晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

馳星周 『マンゴー・レイン』

2011-08-30 | 日本人作家 は
馳星周の作品をいつも読み終わると、ああ恐かった、
もうこんな類の本は読みたくないな、と思うのですが、
本屋で、あれ、これまだ読んでないや、買っとこう、
という具合に、性懲りもせずまた恐い思いをして読ん
でしまいます。

「不夜城」シリーズは新宿が舞台でしたが、この作品
の舞台はタイのバンコク。微笑みの国、なんて評される
この国で、どんな闇黒ぶりが描かれるのか。

十河(そごう)将人は、外見こそ日本人ですが、彼の
生まれはタイ。タイに移住してきて事業につまずき、
何かというとタイの悪口を父親から聞かされて育ちます。

将人は、ギャンブルで身を崩し、日本へ行き、妻を風俗
で働かせ、挙句、妻はエイズで死んでしまい、生きる糧
を失った将人はタイへ戻って、女性を日本へ売る、いわ
ば「人買い」をやって食いつないでいる状態。

ある日、幼馴染みの富生から、女をシンガポールまで運ぶ
という、簡単な割には報酬の高い仕事を頼まれます。
しかし、待ち合わせ場所の店にその女は現れず、店員から
伝言をもらい、別の場所へ。また女はいなくて、また伝言。
そんなゲームじみたことを繰り返していると女から連絡が。

なんとか会うことができたのですが、女はある仏像を手に
しています。仏教国のタイでは、仏像はかんたんに国外に
持ち出すことはできず、どうやらかなり危ない仕事を押し
つけられたと将人は思います。

その予感どおり、車で移動中、誰かが尾行していると気付
きます。さらに尾行どころか、襲われそうに。命からがら
追っ手を撒くのですが・・・

仏像を追う謎の集団は誰で、なぜそこまでして仏像を奪い
たがるのか。

誰を信用していいのか分からない将人と女。女は子供の頃
に騙されて中国から連れてこられ、売春婦にさせられ、そ
こである老人の客を相手にしているときに、仏像を手渡さ
れます。売春宿のオーナーは仏像を欲しがりますが、女は
今が脱出のチャンスと思い、仏像を「人質」にして逃げ出
します。

どうやら追っ手は、富生の関係しているグループと知り、
将人はわけがわからなくなります。
誰も信用できない状態で彼らはバンコクから出られるのか・・・

相変わらずといっていいのか、欲に目がくらんで自分らで
危ない状況を作り出していく、そんな主人公のキャラ設定。

といってもマンネリ感は無く、スピーディーな展開、街の
(特に汚れた感じの)描写などは素晴らしいですね。
そして何よりも、スタッカートと休符が多い楽譜のような
文体。これが馳星周の独特な世界。

「マンゴー・レイン」とは、この地方で呼ばれる雨季のス
コールのこと。過去も汚れもきれいさっぱりに洗い流して
くれればいいのに、そうは問屋が卸さないんですね。
コメント
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