晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

加賀乙彦 『海霧』

2009-04-14 | 日本人作家 か
加賀乙彦の小説は、『宣告』を読んで、これが2作品目になる
のですが、両作品とも、読み終わったあとにハッピーになれる
といったものではありません。

いや、つまらないというわけではなく、読みにくいわけでもあ
りません。ただ、何というか、晴れのような爽快でも、雨嵐の
ような辛苦でもなく、ずーっと曇り。そんな感じ。
そう、まさにタイトル『海霧』なんです。

東京で心理療法士として働いていた女は、恋と仕事に破れて、
北海道の東部、小さな町外れにある精神病院に転職します。
その病院は、医師や職員は白衣や制服を着ず、患者は閉鎖さ
れた病室に隔離するのではなく、開放的に、しかもなるべく
自分のことは自分でやらせるという方針で、そこの院長は、
冒険者でギャンブラーという変わり者。
そこで、患者の家族の男との出会いがあり、仕事も充実して
きて、女はふたたび人生を前向きに考えるのです。

道東と文中にはあるだけで、どことは説明してありませんが、
小さな町、汽水湖や湿原、そして住民や病院職員で刺激に飢え
た人は電車で釧路まで行き映画を・・・、とあるので、おそら
く、厚岸ではないかと。

『海霧』とは、地元の人は「ジリ」と呼び、文字通り海から陸
地にせまってくる霧で、辺り一面乳白色に包まれ、冷気を帯び、
これにより道東は夏でも朝にストーブがほしくなるほどで、こ
の地域は農業に適さないとのこと。
住民もどことなくこの海霧に影響されてか、明るく希望に満ち
溢れている人は見かけられません。陰気。ネガティブ。
地場産業は水産業ということになりますが、あまり豊かではな
く、漁場の養殖を巡って争い、あまり穏やかではありません。

こんな雄大な大自然に抱かれていても、やはり都会同様、人間
関係のごたごたは付いてまわります。これらに辟易としながら
も、それでも前を向いて生きてゆかねばならない。
ちょうど今の日本、いや世界じゅうがこの「海霧」に包まれて
いる状態のような気がしましたね。
コメント
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