古本屋

2009-10-24 15:14:11 | 

独立して設計事務所を構えて以来、古本が少しずつ手元にたまってきました。それらはほとんどすべて、自由が丘の駅近くに構える古本屋さんで購入したもの。
 種類は、画集や写真集が多いように思います。もともとは高価なものであったり、絶版になっているものだったり。あるいは記憶のどこかで探していた本だったり。古典的なものが好みの僕としては、本や画集が古びていること自体も好みだったりします。僕の好きな画家である有元利夫も、古典的なモチーフの絵画に古びた風合いをもたらそうと、画面や額縁に古色ある味付けをほどこしていたっけ。そんなわけで、僕の本棚も、シャープでスタイリッシュな建築作品集が並ぶというよりは、古びた画集や写真集、茶の本などに占められてきました。
 最近ではインターネットで古本も多く検索できますから、欲しい古書が決まっているときには便利な時代になりましたね。でも、古本屋に身をおいて、目的無く背表紙を眺めている時間というのは、いろいろなことに思いを馳せられるし、気になる本を足早に目で追いながら、自分の好みが自覚されてきたりもします。普段は自転車通勤の僕が、外出や雨の日に電車に乗る日だけ、事務所に向かう道すがらちょっと立ち寄るのが、ささやかな楽しみ。たいていは気になる本に巡り会うことはないのですが、これまで何度も衝撃的な「出会い」がありました。もともと美術関係を中心に力を入れている、昔からあるこの古本屋さん。密かに、自由が丘で僕が一番好きな店です。
 古本屋といえば、大学時代の卒業設計で、ある同級生が「古本屋」という題名で作品をつくっていました。学内でも群を抜いて優秀な人だったのだけれど、卒業設計ではギリギリ提出期限に間に合わなかったようで、評価の対象外になってしまったようでした。そのせいで、みんなの目に触れることがないままになっていました。その設計図面が、あるとき学校の廊下にポンと置いてあるのを見かけ、パラパラとめくって拝見させてもらったのでした。慎ましやかな造形のなかに、詩的なイメージの世界観がそっとつくりこまれていました。能力の差を多いに見せつけられてしまったのですが、素適な作品に引き込まれました。今では、どのような設計内容だったか判然とはしませんが、それでも断片的なシーンは覚えています。また、古本屋という存在が、こんな風にして残っていけばいいなと、そんな風にも思いました。自由が丘の古本屋さんに、僕はそんなイメージを重ね合わせているのかもしれません。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 菊乃井 | トップ | 日経ポケット・ギャラリー »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