市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

51億円事件冒頭陳述(1)H7年8月31日

2007-11-25 22:14:28 | 安中市土地開発公社事件クロニクル
多胡邦夫被告初公判記録(平成7年8月21日午前10時、前橋地裁第1号法廷)

――裁判長より被告人に人定質問のやりとり――
【裁判長】起訴状朗読。検察官どうぞ。
【検察官】公訴事実。被告人は安中市役所建設部都市計画課主査で、安中市土地開発公社の職員に併任され、右公社の用地取得事業資金の借入等の業務に従事していたものであるが、同公社の群馬銀行安中支店からの資金借入時に、正規の借入額を水増しした公社理事長作成名義の借入依頼書類等を偽造行使して、支店から右水増し額相当額の金員を騙取すると、平成7年3月23日頃、同支店から金額961万2千円の借入手続を科すにあたり、安中市役所都市計画課において、行使の目的をもって、ほしいままにワードプロセッサーを使用して、公有地取得事業資金の借入れについてと題する借入金額を2億5千961万2千円に水増し記載した、同公社理事長作成名義の依頼書を作成し、右理事長の氏名の横に、公社理事長印を押捺し、もって同公社が同支店に対し、金額2億5千961万2千円の公有地取得事業資金借入を依頼する旨の、同行者理事長作成名義の依頼書1通の偽造をとる。
 これを同月27日頃、同支店において、同支店融資担当次長清水昭行及び支店長代理栗田茂樹らに対し、あたかも真正に請謁したかのように装い提出行使して、右金額の水増し金借入れ方を申し込んだうえ、同月29日頃右都市計画課内において、行使の目的をもって恣意のもとにあらかじめ入手しておいた金銭消費貸借契約書用紙を使用し、その金額欄には2億5千961万2千円也とペンで記入し、その借主欄に公社理事長小川勝寿、とそれぞれゴム印で記入し、同公社理事長小川勝寿の氏名の横に、安中市土地開発公社理事長員の公印を押捺し、ついで同月30日頃、同市役所秘書課において、事情を知らない秘書課秘書係長横田道夫をして、右記入済みの安中市長氏名の横に、市長の公印を押捺させ、もっていずれも有印の公文書である同行者理事長作成名義の金銭消費貸借契約証書を1通、および同市長作成名義の連帯保証契約証書1通の各偽造をとる。
同月31日同支店において、清水昭行、栗田茂樹に対し、右2通の書類をあたかも真正に成立したかのように装い、一括提出行使、「公社の事業資金として2億5千961万2千円の借入手続をして頂きたい。そのうち2億5千万円を特別会計の具通預金口座に入金してほしい」旨伝え、その旨とおりにした清水・栗田をして、同日支店に被告人が予め開設しておいた公社特別会計用口座名目の普通預金口座に2億5千万円を振り込み入金させ、もってこれらを騙取したものである。
罪名及び罰状:有印公文書偽造・同行使・詐欺。平成7年法律第91号による改正前の刑法第155条第1項、第158条第1項。以上であります。
【被告人及び弁護人】公訴事実を全面認める。
――証拠説明――
【検察官】証拠により証明しようとする事実は以下のとおり。
(1)被告人の身上経歴
昭和27年安中市生まれ。蚕糸高校卒業後、昭和45年9月安中市職員として採用され、税務課で市民税・固定資産税係として勤務、50年からは農政課において農業共済関係の仕事に従事し、54年10月に建設部都市計画課に配置替えとなる。以後庶務係として安中市土地開発公社設立事務を担当し、55年4月公社設立後は、公社職員と都市計画課職員を併任しながら、公社の事業資金借入や利息返済等の一切の経理事務を担当しており、平成4年4月に同課の主査に昇格して、平成7年4月に社会教育課係長として勤務していたが、本件犯行発覚で5月31日懲戒免職処分となる。
 昭和52年5月に安中市職員だった小曾根きみ子と結婚したが、53年3月には協議離婚し、同年6月に森村春美と再婚して二子をもうけ、本件逮捕まで住所地にて妻と二男とともに生活していた。
