晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宇江佐真理 『為吉 北町奉行所ものがたり』

2022-12-03 | 日本人作家 あ

十二月ですね。師が走るくらい気忙しいということですが、狭いニッポンそんなに急いでどこへ行くってことで、時間に余裕を持ってゆっくりとのんびりとやっていきましょう。

ちょっと用事があって今年に入って数回東京某所に出かけたのですが、本来着けばいい時間の1時間半ほど前に着いてしまい、それだとさすがに早すぎるんで駅前のコーヒーチェーン店で時間を潰すという金の無駄。まあそれでも遅刻して信用を失うよりよっぽどいいですけどね。なんといいますか、年齢を重ねるごとに時間より早めに着くようになってきましたね。さすがに若い時と今を比べたら遅刻してヘラヘラ笑って許される歳じゃありませんけどね。

以上、老いと向き合う。

この作品は、あとがきによると、もともとは「町奉行所」を描く連載の予定だったのですが、ご病気で途中で休載となって、そのあとに再開するのですが、予定を変更して最初の主人公を中心とした物語になったそうです。ですので、表題の「為吉」が出てこない話もあります。

北町奉行所の中間、為吉。歳は二十三歳。中間(ちゅうげん)とは、一応は武家奉公人なのですが召使い、雑用係みたいな役目で、基本は奉行所内のあれこれ仕事をしますが、ときには捕物にも出動することも。

為吉は呉服屋の生まれでそのままいけば跡取りだったのですが、幼い時に呉服屋に強盗が入って為吉以外の家族と奉公人はみな殺害されます。為吉は叔母に引き取られ、十二歳になって奉公に出ますが奉公先で喧嘩をしてしょっ引かれます。すると、北町奉行所の定廻り同心、坪内半右衛門はこの少年があの呉服屋の息子だったことを知り、坪内家の下男として引き取ります。為吉は坪内の送り迎えをしていると、坪内の上司が「奉行所の中間が足りない、この子は見どころがある」といってスカウト、そうして為吉は十七歳になって北町奉行所の中間になります。

為吉は晩飯を食べようと台所へ。賄い方の杉蔵とは仲良し。そんな杉蔵から「為ちゃん、摂津屋のせがれだったんだってね」と言います。摂津屋とは為吉の生家の呉服屋。杉蔵によると、その摂津屋を襲ったのは「青蜥蜴」という強盗団ではないかと奉行所はずっと睨んでいて、その親玉が江戸に出てきて身体を悪くして療養しているという情報を掴んだのだそう。そして親玉は捕まります。為吉は親玉の腰縄を持って歩いていると、途中で厠に行きたいということで厠を借ります。そこで親玉とふたりきりになった為吉は十八年前に摂津屋という呉服屋に強盗に入ったか訊きますが「覚えちゃおりません」と答えられて、どうしてそんなこと訊くんでと言われて「おいらが生き残りの倅よ」と答えるのですが・・・という「奉行所付き中間 為吉」。

品川宿の旅籠「大黒屋」の奉公人、磯松は、大黒屋にいた飯盛女(遊女)が産んだ子ですが、その母親は磯松を産んで消えます。大黒屋のお内儀は磯松を可愛がって育てますが、お内儀が亡くなって主人は若い女を後添えに。ある日のこと、磯松はいつまでもただ働きだから他の奉公人に馬鹿にされるんだということで給金が欲しいと訴えますが主人と後添えに断られ、カッとなって主人と後添えを殺してしまい、ついでに今まで磯松を苛めてきた奉公人も殺して逃げます。捕まった磯松は番屋で取り調べを受け、為吉は磯松の見張りのため番屋に残ります。為吉はこの男がどうも数人を殺すようには見えないと思ったのですが・・・という「下手人 磯松」。

