ロシアのウクライナ侵攻は3週目に入って少し休戦協定への道筋が見えてきたように感じます。日本を含む欧米大手メディアは相変わらず「ロシア・プーチン悪」「ウクライナ頑張れ」「ロシアに制裁を」「ウクライナに支援物資を」というトーンで統一されているので本当の状況は良く分からないのですが、大きな流れを見るとどのような方向で出口に向かっているか少し解るように思います。陰謀論的には、欧米はエリツイン時代のロシアオリガルヒを追放し、ウクライナの欧米と連携した財閥を邪魔するプーチンを失脚させたい、ついでに戦争を長引かせてロシアの国力をできるだけ削いでしまいたいと考えます。犠牲になるのは一般のウクライナ人とロシア兵、ロシア国民なので欧米の経済も影響を受けて停滞しますが、後からその分上前を撥ねる予定の「超富豪たち」にとっては痛痒を感じません。ロシア・プーチンとしては、早急にウクライナから欧米に支援されたネオナチ・パンデラ派を駆逐して、親ロシアの政権を樹立させたいと狙っているでしょう。以下にこの思惑を踏まえた紛争の流れを示します。
3月11日時点の侵攻状況(NY timesから)
I. 核実験施設、生物研究施設をまずロシア軍が確保した意味
侵攻早期にまずハリコフ等で核実験施設やウクライナ各所の米国から経済支援を得て細菌兵器の実験を行っている生物研究施設を攻撃・確保したニュースが流れました。WHOは施設外に公衆衛生上危険なウイルスなどが漏出することがないよう処分を促す異例の勧告を出しましたし、米国議会でもロムニー議員がビクトリア・ヌーランドに研究施設の安全性を問いただす質疑が行われたと報道されました。ウクライナ核実験施設では中性子爆弾や戦術核について研究している疑惑もロシア側から出されており、これらの動かぬ証拠をつかまれて国連の場で公にされることは米国としては避けたい所でしょう。ロシアが偽旗の生物化学兵器を使って来ると慌てて騒ぎ出した理由は、欧米側にかなり不利な秘密が握られる恐れがあるという事だと推測します。米ロが交渉を始めた背景はこれらの証拠を公にしない代償として、ロシアに有利な休戦協定を結ぶためと推測します。
WHOも異例の勧告というニュース
II. 「非ナチ化」という条件
日本人は理解できませんが、ロシアがわざわざ明文化した「ウクライナの非ナチ化」というのは、欧米にとって受容する以外ない条件です。ナチを公に養護することは法律で禁じられているからです。米国がウクライナのネオナチを手なずけて「反ロシアの政権」を2014年の政変以降作り上げてきましたが、「非ナチ化」という条件は「どうぞ」という他ありません。元々米国はウクライナのネオナチをいつでも捨てられる「鉄砲玉」として利用しているだけですから、今回の件で思惑通りに行かない時には初めから助けるつもりは毛頭ないと思われます。それをロシアが解っていて「非ナチ化」を明言したのです。
現在ウクライナ正規軍は殆ど機能しておらず、主に都市に立て籠もって市民を盾にして抵抗しているのはパンデラ派のネオナチ・アゾフ大隊の1-2万人とシンパの民兵たちと思われます。ロシア軍は度々人道回廊を作って盾となっている市民を市外へ誘導し、残りは無差別攻撃で一機に殲滅(味方の被害も少ない)できるネオナチのみにしようと時間をかけて準備しています。西側と抵抗勢力は何とかそれを食い止めて、「市民は抵抗を諦めない」「ロシアが避難を妨害する」などと紛争を長引かせる画策をしています。
ロシアはシリアにおいて、ISISなどの凶悪な反体制派をアレッポからイドリブに逃走させて封じ込め、殲滅を試みました。同様に始末して良いネオナチとシンパのみを都市に残して殲滅させる分には欧米も文句は言えないという事を見越しているのです。当然欧米に逃げる場所がなく、殲滅させられる運命のネオナチ達も必死です。(参考:モスクワのシリアルール J.Jefferey)
ネオナチ・アゾフ大隊の集会
