Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

最新の統計学、知ってますか?

2015-01-23 18:14:42 | Weblog
統計学を学び始めてから長い年月が経つ。最初の頃は回帰分析や因子分析、マーケティング・サイエンスに傾倒してから離散的選択モデルを学んだが、SEM、機械学習、MCMCなどの流行には及び腰できた。自分の問題が旧来の手法で解けるなら、それでいいだろうということで。

一方、回帰分析や分散分析など、伝統的な統計手法の周辺でも着実に進歩は起きていた。マルチレベル分析がまさにそうだ。多くの統計パッケージに実装されており、少なくとも心理学周辺では、かなり使われているらしい。検定力とか効果量とかの話題も、そうかもしれない。

手法が進歩するのはよいことだが、解説書がなかったり、あっても難しければなかなか手がでない。だが、コンパクトで分かりやすく書かれた教科書が出てしまうと、逃げる口実がなくなってしまう。それがまさに、南風原先生の新著なのだ。この事態を喜ぶべきか悲しむべきか・・・。

続・心理統計学の基礎--統合的理解を広げ深める (有斐閣アルマ)
南風原朝和
有斐閣

実は、前著『心理統計学の基礎』を教科書として用いたことがある。現在の職場での最初の2年間に行った、1~2年生向けの統計学を講義においてである。回帰分析を中心に、ベクトル表現を駆使した「目からウロコ」の説明が展開され、教える側としても、非常に勉強になった。

その続編である本書は、前著のように基礎固めではなく、最新手法への誘導を狙っているので、難易度は増している。とはいえ、数理への偏愛に走ることなく、あくまで心理学(そして広く社会科学全般)への適用に関心を持つ読者を念頭に、手法のロジックを丁寧に説いている。

統計学の教科書の1つのタイプは、難しい話には極力触れず、何が入力で何が出力か、それをどう解釈するを分かりやすく解説する本だ。最初にそれを読むことは悪い選択ではないが、読者によっては、それだけだと本当は何をしているのか分からず、不安に感じるようになる。

もう1つのタイプの教科書は、じっくり読めば、基本的な論理がかなりの程度理解できるようになる本だ。しかし、そうした教科書を執筆できる人は、そうはいない。その数少ない一人が、本書の著者だ。あらゆる分野でそのような教科書が書かれると、救われる魂は多いと思う。