(2)公社及び安中市の融資決裁手続
公社は公有地の拡大と推進に関する法律に基づいて設立され、公共事業用地を先行取得してそれを市に売却する等を業務とする。公社の事業用地取得資金等の事業資金借入については、市は公拡法25条によりその債務を保証できる。他に何らの担保もない公社においては、金融機関からの事業資金の借入の際には、市議会の議決した債務保証限度額内で、常に4月の債務を保証していた。
 公社が群馬銀行安中支店から次号資金を借入する際の手続には、まず安中市である事業の開設が決まり、公社に公共用地の先行取得の依頼がある。これを受けて公社は金融機関から公社の事業資金の借入を実施することになる。最初に公社の担当員は、公社内部の融資についての決裁を得るべく、公有地取得事業資金の借入についてなどと題する決裁書を作成し、これに実際に銀行へ提出する借入申込書と、安中市への保証依頼書を作成添付して、決裁にまわし、事務局次長、事務局長、常務理事、副理事長、理事長と決裁を受けて、その後借入申込書及び保証依頼書に公社理事長の公印が押捺される。公社の借入については、安中市土地開発公社事務決裁規程により、専決規程がなく常に理事長決裁。
 次に公社からこの理事長印押捺済みの借入申込書を銀行に提出して融資高を申し込み、その際金銭消費貸借契約証書用紙を受け取って公社に戻り、決裁を受けた必要事項をこの用紙に書き入れ、公社理事長印を押捺、その後市の保証を得るために、この契約証書と保証依頼書を市の財政課財務係に提出すると、財政課財務係において、市の保証を得るための決裁書が起案され、財務係長、財務課長、総務部長の決裁を経た後、金銭消費貸借契約証書要旨の保証人欄に、安中市長の公印が秘書係長より押捺されて、市の保証が得られたことになる。
 そして最後に、公社担当者が保証人欄に市長の印が押印済みの金銭消費貸借契約証書件連帯保証契約証書を銀行に提出して、融資金が公社の普通預金口座に振込まれることになるというもの。
(3)犯行に至る経緯等
 被告人は安中市役所に勤務し始めた当初から、給料が安いことに不満を持ち、派手な生活がしたい、家を建てたいとの願望を抱いており、そのため大金を得る手段として、競馬麻雀などのギャンブルをする。そして、被告人が都市計画課に勤務し、昭和57年頃公社の経理を完全に任されており、公社が群馬銀行安中支店にも普通預金口座の通帳を管理し、公社の年1回の監査では、通帳が確認されないことを知り、公社の金を流用して競馬の資金に充てることを思い立った。
 当時公社の口座には市から事務費として、年30万円が振込まれていたことから、このうちから勝手に1回に2~3万円を下ろしては競馬などに使うようになり、年に15万円あまりの事務費を勝手に費消していた。さらに昭和58年頃になると、市から事業が終了した際の土地代金が、公社口座に入金されるようになり、本来直ちに群馬銀行へ返済すべきところを、被告人は数十万円から百万円単位で勝手に引き出し、これを競馬資金・贅沢品などに使うようになっていった。
 その後、昭和60年頃になり、公社の群馬銀行に対する借入金の返済期限が到来するようになったが、被告人は既に市からの返済金を勝手に使っており、その金額が4~5千万円になっていたことから、金を作って返済に充てなければ自分の犯行がばれてしまうと考え、それまで公社の経理担当者として、経験から正規の借入書類の金額欄に金額を書き加え水増しすることは容易と考え、新たな手段として、正規の公社事業資金借入の際、借入金額を水増しして偽造書類を作り、銀行へ提出して水増し金額を銀行から騙し取ることを計画。
 最初、昭和60年3月31日、公社の正規借入金393万9千円を、1千393万9千円に水増しして、借入申込書、金銭消費貸借契約証書を偽造し、群馬銀行からこれを騙し取った。その後平成2年4月までに合計26回にわたり、金額11億2千万円を公社正規口座に振込まして騙し取り、勝手に引き下ろして費消していた。
