松本清張氏氏著『昭和史発掘-1』 ( 昭和53年刊 文春文庫 ) を、読み終えた。氏は、私の嫌いな共産党の親派だが小説は面白い。
『点と線』『ゼロの焦点』『砂の器』など、まとめて氏の作品を読んだことがある。推理小説、時代小説、歴史物など、なんでも手堅く書ける安定感のある作家だ。
小説でなく、ノンフィクションと呼ばれる作品を手にするのは、今回が初めてだ。
陸軍大将田中義一の陸軍機密費問題と、摂政時代の昭和天皇を爆殺しようとした朴烈の事件。そしてこれら二つを担当していた石田検事の不審な死、というのが本書の内容だ。
大正14年から昭和初期にかけての出来事で、二大保守党である政友会と憲政会との対立が背後にある。全ての黒幕に陸軍がいるというのが、氏の筋立てである。陰謀と策略、軍人による天皇制の悪用など、氏の手にかかると軍部は巨悪の根元となり、朝鮮人への差別は忌まわしい国民の風潮となる。
丹念な調査と力まない氏の文章が、作品への疑義を差し挟めなくし、日本の政治と風潮にいつの間にか嫌悪感を抱かせていく。朝日新聞のような一方的な批判や、共産党の紋切り型の攻撃と異なり、積み上げた事実と乾いた文章が、読者を自然とそうさせる。
・九月に内閣が変わり、水野錬太郎の次に後藤新平が内務大臣になった。
・後藤も台湾の民政庁官をやっているときは、台湾の人々を何千人も殺している。後藤は米騒動の時も閣僚で、三月前に水野と代わって外務大臣になった。
・民衆暴動の恐ろしさを知っている点と、植民地統治をやった経験が両者共通であった。
・こんな恐ろしい連中が震災当時の内務大臣であったから、朝鮮人もたまったものでない。
・朝鮮人虐殺をけしかけたのは、食料暴動のおこるのをふせぐため、民族憎悪の感情をかきたてて、政府に向かう民衆の反抗を朝鮮人に向けたものであろう、という説だ。
氏の説明では、台湾の統治も関東大震災時の朝鮮人殺害も、政府による弾圧になる。保守の人々の多くが台湾統治の成功を語り、震災時の朝鮮人殺害の件には諸説がある。
事件の真相は不明のままだが、後藤新平・水野錬太郎両氏の策謀と断定する根拠は、東大教授山辺健太郎氏の著作だ。
以前の自分なら松本氏の説明に納得したのだろうが、今はそんなに素直でなくなった。
山辺氏に限らず東大教授の多くが曲者であることを、沢山の事例で知ったからだ。東大と聞けば一も二もなく信じた自分は、朝日新聞の定期購読を止めた時から消えてしまった。
かと言って、松本氏の意見を全部否定する気持もない。
「軍部の横暴や策略」のことは、今後「憲法改正」をした後に、警戒していかねばならないと考えているからだ。左翼の人々は軍部への不信と恐怖から「憲法改正」に反対するが、私は違う。
軍隊を持つ独立国は、「軍部の横暴や策略」の危険性を常に抱えている。諸刃の刃の軍をどうすれば正しく機能させられるかと、知恵を絞って工夫するのが普通だと私は考えている。世界の国々が工夫をしているのに、日本だけができないと言う人々の意見に私は与 ( くみ ) しない。
あと一冊氏の本が手元にあるが、思想を詮索しなければ面白いので小説として楽しんでみたい。腹立ちまぎれにゴミ袋へ入れる気にならず、読み続けられるというのは、やはり氏が一流の作家である印なのだろう。
それとも私がおかしな人間で、小説を見る目がないということか。
いつものことだが、そんなどうでも良いことに思いをめぐらす「みみず」だ。
朝日新聞社に憧れていた彼は、高等小学校を卒業した時に朝日に駆け込んで「記者にしてくれろ」と、頼んだそうですが、帝国大学を出て、朝日の記者になったとしたら、作家 松本清張は生まれませんでしたでしょう。
念願かなって朝日の版画工にはなりましたけれど。
道端で餅を売る彼の懐にはいつも文学書が入っていたそうです。日本に必要な作家であり、(神に)選ばれた人かと思います。三島由紀夫を正しく(男らしく)評価していますし。
Onecatさんがお読みになった小説は私もドキドキしながら読みました。2冊目も解説をお願いします。
ネットで知りました左翼の池田香代子さん、彼女の言行は感心しませんが、その文章に目眩がするほど、
魅せられました。
長々と失礼致しました。又お邪魔します。
Onecatさんのブログを楽しみにしています。
逞しい生活力を有した、努力の天才。
氏はこういう人物でなかったかと、私は思っております。
二冊目が終わりましたら、またお会いできることを楽しみにしております。
そちらの様子はテレビでしか見られないのですが、熱さは日本と変わらないのでしょうか。
そうでありましたなら、熱中症に気をつけられますように。
我が青年団は公民館の二階にこじんまりとした図書館を運営していた、
この頃に、松本清長の小説に嵌った、それまでにない斬新な手法に
のめり込んだのである。
山手樹一郎の時代物から源氏鶏太のサラリ-マン物に目を輝かせて
読みふけって居た頃である。
政治的なことには無頓着な田舎の青年だったが、ご他聞にもれず
自民党が当たり前の農村生活を謳歌していた。
それまでの小説と違って緻密な設定と進行に我を忘れて没頭した。
作者の背景に興味を示す前に、物語の展開に引き込まれていたのである。
松本清張、水上勉の推理小説を読み漁ることになる、
松本作品では「砂の器」 が臨場感を持って身につまされた。
私の可愛い後輩の母親が、後輩が幼少の頃ハンセン氏
病を発症して
ライ予防法に基づき遠い施設に隔離された。
その悲劇を身近に見て育ったのである。
物静かで控えめな後輩は、後年私と親戚関係になって青年時代を仲良く過ごした。
彼の陰りの残る性格はハンセン氏病患者の家族として
過酷な境遇を忍ばせた。
作家 松本清張氏は、私の身近な存在として今に生きている。
貴方のコメントでした。
沢山の人に沢山の思いを送った小説家なのですね。
私は北九州の田舎で、中学、高校と過ごしました。
山手樹一郎より、柴田錬三郎でしたね。要するに、乱読です。
灰色の受験時代と人は言い、自分もそんなふうに思っていましたが、けっこう充実していたのだと、
今は考えます。合間を見つけて、小説を読みました。
とりとめのない言葉を並べましたが、本日はこれまでとします。
コメントをありがとうございました。