新型コロナウイルス感染症は感染力が強いオミクロン株が蔓延し、コロナ病床使用率が増加しつつあります。2月9日の全国平均のデータ(NHK調べ)では50%近くになっています。ここでメディアでは切実な医療ひっ迫について報道されるようになってきました。つまり「コロナ以外の通常の医療も制限が必要」とするものです。「病床利用が半分程度なのに何故通常の医療を制限しなければならないのか?」を解りやすく説明する報道があってしかるべきですが、一向にありません。「必要な対策を講ずるべき」といった漠然とした無責任な論説しか語られません。そこで医療の現場から何故ひっ迫が起こるかを説明します。
コロナ病床利用率全国平均(NHKサイトから)
日本の急性期病院は、厚労省の方針でこの10年病床を減らす事を強いられており、7対1看護(入院患者7名に看護師が1名付く)などの医療の質を確保するためには、ほぼ90%の病床利用率で病院を運営しないと赤字になるよう制度設計されています。現実には入退院の出入りや、救急患者の受け入れなどの余裕を持たせる必要があるので手術や検査を前提とした予定入院の患者さんで病床の80-85%を埋めて、10%程度の病床は救急治療の患者を受け入れる、全体の平均在院日数は10-14日程度になる(一月に2-3回ベッドが回転する)よう運営されています。ここで「2類感染症」のため一般病床に入院できない「新型コロナ感染症」対策として、各自治体は「コロナ病床」を確保するように、各医療圏の急性期病院に1月初旬に指示を出しました。それも患者数に合わせて逐次確保するのでなく、患者が多かったデルタ株の第五波に合わせてオミクロン用の第六波の病床数を初めから確保したことはメディアで報道される通りです。だから当初は病床利用率20%程度であった時期が続いた事は記憶に新しいと思います。結果「今度は批判されない様に早期から行政は病床を確保して対応した」と褒められました。
しかし下図に示す様に、病院側では10%程度新型コロナ専用に病床を取られてしまうため、使える病床が本来の90%に減らされてしまいます。しかも第5波以降、通常の医療を必要とする患者さんが戻り、前回ブログでも示した様に進行癌の患者さんも増加し(これは全国的な傾向の様です)、どの病院も目いっぱい医療を行う必要が出ています。すると、どの病床を減らさざるを得ないかというと、予定入院ではない救急患者や緊急入院用のベッドを減らす他ないのです。入院が必要な救急患者を半分断っても、図に示す様に病院のベッドは満床が続きます。私の病院の医療圏でも多発外傷の救急患者が近隣の病院が全て満床のため、高速で1時間かかる遠方の病院に搬送される事例がありました。「救急患者が入院できない理由」はここにあります。
何故急性期病院で医療ひっ迫か
では救急患者を受け入れるために、通常の医療を制限すべきか。
本来「急性期病院」で行う医療は「不要不急」であるはずはないのです。「あなたの病気はしばらく治療しなくても良いです。」というものなら既に病気ではないと言えます。ならばどうするのが解決になるでしょう?
2類を5類(インフルエンザと同様の感染症)にする。コロナ狂騒曲の演奏を止める。
最近他国では「コロナの制限を止めて通常の生活に戻す」という動きが、感染者が大量に出ている最中でも出てきました。日本でも「出口戦略」などという言葉がにわかに話題になり始めています。特別病床が必要な2類感染症扱いを止めて、私が以前から主張するように、インフルエンザと同様の5類感染症として保健所の手を離れ、各医療機関の連携で医療を行ってゆく、「必要に応じて各病院でコロナ感染症患者を入院させる。」というまっとうな医療対応を行えば、50%の遊んでいるコロナ病床に救急患者を受け入れて適切な救急医療を行うこともできますし、病状に応じて他の病気の患者を常識的な優先順位を付けて治療を行ってゆくことも可能になります。何故か未だに「コロナ踊りを止める」事を極端に嫌う人達が一部(医療者にも)にいる事が問題なのです。これから「一日百万人にワクチン接種」などと言いだしている政治家もいます。残念ながら「世の中にはコロナしか病気がない、コロナ対応さえしていれば他の病気で助かる国民が何人死のうが知ったことではない、メディアもコロナさえ論じていれば批判しないし」という現実があります。
カナダやフランスで道路を封鎖しているトラック運転手たちの方が、コロナ踊りを続ける人達よりも「よほどまともな神経」をしていると私は思います。