 公社の正規口座に水増し分を振り込ませていたことから、預金通帳を見られれば犯行は発覚していたのであるが、監査の際監査委員にも、上司にもそれを見られることはなかったので、長期間同じ方法で犯行を重ねていた。
 ところが、平成2年4月に高橋係長が着任し、同氏が経理に明るく、通帳等を確認すると話していたことから、これまでの方法では発見されてしまうと思い、新たに特別会計口座である別口座を開設して、水増し分を振込ませることを計画した。昭和60年頃公社と県企業局が共同で行った土地開発利用に対し、公社の口座とは別の特別会計口座を新たに開設し、県企業局からの事業資金交付金を受けたことがあることから、自身で新たに公社名義の特別会計口座を開設し、融資金名義で銀行からこの口座に金を振込ませ騙し取ることを思いついた。平成2年4月16日に3万円を使って群馬銀行安中支店に、公社特別会計名義の預金口座、口座番号0589694を開設し、以後前後13回にわたって、群馬銀行より現金約36億3千万円を騙し取り、費消した。
(4)犯行の動機
 平成7年3月頃、年度末に都市計画課から異動になるのを知ったため、水増し金を騙し取る最後の機会と思い、その後も犯行が発覚しないように、できる限りの金額を騙し取ることを計画し、特別会計口座に資金をプールし、利息返済に備えようと決意した。
 そして平成6年度安中市の債務保証限度額一杯の2億5千万円を騙し取ろうと決意し、3月20日頃群馬銀行安中支店の清水次長らに対し「信越線新駅周辺区域の開発事業費として2億5千万円ほどを借入れたい」と下話をしておき、23日頃正規の決裁を得るための961万2千円の借り入れ申込書をワープロで作成し、その決裁終了後、同時に2億5千万円を水増しした同じ書類を作成して理事長印を押捺した。これを支店清水次長に示し、次長はあらかじめ下話をされており、書類に正規の理事長印も押してあり、疑いを持たずに受領、行内稟議に回し融資手続をした。
 それから被告人は、正規の金額の貸借契約証書を作成、市財政課に回し、市の決裁を受けた正規の市長印が押捺された同書類は破棄し、29日頃以前銀行から余分にもらっておいた同様書類に、2億5千万円を水増しした金額を記入し、理事長印を強捺し、書類を作成し30日頃、市秘書課において、秘書係長に対して他の期限変更書類に紛れ込まして、この書類の保証人欄に市長公印を押捺してもらい、これを支店清水次長に提出して、これまでどおり、水増し分を特別会計口座に入金することを依頼し、書類に正規の公印が押してあることから、支店次長らは信用し、2億5千万円をこの口座に振込んだ。被告人は異動後も、市長から引き続き公社の仕事を担当してくれと頼まれているなどと嘘を話している。
 なお、この水増し偽造書類を作成して、他の変更書類と混同させて事情を知らない秘書係長に市長公印を押させる方法のほかに、貸借契約証書の金額欄に余白を設けて決裁に回し、決裁後この金額の先頭の余白に水増し数字を書き加えて偽造する2通りの方法がある。
(5)犯行後の状況
 被告人が平成2年4月以降特別会計口座に振り込ました金額は、約36億3千万円で、このうち引き出したのは、計251回約22億4千万円となり、これらを競馬麻雀などのギャンブル、自宅、妻の経営する喫茶店、倉庫の建築費用、骨董品の代金、株券、ゴルフ会員権、リゾートマンション、車の購入費、貴金属類などに費消した。
 なお平成7年5月19日、公社において24日予定されていた監査を受けるために、各銀行の借入金残高証明書を取寄せた所、群馬銀行安中支店からの借入残高が公社の把握していた金額を37億円違っていたことから、不正が発覚。市長、支店長、支店次長が相談のうえ市長より安中警察署へ公訴依頼があり、本件が発覚した。
(6)その他情状各請求
 以上の事実を立証するため、甲1号ないし甲112号、乙1号ないし16号の取調べを請求する。
【弁護士】同意する。
【裁判長】それでは証拠に採用します。要旨の告知をして下さい。
【検察官】
