パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

2つのトンネル 「高熱隋道」「闇を裂く道」 吉村 昭 5

2008-03-25 | 吉村 昭
吉村昭が「トンネル」を描いた2つの作品。

昭和42年(1967)刊行の「高熱隋道」は、昭和11年から15年にかけて電力供給を目的に作られた、富山県黒部渓谷の黒部第三発電所における900メートルの軌道トンネル工事の1年4ヶ月の記録である。
熱さと冬の寒さ・突風など、まさに300人の命をも飲み込んだ自然と人間の戦いをベースに、戦争と国家戦略という背景の中で、ここまでやるのかという記録文学である。
それから20年後、昭和62年(1987)に「闇を裂く道」を発表した。

これは大正2年に測量開始から昭和9年完成という16年もかけて完成した、東海道線のいわゆる箱根越えをトンネルで通す、約8キロの熱海と三島を結ぶ丹那トンネル工事の話である。
それを吉村は、維新直後の明治5年、品川横浜間の鉄道の歴史から始まり、第1次大戦の好況から、後の不況、大正12年の関東大震災、金融恐慌、昭和11年の2.26事件、そして大戦、昭和39年の新幹線開業まで、まさに激動の時代を背景も丁寧に関連付けることを忘れない。
もちろん、崩落事故や湧水との戦いという自然と人間という縮図はもちろん、水源豊かな土地が渇水に見舞われるという公共工事と住民生活という視点も取り入れて一気に読ませる。
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