晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

浅田次郎 『椿山課長の七日間』

2013-01-12 | 日本人作家 あ
このブログをはじめたのが4~5年前、それまでは本を読む習慣が
無く、年間にせいぜい1,2冊読めばいいほうだったのですが、その
頃、「あの小説が映画化」という情報を知ったりして、映画を観る前
に原作を読みたいなと思っても、書店に平積みされた本を手にすると
ミーハーみたいに思われるのがちょっとイヤだった(ただの被害妄想)
のですが、まあ最近はそんなことはどうでもいいので、手当たり次第に
まだ読んでない作品を読みふけっております。

映像化される作品が多ければ良い小説家というのは根拠がありませんが、
逆に言うとつまらない作品は映像関係の人は見向きもしないので、なんでも
いいから小説を読んでみたいという人には、とりあえず映画・ドラマ化した
原作から読んでみる、そういう指標もアリですよね。

都内のデパートに勤務する椿山。肩書きは課長。高卒入社では比較的早い
出世ですが、今の上司は大卒入社のかつての後輩。
婦人服売り場の担当ということは、いわばデパートの花形で、椿山は、
恒例のバーゲン企画に奔走します。

バーゲン初日は売り上げ好調で、その夜、業者との食事に出かけた椿山は、
突然体調を崩し、そのまま意識が・・・

気がつくと、なにやら気持ちの良い場所を歩いています。しかし、自分を
含めて、みんな”どこかに向かって”います。
たどり着いた場所は、役所か学校みたいな建物。そこで椿山は、自分が死んだ
と悟るのです。

しかし、バーゲンの売り上げは?それよりも、自分がいなかったら婦人服売り場
はどうなる?あの部長じゃダメだ・・・
それよりも、妻と息子、それとボケて施設に入所している父は・・・

最近の「冥土」は、よほどのことがない限りは地獄行きは免れるそうで、椿山は
ストレートに極楽に行けると思いきや、講習を受けろと言われます。
その講習とは「生前、邪淫に溺れた人」が受けなければいけないのですが、彼には
まったく身に覚えがありません。

しかし、その講習で、椿山は、デパートの同期入社で佐伯知子という女性と、長い
間つかず離れず、いわば「都合のいい関係」で、それはお互い承知の上だったのに、
それが「邪淫」と判定されたと知るのですが、納得できず、椿山は講習を終えても、
悔い改めれば極楽に行ける”反省ボタン”を押そうとしません。

この役所では、「相応の理由」があれば、死んだ日から数えて七日間だけ生前の
世界に戻れるシステムがあり、椿山はお願いします。
自分の他にも、少年と、カタギには見えない中年。この3人が「生き返る」ことに
なるのですが、生前の自分とは真逆の人間という設定にさせられます。
しかしこれには厳しい条件が。復讐の禁止、正体を名乗るのも禁止、さらに、時間
厳守。「死んだ日から数えて七日間」ということで、ご臨終から葬式その他もろもろ
あって、残り時間は3日だけ。

椿山は、30代後半のすごい美人、フリーのスタイリストに。名前は仮名で「カズヤマ
ツバキ」にします。

自分がこの世にやり残したこと、バーゲンの最終売り上げを知ること、家族のこと、
それと、自分が「邪淫」の烙印を押された佐伯知子との真相を知ること。
しかし椿山は、知らなければよかったという”事実”を知ってしまい・・・

いっしょに生き返った中年の武田は、生前はヤクザで、薄れゆく意識の中でハッキリ
と覚えているのは、自分は人違いで殺されたということ。
「ひゃー、あかん、人違いや、まちがっていてもうた」
発泡した男は、関西弁で叫びます。武田は関西系のヤクザはおろか、誰からも恨まれる
ようなことはしておらず、殺される直前にいっしょに食事をしていた兄弟分の3人のう
ちの誰なのか、武田は調べることに。

それと、残してきた子分たちのその後も気になります。

もうひとり、生き返った少年は、なんの目的で「相応の理由」で戻ってきたのか・・・

読んでる途中からもう涙、涙です。ヤクザである武田の話は、浅田次郎の本領発揮
といったところでしょうか。

いろんなエピソードを織り交ぜて、それらが最終的にきちんとまとまった話になる、
この人の作品を読めば読むほど、プロデュース能力に感心します。
コメント
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