晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

山崎豊子 『大地の子』

2011-05-21 | 日本人作家 や
山崎豊子の作品はこれで2作目。はじめて読んだ「沈まぬ太陽」
には衝撃を受けまして、読後、いろいと考えさせられて、しまい
には頭がぐわんぐわんしてしまったのですが、この『大地の子』
もそうなること請け合い。
だいぶ前にNHKでドラマ化されましたね。小劇団の役者だった
上川隆也がこれで映像デビューしたんじゃなかったでしたっけ。

話は、第2次大戦の満州からはじまります。大日本帝国による
傀儡政権により誕生した満州国、日本から数多くの人が満州に
渡ります。
その中には、当時の政府の政策で、上役に頼み込まれて、仕方
なしに渡ったという人も少なくなかったようで、特に地方の
農家では「口減らし」の一環も。

「まさにパラダイス」といわんばかりの宣伝文句に誘われて
入植したものの、世界史の基礎知識でご存知のとおり、日本は
戦争に敗れます。終戦の1週間前、ソ連軍が満州に侵攻。満州
に駐留する関東軍はソ連の侵攻をあらかじめ知っていたにも
関わらず、国民を置き去りにして逃亡、しかも、追いつかれない
ように、逃げる先々で線路や橋を破壊するといった“手の込み
よう”。丸腰の、ほとんどが農業従事者は、いわば人間の盾に
させられます。

捕まれば射殺。殺されなくとも強制収容所行き。松本一家も
そんな中にいて、長男の勝男と妹のあつ子は生き延びますが、
ほんの子どもが日本まで帰れるはずもなく、こうやって、戦争
の悲劇「中国残留孤児」が生まれるのです。

人買いによって妹と離された勝男は、貧農に買われて、家畜
同然の働きを強いられます。勝男はそこから逃げて、ある教師
に助けられ、そこから“陸一心”という名前で育てられていく
のです。

「小日本鬼子」と苛められますが、中には一心の人間性を認めて
くれる中国人もいて、彼は育ての親である陸徳志、淑琴の夫婦の
おかげで大学まで行かせてもらうのです。

卒業後、工場に就職した一心。しかし、ふたたび彼に不幸が訪れ
るのです。時は文化大革命の真っ只中。一心はいわれのない罪で
収容所送りとなってしまうのです・・・

出自を恨むときもあれば、収容所で出会った日本育ちの華僑に
「自分の故郷の言葉を知らないのは恥」と言われて、自分の心
の中の“日本人”をつなぎとめます。
しかし、そのせいで辛酸をなめ続けられて生きてきたのもまた
事実であり、なんとかして一人前の中国人だと認めてもらいたい
とも思うのです。

松本勝男こと陸一心は、生き別れた肉親と会える日は来るのか。
彼は生きて忘却の祖国の土を踏めるのか。

満州国からの引揚げ者たち有志が、残留孤児の家族を手弁当で
探し回ります。本来であれば政府の仕事なのですが、時の政府は
棄民政策の責任を取ろうとしません。
「守るべき国民を人間の盾にしてまっ先に逃げた軍人には恩給が出てる」
と引揚げ者が憤る一文に胸が締め付けられます。

そして、表題である『大地の子」の意味が重く、深いですね。
コメント
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