゆる種牡馬。桜に来た理由は、種付けのため。この花雲は種付けの成功率が高く、種付け料をもらいながら全国を回っています。宿を探していると、馬に乗った若者の母が「腹が減った」といいます。全国を回っているのは母親の願いで、この若者はとんでもない大嘘つきで村人が迷惑するので全国各地の百以上の神社やお寺をお参りして息子の嘘つきがなおりますように祈願をする、その間は嘘をつくことを一切禁止するということで、次の成田山に行くと八十八か所お参りしたことになります。
高野村では、百姓はたいてい馬を飼っていて、農業のかたわら仔馬を育てて馬市で売って収入を得ています。さっそく若者は百姓に声をかけますが、この高野ノ牧では勝手に種付けをしてはいけないとのこと。宿に泊まった若者と母ですが、外に繋いでいた花雲が消えます。どうやら盗んだのは、高野ノ牧の御馬見代官の差配人をしている駒太夫だということで、駒太夫の家に行くのですが知らないと言われたので若者は代官所へ行って馬が盗まれたと訴えますが、なぜか若者が悪いことになって百叩きの刑。刑の執行人が八十八回叩いたところで疲れてやめてしまったのですが、若者は神仏の約束を破り「八十八回叩かれたので、八十八の嘘をついてやる。名前も八十八(やそはち)に変える」と復讐を誓うのです。
それから八十八の嘘、もはや嘘というかマジックかイリュージョンの世界で村人やら名主やら代官、盗賊、はては桜の殿様までも意のままに操ります。さらに八十八、「馬語」が話せるという特殊能力もあります。
話じたいはドタバタ奇想天外コメディなのですが、作者が千葉県桜市のアマチュア郷土史愛好家たちによる「馬喰八十八研究会」から聞いた八十八の伝説というか武勇伝に作者オリジナルの解釈を加えた、という構図。あとがき解説にもありますが、この話は義民、佐倉惣五郎がモデルになっているのではないか、ということですが、佐倉藩の領主、堀田氏の圧政と重税に苦しんだ名主の惣五郎が、寛永寺に参詣に出かけた徳川将軍の駕籠に直訴し、領民は救われたのですが、惣五郎の一家は処刑されるのです。この義民伝説が歌舞伎や講談などで知られるようになります。京成電鉄に宗吾参道という駅があってけっこう歩くのですが佐倉惣五郎を祀った宗吾霊堂(成田市)があります。ちなみに佐倉市内のお煎餅屋さんでは「義民焼き」という商品が売れ筋なんだとか。