「マスネ:グリゼリディス = 20世紀初頭パリの ドン・ジョバンニ」だ
これまで新国立劇場内で上演された マスネのオペラ「ドン・キショット」、「マノン」、「ウェルテル」、「エロディアード」に比べると、面白おかしさが前面に立つ作品がこの「グリゼリディス」だ。マスネオペラの持つ抒情性、優美さだけでなく、「滑稽さ」の要素を持つ「オペラ・ブッファ」系列の作品。手本にした作品は明らかで、(オッフェンバックやシャブリエではなく)モーツァルトの「ダ・ポンテ3部作」で、「テーマはコジ・ファン・トゥッテ」「役柄設定はドン・ジョバンニ」。
第1幕後の休憩時に、「マスネにこんなに面白いオペラあったんだ!」とホワイエで話していた方がいたが、まさにその通り! それだけに演奏の難しさが各所に秘められている、と私高本は感じたが、どうなのだろうか?
全3幕にソロ&デュオで出っ放しの グリゼリディス=菊地美奈、悪魔=北川辰彦 の「清楚と滑稽の対比」が圧倒的説得力を有した
もてまくるのに貞操固いグリゼリディスの「セリア」風の装いと、狂言回しの悪魔の「ブッファ」風の笑いを取る役が、音楽的にも演劇的にも鮮やかに浮かび上がる。ドンナ・アンナ と レポレロ と言えば、判り易いだろうか?
2幕だけで歌う道化役の「悪魔の妻=フィアミーナ」羽山弘子 の北川との息の合ったコメディアンぶりも秀逸
この2名が登場する場面以外は「しっとりしたマスネ」に満ち溢れているのだが、中間楽章があからさまに笑い転げるスケルツォ楽章にしたマーラー交響曲かのよう。
ソロのある羽山晃生、上原正敏、辰巳真理恵 の3名も充実した歌を繰り広げ、日本初演とは思えない充実したソリスト陣だった。
光使いの鮮やかな 太田麻衣子演出 と 「真面目さとコミカルさ」対比が顕著な 飯坂純指揮
両方が綿密に積み上げてできた舞台だった、と私高本は感じる。楽日公演が今から待ち遠しくてならない。