一之瀬春蔵は、年明けて見習い同心に。他に見習い同心になったのは春蔵ふくめて三人。見習い期間中に外廻りの同心の伴につかせることになり、春蔵は神谷舎人という臨時廻り同心の伴につくことになりますが、神谷は同僚の悪事を暴くのが生き甲斐みたいな人物で同僚たちから嫌われていて、そんな噂を聞いていた春蔵は「どうか神谷様のお伴だけはご勘弁を」と言うのですが・・・という「見習い同心 一之瀬春蔵」。

北町奉行所の与力、村井金兵衛の妻(あさ)。あさには兄がいたのですが、不慮の事故で亡くなり、あさは兄の幼馴染で棚橋軍平のもとに嫁ぐとばかり思っていたのですが、村井家存続のため婿養子をもらうことになります。ところで、奉行所ではある問題が。若い娘が殺害され、その娘の紙入れを持っていたという徳平という男が捕まって、取り調べで白状して死罪となったのですが、半年後、別の若い娘が紙入れを奪われ殺されるという事件が起こり、ひょっとして徳平は無罪だったのではないかという噂が広まります。じつは徳平を取り調べたのは棚橋軍平とその部下たちで・・・という「与力の妻 村井あさ」。

御用聞き(岡っ引き)の田蔵は水茶屋「一茶」を営んでいます。本来であれば女房に茶屋を任せたいのですが、女房のおつるは滅多に顔を出しません。というより出せないワケが。じつはおつるは霊験の力の持ち主として評判で、表に出たら人が殺到してしまうから。火事で家族が亡くなったおつるは田蔵の両親が引き取ることになったのですが、いつのころからかおつるに霊験の力があるのではないかと田蔵は思い始めます。はじめは気味悪がっていましたが、ふたりは夫婦に。やがておくみという娘が生まれます。ある日のこと「一茶」に北町奉行所同心の坪内半右衛門が中間の為吉を連れて訪ねてきます。ある廻船問屋の娘が行方不明になっていることを田蔵に話した数日後に為吉がひとりで「一茶」にやって来て、おつるの力を借りたいと頼みます。すると「廻船問屋の娘はどこかの親孝行な息子といっしょにいる。為吉が娘の居所を探し出す」と言い出し・・・という「岡っ引き 田蔵」。

「岡っ引き 田蔵」の後日譚になるのですが、為吉は田蔵の娘婿になります。ということで、為吉はふだんは水茶屋「一茶」を手伝って、その合間に下っ引きとして田蔵の伴をして町内を見回ったりすることに。田蔵には竹次という子分もいて、はじめは為吉が来て自分はお払い箱になるのではと思っていましたが田蔵はそのまま竹次を住まわせ、そのうち為吉とも仲良くなります。そんな竹次から下っ引きが情報交換をする「溜まり」があると聞いた為吉は、いつの日か行ってみようと思います。そんな中、町内で盗難事件が。呉服屋で反物が盗まれたということで為吉は田蔵に「溜まり」に行ってなにか聞いてこようと思うと言いますが、それを横で聞いていたおつるが「そこに近づかないほうがいい」と・・・という「下っ引き 為吉」。

江戸を舞台にした捕物帖を読んできて、奉行所には北町と南町があってそれぞれ当番が月交代であったというのはよく知っていましたが、元禄から享保の頃には「中町奉行所」というのもあって、奉行所が三つあったそうです。そんな豆知識もありつつ、奉行所に関連するあんな人こんな人を短編形式で描かれています。そういえば宇江佐真理さんの他の作品だったと思いますが、「勘当」にまつわる話で、親子が一時的に縁を切る「勘当」ですが、親は奉行所に「うちの子を勘当しました」と報告し、それを奉行所で「勘当帳」に書き記します。この当時の法で子が罪を犯したら家族も連帯責任になるのですが、勘当していればもしその子が他所で罪を犯しても家族には責任が無くなるというもの。やがて親が子を許して帰ってきていいよとなったら奉行所の役人がその家に行って「勘当帳」から名前を削除して正式に勘当が解かれるのですが、これを「帳消し」というそうで、これは勘当ならぬ感動した素晴らしい豆知識。

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