rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

天寿癌と癌治療

2009-10-21 13:06:44 | 医療
秋は学会のシーズンと言われて、私も内容の高低はともかくそれなりに学問らしく見えるよう学会発表をまとめたりして多忙でした。今回私の専門である泌尿器科癌治療のなかで新しい治療展開が期待されている進行腎癌の治療経験をまとめ、発表したのですが、海外での腎癌治療の新しい標準治療、或いは治療指針を日本に適応するにあたって果たして同じ内容で日本人に当てはめてよいだろうか、と言う問題が提起されました。

欧米、特にアメリカと日本の癌患者の違いは、人種差も去る事ながら超高齢者の癌患者が日本に多いという事実です。日本は世界一の長寿国ですから当然80代以降になってから初めて癌になる患者さんも沢山います。場合によっては90歳を超えてから初めてなる方もいます。そのような場合、5-60代の癌患者と同じ治療指針が適応になるとは言えないのは当然のことと思います。

天寿癌という概念があり、これを提唱された癌研究会癌研究所北川知行前所長は「さしたる苦痛なしに、あたかも天寿を全うしたように人を死に導くがん」と定義し、天寿癌の直接死因は「一様ではないが、食欲減退から衰弱が進行するケースが最も多く、自然死に近いように見える」と述べておられます。天寿癌は一般的に、女性90歳、男性85歳以上の癌を指すようですが、現在私の病院に入院されている患者さんも90歳以上の方も何人かおられて癌そのものの苦痛よりも高齢から来る体力低下や活動性の低下が大きいため積極的な治療も行わずに苦痛のみ緩和する、いわゆる対症的な治療が主体の方もおられます。

日本の癌治療を欧米と比較することがマスコミは好きで、特に日本が遅れていると批難して国民に医療不信を植え付けることに熱心な輩が多いと普段感じますが、日本独自の癌治療のありかたなどを深く考えさせるような番組は造れないものでしょうか。日本の医療は進んでいるからこそ日本は長寿国なのであり、増え続ける高齢者達がいつかはかかる癌に対して中高年と同じ対応ではなく、天寿というものを考慮した癌治療のありかたを皆で考えてこそ後期高齢者の医療や介護のあり方、医療費の使い方や国とのかかわりといったことの議論が進むように思います。
コメント
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