III. ウクライナ側が善戦(ロシア苦戦)しているという評価
紛争を長引かせたい欧米はウクライナ側が闘争心旺盛に応戦していることを第三者的に喜んで「なかなかやるね。」と応援を送っているようです。米軍の幹部たちによる戦況分析で公になっているサイトなどの記事では、以下の様な分析がありました。(rakitarouの抄訳)
米国の国防高官が開戦2週間で今後のNATO戦略を考える上で学んだ3つの教訓
教訓 1. 補給は必須である。 戦争においてロジスティクス(後方支援)の重要性は第二次大戦以来ずっと重視されてきたが、今回のロシア侵略においても補給の途絶が余りに大きな損害をロシア軍に与えたことが分析上分かった。
教訓 2. 古典的テクノロジーの有用性。 絶え間なく移動しながら抵抗するといった古典的手法が意外にも最新テクノロジーを出し抜く事が再度確認された。
教訓 3. ヒトの問題が依然として重要。コンピューターのシミュレーションモデルでは3-4日で型がつくとロシアのウクライナ侵攻を予測したが、そうならなかったのはやはり抵抗するヒトの闘争心が勝敗を決める重要なファクターとなることを改めて認識させた。
SNSなどで公開されている画像やニュースを丁寧に分析してロシア・ウクライナ双方の損害を集計したOryx blogという軍事ブログがあり、米軍も公的な分析に利用している(完全に正確でないことを承知の上で)のですが、3月初旬までのアップデートによるクリミア、ドネツク、ハリコフ、キエフ4正面の戦線におけるロシア・ウクライナ双方の損害集計はざっと以下の表になります(rakitarouまとめ)。
一般に攻撃は防御の3倍の兵力を必要とする(損害も同様に出る)とされますが、ざっくりと損害比率はその通りになっている、むしろウクライナ軍健闘と評価できる内容です。初戦で露軍苦戦というニュースはこれらの集計から出ていたものと思います。しかし損害内訳をみると、ロシア軍に放棄や鹵獲(運航不能で乗り捨て)が異常に多いことが解ります。つまり(1)で米軍将官たちが分析したようにロジが機能していないという事です。戦車や歩兵戦車の破壊が多いのは高性能とされる携行対戦車誘導弾シャベリンなどが活躍したからという分析は正しいでしょう。補給列車や海軍艦艇の損失は個々の車両1台に比べて大きな損失と言えます。尚、兵員の損失(戦死)が米軍推定でロシア4-6千、ウクライナ1200-1300というのも兵器類の損失結果と見合う様に思います。
IV. 今後の展開予想
(1)開戦前の要求で落ち着く
ウクライナ中立化、クリミア半島領有化承認、ドンバスの独立承認、親ロシア政権化を合意する事でロシア軍が撤退する可能性も0ではありません。元々プーチン大統領の要求はこれでした。ロシアの困窮状況、西側諸国の対応によってはこの内容で落ち着くと思いますが、戦争が長期化して双方の損害が大きくなるほどどちらも妥協しにくくなります。鉄砲玉のネオナチを早期に殲滅できれば親ロシア政権の確立も容易になります。
ウクライナ東半分をロシアが占領した境界の図(Ben Connableの分析から)
(2)東ウクライナ共和国?
ジョージタウン大学のBen Connable教授はウクライナ情勢の分析からロシアがウクライナの東半分を占領した場合を想定したシミュレーションを発表しています。氏によると米軍のイラクなどの経験から、ロシア軍の90%を投入しないと東ウクライナの治安と国民生活を維持することは困難、としていますが、元々同地域はロシア語話者圏で、下図の様に2010年の選挙でも親ロシアのヤヌコビッチ氏に投票していた人が多い地域であり、意外とうまく統治できてしまう可能性もあります。西側諸国の了解とネオナチ勢力をどこまで追い出せるかによるとは思います。
CNNウクライナ特集から親欧州(チモシェンコ投票)とヤヌコビッチ投票地域の区分け
ロシア語を第一言語にする人達の住み分けもほぼ同様と言われる。