▼甲1号:本件捜査の報告書。平成7年6月2日安中市長より、公社市側で把握していた借入金額と、銀行側のそれとに約37億円の開きが出ていることが分かった。調査したところ、被告人が書類を偽造して、借入れしたことがわかり、本人が認めたので5月31日付で懲戒免職処分にした。その件につき捜査を依頼した旨依頼を受け捜査を開始した。
▼甲2号:犯行について、安中市としては、厳正捜査を遂げたうえでの厳重処罰を望む、との市長からの告発事実についての上申書。
▼甲3号:群馬銀行代表取締役からの本件犯行の捜査依頼。
▼甲4号:群馬銀行安中支店から市に提出を受けた本件犯行にかかる偽造書類。安中市から提出された正規分の写し確定報告書。
▼甲5・6号:偽造された借入申込書類。
▼甲7・8号:安中市長の公印押捺済みの書類。
▼甲9・10号:公社理事長の公印押捺済みの書類
▼甲11・12号:公社の群銀正規口座普通預金印鑑票
▼甲13・14号:関係書類の鑑定結果。鑑定の結果偽造書類に押された印は公社理事長印、市長印と同じ印影と同一と確認、の鑑定結果。
▼甲15・16号:貸借契約証書の筆跡が被告人のものと一致した、鑑定結果。
▼甲17・18号:偽造借入申込書のワープロ文字が公社のワープロによるものと確認、の鑑定結果。
▼甲19・20号:証拠物。
▼甲21号ないし26号:特別会計口座分の預金取引履歴明細書等。
▼甲27号ないし29号:公社正規口座分の預金取引履歴明細書等。
▼甲30号:平成2年4月以降の公社正規分と特別会計分の取引状況について、支店から押収した日記帳綴りにより詳しく対照した一覧表の報告書。
▼甲31号:平成2年4月以降偽造した書類の一覧表。
▼甲32・33号:支店から公社の判明分融資一覧表。
▼甲34・35号:被告人方の土地建物登記簿謄本。
▼甲36・37号:妻の経営する喫茶店の土地建物登記簿謄本。
▼甲38・39号:公社の法人登記簿謄本。
▼甲40・41号:群馬銀行の商業登記簿謄本。
▼甲42号:公社、群馬銀行支店及び本店の担当者を年度毎に一覧表にしたもの。
▼甲43号:平成7年1月カラの被告人の出金簿、年休簿の報告書。
▼甲44・45号:被告人開設の特別会計口座通帳は2冊の旨の銀行からの報告書。
▼甲46号:公社と東和銀、かんら金庫、碓氷農協、群馬信組との取引状況の捜査結果。
▼甲47号:新幹線新駅、信越線新駅の記事が掲載された上毛新聞記事。
▼甲48号:群馬銀行安中支店応接室の実況見分報告書。
▼甲49号ないし53号:支店融資担当次長清水からの調書。
49:その職歴及び公社融資の際のやりとり
50:3月31日分について、騙され公社への正規融資と信じて行なった旨の被害状況。
51:特別会計口座の取引について明細書が不明な旨の確認。
52:公社融資の際の稟議手続の内容。
53:被害状況、融資決裁手続の調書等。被告人に厳罰を望む。
▼甲54号ないし56号:支店店長代理栗田からの供述調書。
54:被害状況についての供述内容。書類公印を正規のものと認識、融資を実施した、と。
55:支店の消費貸借計画証書要旨と残高証明書発行台帳の保管状況。消費貸借契約の用紙はそれ自体重要ではないので、頼まれれば余分に渡すことはあること。本件については覚えていない。
56:詳しい被害状況等。被告人に厳罰を望む。
▼甲57号ないし60号:支店長松井からの供述調書。
57:公社への融資状況。本件被害状況。被告人に厳罰を望む等。
58:異動後5月8日の1485万円引き出した状況の調書。
59:本件犯行3月31日には支店長は支店を不在にしていた。
60:支店長の勤務状況。3月31日には応対していない旨。
▼甲61号:支店渉外担当山添からの供述調書。平成7年5月16日に公社竹内主任の依頼で残高証明を取り、翌日渡したが、公社高橋次長が公社の認識額と37億円違うと指摘、双方で調査をすることになる、本件犯行を知った。
▼甲62号;群銀本店法務部推進役東の供述。支店からの書類を審査し、市の債務保証限度額内で問題ないと判断、貸付を承認した。
▼甲63号:群銀本店審査部審査役山口の供述。東と同様。
▼甲64号:支店融資係有坂の供述。3月31日に栗田支店長代理の指示で特別会計口座へ振込んだ。
