rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

現代医療の問題点の整理

2010-05-16 16:52:25 | 医療
現在の西洋医学の現状を問題点も含んで列挙すると

1) 急性疾患は治るが慢性疾患は治らない。
2) 急性疾患の治療は格段の進歩がある。しかし高度医療になるほど医療費は高騰する。
3) 慢性疾患は治らないので治療は予防医学(慢性疾患にならない予防、なっても合併症がおこらない予防)にシフトしつつある。
4) 薬剤先行(薬ができてから治療を考える)になりがちである。
5) 生命科学の進歩により移植、透析、遺伝子治療、不妊治療といった本来人間が持つ治癒力を超えた医療(神の予想を超えた医療)が行われつつあり、恩恵を受ける当事者には喜ばしいかもしれないが、将来を含む人類全体に良い結果をもたらすかについて議論されていない。

といったことがあげられると思います。

以上のことをふまえて私見を述べますと。急性疾患に対する医療の進歩が著しいことは異論がないと思います。診断治療の技術進歩により2-30年前ならば諦めていた病態が完治とはいえないまでも日常生活ができるまでに改善されるようになり、平均寿命も延びてきています。一方で糖尿病や高血圧などの慢性疾患は、見かけの検査値を正常化する薬はありますが、疾患そのものを治す薬はありません(原因によって一部外科治療で治るものもありますが)。慢性疾患の進行によっておこる合併症は急性疾患ですから、例えば心筋梗塞などはかなり救命率がよくなっていますが、結果として慢性疾患をかかえた患者さんがどんどん増えてゆくことになります。

そこでメタボ検診の普及に象徴されるように慢性疾患にならないための「予防医療」というものが推奨されるようになってきました。「慢性疾患にならないように日常の食生活に気をつけましょう」と言っているうちは良いのですが、「検査値異常を正常化させるためにこれこれの薬を飲みましょう」という商売になってくることが問題なのですね。

薬によって検査値は確かに正常になります。薬の効き具合は自然科学ですから正規分布に従って効果が出るのだろうと思いますが、「合併症の予防に効果があります」ということになるとかなり詐欺的手法が使われることになります。

例えば1000人に2年間ある薬を飲んでもらい、偽薬(プラセボ)を飲んでもらった人と比較した所(前向きのランダム比較試験と言って客観性を担保する一般的方法)、心筋梗塞の発症が偽薬内服群は20人だったのに薬を飲んだ群が10人だった、とします。するとこの薬は心筋梗塞の発症を50%抑える良い薬だ、という結果になります。これを客観的エビデンスに基づく医療(EBM)と言い現在医療を語る上では金科玉条です。しかし考えてみて下さい、効果があったのは100人に一人で残りの99人は無駄に薬を飲んだ上に一人は心筋梗塞にもなっている訳です。本当にこんな薬、100人が金を出して飲む必要があるでしょうか。

今はやりの骨粗鬆症の改善薬も骨粗鬆症が治るのではなく、飲んでいると骨折のリスクが統計的に減るというだけです。予防医療というのはそのようなものだと国民が理解し、納得の上で医療費を払っているのならよいのですが、そのような議論が国会でされたことはないと思います。

また末端の医師や国民が余計な疑問を持つことがないように現在は学会が決めた「治療ガイドライン」とか「標準治療」といったものが花盛りで、これに沿って医療を行っていればどこからも文句がでないようになっています。逆にこれにそっていないと「やぶ」だの「勉強不足」だの下手して合併症でもおころうものなら「行うべき治療をしていなかった」として訴訟問題にまでなります。だから医師は「本当に必要かな?」と疑問を持っても、学会が決めた「推奨グレード」に沿って薬を患者に処方することになります。

薬先行については、例えば過活動膀胱があげられるでしょう。尿意が強くなって失禁してしまうような強い尿意切迫感を伴う頻尿を「過活動膀胱」と言うのですが、これはマスコミでは最近よく取り上げられますが新しい疾患概念であって実は頻尿に効く新しい良い薬剤ができたからそれを効果的に販売するためにイギリスの医師が考えだしたものです。過活動膀胱の病理組織学的定義はなく、解剖生理的状態も見つかっていません。なぜならこれは症状に付けられた名前であって前立腺肥大症のように病態がはっきりと病理的に定義されたものではないからです。それでもこの薬は頻尿に効くことは確かなので悪いことではないのですが、「薬先行」の良い例と私は思います。他にもメタボ関連の薬などどうも薬先行で検査値の正常値を薬が売れるように変更しているのではないかと思わせるようなものがあるのではないかと危惧します。

「神の予想を超えた医療」については以前にも言及していますので(http://blog.goo.ne.jp/rakitarou/e/7c43d4eea8133f73e5014129f9cf8c0c?st=1)項を改めます。

私は急性期医療を扱う医師は常にリスクを負っているし技術の習得も大変で医師自身の生活の質も悪く給与も安いと感じています。だから日本ではそのような医療を担う医師が減少しているのです。医師不足対策や医療費をどこに重点をおいて配分するかといった答えは既に出ていると思いますが。
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