晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

半村良 『かかし長屋』

2017-12-03 | 日本人作家 は
半村良さんの小説は、まだそんなに読んだことがありま
せんが、なんかいいですね。

「なんかいい」という、曖昧で漠然とした誉め言葉です
が、それがシックリくるのですからしょうがありません。

時代小説を読んだのはこれが二作品目。最初に読んだのは
「すべて辛抱」という作品。出版された順番的にはこっち
の「かかし長屋」のほうが前なのですが、別に繋がってる
話でもないので、まあそこらへんは。

この作品は、第六回柴田錬三郎賞を受賞。文中の登場人物
で(柴田研三郎)という手習い塾をやってる元武士がいる
のですが、あとがき解説で、「半村良と柴田錬三郎のつき
合いはよく知って・・・」とあり、いろいろ調べましたら、
柴田錬三郎さんの葬儀の司会を半村良さんが務めたそうで
すから、たんなる作家の先輩後輩レベルではないというこ
とですね。

『かかし長屋』ですが、場所は江戸の大川沿い。幕府の
御米蔵が並んで、今でいうと国道六号線の江戸通り。
旧水戸街道ですね。さらに近くには浅草寺があり、表通
りは賑やかですが、一歩裏手に行けばそこは長屋ばかり。

そこに「かかし長屋」があります。近くにある証源寺の
先代の住職、経専が作ったそうな。
なんでも貧困の救済がライフワークで、寄付を募って、
経専和尚の友人知人の最貧者たちを住まわせます。

それ以下に落ちるな、貧しさに甘えるなということで、
着物はボロでも洗濯してきちんとしろ、掃除をしろと
いう教えで、この界隈にしては清潔が保たれています。
今の住職は忍専といい、かかし長屋の住人の相談役。

住人のラインナップは、大工の辰吉、妻おりく、源太
とお末の家族と、左官の熊吉と妻お鈴の夫婦、口は悪い
が世話好きの姫糊屋のおきん婆さん、流しの飴売り六造、
莨売りの弥十、足の不自由な母おしのと通い女中のお袖
の母娘、(古金屋)という金物回収業の千次郎、畳屋の
吾助と幸介、おなかの娘夫婦家族、扇職人の勘助、家に
長いこと帰ってない魚屋の市助。

さて物語は、源太が若い男の土左衛門(水死体)を発見
してスタート。番太の万吉に知らせに行って、次いで、
証源寺の忍専にも報告に行く源太。

源太の父、辰吉は師匠の師匠に腕を褒められ臨時ボーナス
もいただきます。一緒に帰ってきた左官の熊吉夫婦も呼ん
で今夜は鍋だとゴキゲン。

古金屋の千次郎は、なんでも五千石の旗本の次男だったの
ですが、気が弱く自分には務まらないと出奔します。

おしのの家に、菓子屋(楓庵)の主、卯助が使用人を連れて
やって来ます。なんと卯助がお袖を嫁に欲しいというのです。
ですが、卯助はもともと綿問屋の息子で、なんやかやで菓子
職人になります。器量は人並みのお袖のどこが気に入ったのか、
さらに足の不自由な母も引き取って生活するとあまりにうま
い話で、おしのはおきん婆さんに調べてもらうことに。

卯助が持ってきたお菓子を長屋の住人に配るおしの。扇職人
の勘助は「証源寺に持ってってやるよ」と出かけます。
忍専和尚は勘助に「昔とは縁が切れたか」とたずねます。
勘助はじつは「夜風の伝造」という盗賊で、今は足を洗って
ますが、寺から帰るときに、「おや、あれは夜風の伝造じゃ」
と見た男が・・・

ここから、なぜか町奉行が動くような大事件に発展。勘助も
忍専も、近所の寺子屋の先生、柴田研三郎も協力することに。

そっちの一件が済んだと思ったら、今度は長いこと留守にして
いた市助が血まみれで帰ってきて・・・

以前読んだ半村良さんの「湯呑茶碗」という作品がありまして、
こちらは東京のマンションが舞台となっていて、時代は違いま
すが、集合住宅の日常という行動範囲の狭い設定ながら奥行き
のある話という点では共通してますね。

勉強になったのは(割り長屋)と(棟割り長屋)の違いで、
割り長屋は一棟を横に割って、表玄関と奥にも出入口がある
タイプで、棟割り長屋は一棟をまず縦に割って横に割る、つ
まり出入口は表のみで、反対側の部屋と背中合わせになって
います。家賃は割り長屋のほうがお高めになっていたそうです。

あと、文中に登場した菓子屋の卯助は実家を勘当されていますが
これは「裏勘当」だった、というもの。
そもそも本当の勘当の場合は町奉行に報告して、奉行は「勘当
帳」に記載しなければなりません。で「帰ってきていいよ」
となると勘当帳から名前が削除され、これが「帳消し」になり
ます。「裏勘当」とは、町奉行に報告していない、軽めの家出
ってことですね。
コメント
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