▼甲65号:元支店窓口係清水の供述。平成2年4月16日当時支店に勤務、被告人から3万円を受取特別会計口座を開設した。
▼甲66号:元支店融資担当支店長代理伊藤の供述。平成2年4月2日~平成5年8月1日迄支店に勤務。被告人はその時点で長期間公社の経理を担当しており、ほかの職員が融資の際に支店に来ることはなかったので、常に被告人を相手として融資の取引をしていた。被告人を疑うことはなかったという取引状況。特別会計口座開設に関して、自分から被告人に助言をしたことはない。
▼甲67号:支店窓口係武井の供述。被告人が平成7年5月8日に1485万円を引き出した。
▼甲68号:支店支店長代理田崎(市役所内出張所勤務)の供述。本店からの指示で本年4月頃、公社に借入額の照会をしたが、約10億円との回答を得て、これは1年度分の額と誤解したので特に不審とは思わなかった。
▼甲69号:支店勤務秋山の供述。公社からの請求があったので預金残高証明書を発行した。
▼甲70号:かんら信金安中支店支店長代理井上の供述。平成7年3月27日、同31日の両日、被告人が支店を訪問している。
▼甲71号ないし77号:公社事務局次長ほか高橋の供述。
71:群銀より貸付金残高を取寄せたところ、公社の把握しない約47億円の貸付金があり、慌てて支店に行き、犯行を知った。
72:公社の事業内容、融資の際の決裁手続、公印の保管状況等。
73:正規決裁額は本件では961万2千円であることの確認。本件以外の不動産担当の説明。被告人の普段の勤務状況。
74:公社が設立当時市から事務費をもらっていたという説明。
75:信越線新駅周辺開発事業は、県への陳情交渉段階で、実際には融資の貸付はない。
76:本件犯行を知り、被告人に事情を聞いたときの内容。
77:被告人の上司の高橋に関する調書。
私は平成2年4月から公社に勤務、当時被告人は勤務10年で仕事を熟知していた。就任当時から、経験があり仕事のできる多胡を信用しており、公社の経理は今までどおり多胡に任せていた。以前管財課に勤務し、経理にも自信があったので、自分でチェックするために、公社の普通預金口座通帳はたびたび確認することとした。ただし確認したのは、自分が着任してからの分で、以前の分については見たりしなかった。理事長公印の保管状況は、勤務時間中は都市計画課長の机上の印鑑ケースにあり、通常は理事長までの決裁が終了していれば、課長の許可を得て、担当者が押捺している。とはいっても、課長がいれば、課長の許可が必要で課長不在でも私の許可が必要なので、皆がいる時に黙って公印を押捺することは難しいと思う。ただし正規の決裁を経た書類に偽造文書を紛れ込ませて公印を押捺させたり、誰もいない時間帯を見計らって公印を使った場合は、誰も見ることはできない。勤務時間外には、ロッカーに保管し鍵をかけておくが、被告人は鍵の所在を知っているので、ロッカーから公印を取出し使うことは可能であったと思う。外部の人間には注意しているが、内部に勝手に公印を使用する者がいるとは思っても見ないし、多胡は長年公社の経理を担当してきたからこれに公印の保管場所方法を知らせないというのは考えられない。本件犯行については上司として監督責任を感じており、厳重に処罰してもらいたい。
▼甲78・79号:公社事務局員竹内の供述。
78:支店から貸付残高証明を取り、犯行を知った状況。公社内の融資を受ける決裁手続、本件正規の融資金額、公印保管状況など。
79:毎年3月9月期の半年毎には、返済期に事業の終了していない融資分について、返済期限を延期するような契約をしている。
▼甲80号:他の金融機関から融資を受ける方法の説明。
▼甲81号:公社がこれまでに開設した口座の状況。
▼甲82・83号:公社事務局長都市計画課長加部の供述。
82:被告人と竹内が経理を担当しており、被告人を信頼して融資手続を任せてきたので疑うことはなかった。融資の際は公社理事長印が必要で印は自分が保管することになっており、勤務時間中は机上に、それ以外はロッカーにあり、公社内部の者は当然知っていた。本件2億5千万円は勿論決裁を受けていない金額で、被告人の犯行については、間接的には感知していた。
