晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

フレデリック・フォーサイス 『オデッサ・ファイル』

2011-04-04 | 海外作家 ハ
フォーサイス好きとしては、前々から気になっていた作品
で、まだ読んでないのにフォーサイス好きと言うなんざ10
年早いなどとお叱りを受けそうですが、まあそれはともかく
として、ようやく『オデッサ・ファイル』を読むことに。

タイトルからして、ウクライナにある黒海沿岸の街を想像
していたのですが、冒頭から「本書のタイトルに使われて
いるオデッサ(ODESSA)とは、南ロシアの町でもな
ければ、アメリカ、テキサスの田舎町でもない」と説明が
あり、むむ、と。

これは、元SS隊員の秘密組織のイニシアルをつなげた
造語ということだそうです。
ところでSSとは、第2次大戦の小説や映画ではたびたび
登場する、ナチスドイツ時代の軍隊の一部で、彼らが忌み
嫌われるのは、その“仕事”とは、スラブ系、障害者、
コミュニスト、ナチスを批判する社会階級などを文字通り
「片っ端から」捕まえて“処分”すること。
中でも最大の被害に遭ったのがユダヤ人だったのです。

この物語は、第2次大戦でドイツが敗戦したそのどさくさ
にまぎれてSS幹部たちは逃げおおせて、その後東西ドイツ
分断となり、逃亡先のエジプトや南米からその残党が指揮を
とり、西ドイツの政財界に潜り込み、ふたたび第3帝国樹立
の夢を叶えようとする「オデッサ」と、その組織の実体を
暴こうとし、さらに彼らの計画をストップさせようとする
ルポライター、という話。

ドイツ北部、ハンブルグに住むルポライター、ペーターは、
郊外に住む母の家から自宅に戻ろうとして、知り合いの警官
を見つけます。話を聞くと、ユダヤ人の老人が住まいで自殺
したということで、あまりネタにならないとペーターは思う
のですが、後日、知り合いの警官から連絡が入ります。
その老人が持っていた遺書のようなものがあり、それを警官
はペーターに託すというのです。

さっそくその遺書を読み始めるペーター。そこには、ナチス
ドイツがしでかした、あまりに残酷で恐ろしい出来事が仔細
に書かれていて、自殺した老人は収容所の数少ない生き残り
であり、なんと、その老人がいた収容所長でSS隊員を、
つい先日ハンブルグ市内で見かけたというのです。

しかし、自分にはどうすることもできないと悲観し、その
老人は自ら命を絶った、ということだったのです。

戦後、西ドイツで生まれ、西ドイツで教育を受けてきたペーター
にとって、ナチスの大罪は風化してはならないとは分かって
いても、思い出したくない、できれば触れたくないというの
が本音なのですが、この遺書を読み、ペーターはロシュマンと
いうSSの生き残りを捕まえて裁判にかけると決心します。
さっそく、知り合いの雑誌編集長にこの遺書を掲載してくれ
とお願いするのですが断わられ、警察に戦争犯罪人の捜査や
逮捕の詳しい方法を聞くも、彼らはみな乗り気ではありませ
ん。

そして、調査を続けていくうちに、ペーターはある組織と
コンタクトを取ることに、その組織とは、ユダヤ人で結成
された、ナチスの生き残りを探し出すという活動をしていて、
さっそくウィーンにあるオフィスに向かったペーターは、
そこで「オデッサ」の存在を聞かされ・・・

じっさいに起こった出来事を文中に紛れさせ、その他の創作
部分があたかも“本当なのではないか”と錯覚してしまう、
フォーサイスマジックが発揮されています。
まず、ペーターが老人の自殺現場に出くわすその日は1963
年11月22日。ペーターは運転中、カーラジオでアメリカ
大統領ケネディの暗殺を臨時ニュースで知ります。

中東戦争でイスラエルの(肩を持った)ケネディ大統領の暗殺、
西ドイツの当時の政権もイスラエルへの武器輸出を認めていて、
これが「オデッサ」との関わりをうまいこと絡ませています。
コメント (2)
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