▼甲84号:資材成果財務係長の供述。融資の際は公社の債務保証依頼を受けてから私が決裁書を作成し、総務部長専決となっているのでその決裁後市長印が押捺される。
▼甲85号:財務係員須藤の供述。本件の正規分961万2千円についての決裁書を作成した。
▼甲86号:公社事務局職員竹田の供述。平成3年4月から勤務、被告人が贅沢な暮らしをしていたのを知っており、不思議であったが骨董品で儲けているという噂を信じていた。仕事については分からないことを教えてもらっていた。
▼甲87号:公社事務局員田中の供述。平成3年4月から勤務、被告人は仕事のできる人と思っていたが、なぜ贅沢な暮らしができるのか不思議に思っていた。
▼甲88・89号:公社主事清水の供述。本年4月1日より多胡の後任に就いた。群銀支店に引継の挨拶に行ったときの状況。
▼甲90号:元公社事務局庶務係長伊藤の供述。昭和60年4月~昭和63年3月まで被告人の上司として勤務。公社の経理は経験の長い被告人に全て任せており、群銀支店の口座通帳についても確認したことはない。
▼甲91号ないし93号:安中市長小川の供述。
91:本件犯行を知り、被告人を懲戒免職にし、警察へ捜査依頼をした状況について。
92:支店が保管している借入申込書、貸借証書は公社・市の正規の決裁を受けたものではないことの確認。
93:被告人に対して市長特命としてということを命じたことはない。
▼甲94号:公社監事坂東の供述。毎年5月の公社監査では預金残高証明は会計規定であり取っていたが、貸付残高証明は着て以上要求されていないので、実施していませんでした。だから特別会計口座があり騙し取った金が振込まれていたことから、犯行については監査のときも気付かなかった。
▼甲95号ないし98号:市秘書係長横田の供述。
95:市長公印の保管状況。
96:3月28日に正規の金額の貸借証書に市長公印を押した。
97:3月31日に水増し後の貸借証書に市長公印を押した。
98:市長公印は日常勤務時間中は私の机上に置いてあり、退庁時に秘書課備えのダイヤル式ロックと鍵のかかる耐火金庫に保管してある。鍵は私が責任を持って保管しており、保管場所は私と秘書課長、秘書係の3名だけが知っており、他の職員には分からないようにしておいた。ダイヤルのナンバーもこの3名しか知りません。このように市長公印は秘書課で管理されており、ほかの職員が勝手に持ち出して使用できないようになっている。市長公印を押してもらうときには、決裁済みの会議所と押捺すべき書類を持ってきて、私から市長公印を押してもらわなければならず、勤務時間内、時間外を問わず、公印を持ち出して勝手に押捺することは不可能と言える。しかしながら本件では、市長の公印という重要な印象を使用する際には、その証明力に鑑みて決裁書の内容と、押捺する書類とが同一であると確認した上で、押捺すべきことは分かっていたが、実際上市長印の使用は一日に複数回あるし、押す書類の枚数が多いときには、どうしても十分に書類の内容を確認しないで押捺してしまうのが現状。このようなことから3月31日の偽造書類の内容を私が十分確認しないまま市長公印を押したのは、深く責任を感じている。
▼甲99号:市財政課長石井の供述。公社融資での市の債務保証の法的根拠、市の決裁が総務部長専決とされていることの法規の説明。
▼甲100号:被告人知人の供述。被告人の一報により5月31日頃打ち明けられ、その後自首を勧めた。
▼甲101号:県企業開発課次長の供述。平成6年4月頃公社被告人から信越線新駅周辺開発事業の陳情を受けていた状況。いまだ同事業は実施の段階に至っていないという内容。
▼甲102号:市議会議員の供述。被告人とは被告人の実弟多胡茂美を通じて知り合い、被告人の子どもが通っている塾を経営していた関係で、被告人と交際があったという交際状況。
▼甲103号:古美術品販売店一品堂小貫の供述。平成3年秋頃、かんら信金職員石原の紹介で被告人と知り合い、長期間多量に被告人に販売していた。
▼甲104号:被告人に1300万円のゴルフ会員権を販売したことについての供述。
▼甲105号ないし109号:被告人の妻多胡春美の生活状況についての供述。被告人との結婚当初からの生活状況。被告人から毎月50~60万円の生活費をもらっており、それ以外に100万円の金をもらうこともあったが、骨董品販売で儲けたとの説明があったので、何ら不思議に思わず、犯行を打ち明けられるまで全く気付かなかった。
▼甲110号:被告人の実弟多胡茂美の供述。被告人の普段の生活状況及び犯行を打ち明けられたときの状況。被告人の派手な生活には疑問をもっていたが、骨董品で儲けたなどの話を聞くと、骨董品の価値等分からないので、全くそれを信じていた。
▼甲111号:被告人の娘の供述。被告人から何度か小遣いをもらっていた。
▼甲112号ないし116号:(略)
(被告人による一部証拠品の確認手続)
(被告人による偽造書類への記入及び押印について確認手続)
【検察官】
▼乙1号:被告人の身上経歴(前述)。
▼乙2・3号:本件犯行動機。
▼乙4・5号:犯行状況。
▼乙6号:騙取金使途先の説明内容。
▼乙7・8号:犯行状況。
▼乙9号:犯行発覚後自首に至るまでについての被告人の供述。
▼乙10号:特別会計口座の通帳等を自宅において焼却した状況の供述
▼乙11・12号:騙取金使途先の説明の供述調書。
▼乙13号:公社と他の金融機関との取引の供述調書。
▼乙14号:本件犯行にいたる経緯及び犯行状況についての検察官調書。
私がこのように昭和60年頃から平成7年3月まで、10年以上公社の書類を偽造し、約40億円以上の巨額の金を騙し取ってこれたのは、私が昭和55年に公社が設立された当初からその事務に携わっており約15年間全く異動がなく、公社の事業資金の借入等の業務を任されていたことから、事実上公社の理事長公印を押捺できたからで、また群銀からも完全に信用されていたからと考えています。
 私がこのような犯行を思い立ったのは公務員でありながら派手な生活がしたい、見栄を切りたいとの思いが以前からあったためで、自分の給料だけではとても自分が思い描くような派手な生活を送ることはできず、何とかして大金を手にしたいと考えている中で、本件のような融資名目での詐欺を考え付いたのです。
 私が本件のような反応を考え付いた中で、借入申込書等については簡単に偽造することが可能でした。ロッカーの中に入れてもその場所を知っていましたし、机の上に勤務時間中は置いてありましたので、理事長印については私にとってどうにでもなる状態だったので、あとは金銭消費貸借契約証書の保証人欄の安中市長の公印をどうするかだけが問題でありました。
 これは理事長印と違って持ち出したり勝手に押捺できないものですが、これについても私は市内部で信用されておりますので、他の書類に紛れ込ませて秘書係長の所へ持っていき、市長印を押捺してもらう方法や、またあらかじめ金額欄の金の後に、少し数字を書き始める場所を離しておき、決裁を受けて市長印を押捺された後に、その空いている場所に漢字を書き加えるという方法についても私は計画しました。これらの方法によって本件犯行を計画しています。
 私がそれまでと違って特別会計口座を作った理由については、平成2年3月頃までは、正規の口座に騙し取った金を振込んできたのですが、この方法では誰かに通帳を見られてしまえば簡単に自分のしてきたことがばれてしまうので、常に誰かに見つかりはしないかという不安に苛まれていました。
 そして平成2年4月1日に現在も課長補佐である高橋さんが配置替えで来ました。この高橋さんは私と同期の人間であり、これまで財政課管財係で勤務していきたこともあって、帳簿や会計に明るく仕事の内容もそれほど変わらないし、調査の内容もよく分かる人だと思います。それで私はこの高橋さんに、自分がしていたことを見破られるのではないかと不安になり、さらに高橋さんは席口座の通帳を確認するということを言っていたので、今までどおり正規口座に騙し取った金を振込のでは、直ぐに自分のやったことばれてしまうので、どうしたら良いかを考えました。
 そのとき、以前昭和60年頃、県の企業局が古城団地の分譲を行なう際、別口座を作ったことがあり、そのことを思い出しました。それで今回も公社が正規口座外の別の普通預金口座を作っても特に群馬銀行には怪しまれることはないと思い、別口座を自分で開設し上乗せした金額を振込ませれば、正規口座の通帳を見られても決して公社にばれることはないと考え、この特別口座は開設したものです。
 本件犯行については、3月末になって異動の時期が迫ってきたので、銀行に行った際に清水次長や栗田さんに対し「信越線新駅周辺の開発計画がまとまりました。事業資金として2億5千万円くらいの借入を予定しています。この借入については群馬銀行にお世話になりたいと思っていますが、他行も金利面で頑張っているので、群馬銀行さんも検討して下さい」などとでっち上げた嘘の話をもっともらしくしておきました。この頃、上毛新聞などで信越線新駅についての開発事業計画が取り上げられておりましたので、このような形にかこつけて融資枠を作れば、銀行側としても応じてくれると思い2億5千万円の借入を計画したのです。
私は昭和55年に公社に勤務してからずっと群馬銀行安中支店の担当をしていましたし、これまでにも限りなく融資話をまとめてきたので、清水次長や栗田さんも私を疑うことはありませんでした。また、これまで私は折に触れ、銀行担当者が別の口座に私が偽造してでっちあげ融資の話をしたのではすぐに犯行がばれてしまうことから、そのようなことがないように、「公社側の融資の担当は自分だけで、必ず融資の話は自分を通してほしい、自分は市長の特命を受けて公社の仕事に従事している」などと、自分以外の公社の人間と銀行側が接触しないように、話しておいた。銀行側としても公社は年間かなりの額の借入をしてくれるお得意様であり、私はその担当者なのであるから、私の言うことに銀行は逆らったりしないだろうと考えておりました。
3月24日に正式に配置替えとなるところ、待機予定なので本件犯行時には4月に異動になりますが、市長からは引き続き公社の事業を担当するように頼まれていますと、異動後も金を引き出すのに不思議がられぬようよく言っておいてありました。そして群馬銀行に金銭消費貸借契約書を持参して、いつものように2億5千万円を特別会計口座へお願いしますといい、通帳に2億5千万円の振込みを確認したのち、成功したことが分かりました。
平成2年4月以降だけでも36億3千万円を騙し取ったが、利息や新たな返済資金を別として約23億円を自分で使っております。中でももっとも大きな使い途は、一品堂の小貫さんからの骨董品の取引であり、平成3年夏頃から、皿・壷・絵画等を3億円以上購入し、合計額は10億円から12億円くらいになったと思います。それ以外に飛び込みの客から骨董品を購入した分も6千万円くらいになると思います。また自宅や店舗、骨董倉庫の購入と改築費2億円あまりを使っております。
本件犯行については自分の勝手なことからこのようなことを繰り返して来て、大変申し訳ないと思っております。自分の同量や上司、群馬銀行関係者、家族に大変な迷惑をかけたことを深く反省しております。
甲15号ないし16号が本件の被告人の心情です。
【裁判長と被告・弁護人】(内容について打合せ)
【検察官】追起訴が13件ほどあります。1ヶ月ほど。全部は終了しないのですが何件か。
【裁判長】次回期日は9月18日午後3時とします。
――閉廷――


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 安中市土地開発公社51億円事... | トップ | 51億円事件第1回公判(平成7... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

安中市土地開発公社事件クロニクル」カテゴリの最新記事