市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

金井康夫県議(沼田市区選出)にまつわる不正疑惑の調査をしようとしない群馬県選挙管理委員会

2024-01-28 13:49:10 | 政治とカネ

氏名:金井 康夫(かない やすお)、生年月日:昭和44年2月16日、選挙区:沼田市/当選4回、所属会派:自由民主党、住所:〒378-0043沼田市東倉内町771、電話番号:0278-22-2771、Fax:0278-22-2770。群馬県議会HPより

■自民党は衆議院の小選挙区、参議院の選挙区ごとに選挙区支部、基礎自治体ごとに支部(地域支部)を擁するほか、一定の職域ごとに職域支部を設置することができるとされており、47都道府県ごとにこれら支部を束ねる連合会を設置しています。会員は党員と、全ての党所属議員から構成され、都道府県支部連合会は通常、県連(1都1道2府以外の43県)、都連(東京都)、府連(大阪府と京都府)、道連(北海道)などと省略して呼ばれています。

 そして、県連会長は、現職国会議員から選出することを原則としていますが、県連が分裂状態になって前会長が辞任した場合など、やむを得ない時は都道府県議会議員から選出した例もあります。県連幹事長は地元の都道府県議会議員から選出するのが通例です。県連総務会長、政調会長は都道府県議会議員だけでなく、同一県内にある政令指定都市の市議会議員からも選出されますが、東京都連のように幹事長以外が全て国会議員という例もあります。

 さて、我らが群馬県における税金を原資とした公共事業や補助金事業等の利権の分配に、大きな影響力を持つ群馬県の自民党県連を見てみましょう。令和5年5月11日現在の自由民主党群馬県支部連合会の令和5年度役員一覧は以下のとおりです。

*****自民党群馬県連・令和5年度役員一覧(敬称略)***** 
役    職    氏    名
会長        小渕優子
副会長       久保田順一郎、星野寛、狩野浩志、橋爪洋介、井田泉
幹事長       井下泰伸
筆頭副幹事長    松本基志
副幹事長      大林裕子
総務会長      金井康夫
総務副会長     相沢崇文
政務調査会長    大和勲
政務調査副会長   神田和生
県議会議員団々長  穂積昌信
県議会議員団副団長 牛木義
選挙対策委員長   小渕優子
選挙対策委員長代行 久保田順一郎
選挙対策副委員長  副会長
選挙対策幹事長   井下泰伸
選挙対策部長    井下泰伸
選挙対策副部長   金井康夫
選挙対策幹事    総務全員

組織委員長     星野寛
組織副委員長    矢野英司
広報委員長     久保田順一郎
広報副委員長    斉藤優
党紀委員長     橋爪洋介
党紀副委員長    神田和生
代表会計監査    井田泉
会計監査      森昌彦
財務委員長     狩野浩志
財務副委員長    牛木義
総務企画部会長   神田和生
総務企画副部会長  牛木義
健康福祉部会長   斉藤優
健康福祉副部会長  大林裕子
環境農林部会長   森昌彦
環境農林副部会長  入内島道隆
産経土木部会長   相沢崇文
産経土木副部会長  秋山健太郎
文教警察部会長   高井俊一郎
文教警察副部会長  亀山貴史
**********

■こうした中、正月早々、自由民主党群馬県支部連合会の総務会長・群馬県議会議員の金井康夫(沼田市区選出)の不正疑惑について、当会事務局に情報提供を頂きました。長文の内容でしたので、テーマごとにまとめたうえで、1月12日に群馬県選管に調査を申し入れるべく、以下の内容の文書を上申書として提出しました。

*****1/12県選管あて上申書*****
                              令和6年1月12日
〒371-8570 群馬県前橋市大手町1-1-1
群馬県選挙管理委員会 御中
                      〒371-0801前橋市文京町一丁目15-10
                      市民オンブズマン群馬
                      代表 小川 賢
                      連絡先:090-5302-8312

              上申書
件名:金井康夫県議(沼田市区)の不正疑惑について(報告と質問等)

 平素より、群馬県民の公平、公正な公民権の行使の維持のため、また、群馬県の行政機関として、県政策の制定や決議を行うことにより行政サービスの実施に、日夜ご尽力していただき衷心より感謝と御礼を申し上げます。
 さて、自由民主党群馬県支部連合会総務会長・群馬県議会議員の金井康夫(沼田市)氏の不正疑惑について、下記の通りご報告申し上げます。既に報道でも取り上げられた情報もあり、ご存知かもしれませんが、必要な措置をお取りいただき、その結果を適宜県民に公表して頂くよう、ここに要望いたします。また、質問がございますので、こちらについても、できるかぎりお答えを速やかにいただけると幸いです。

               記

1 政治活動用ポスターについて
  令和5年12月27日付の上毛新聞にて、「自民党沼田支部が政治活動用ポスターを撤去し忘れた」とする報道がなされました(別紙1)。この報道について、貴会の関与が背景にあるとすれば、ここに感謝を申し上げたいです。以下に記事のテキストを引用します。
**********上毛新聞2023年12月27日17:00
群馬県議選のポスター撤去し忘れ、条例違反の可能性 自民党沼田支部
 自民党沼田支部が今年4月の群馬県議選に向けて沼田市内に掲示した政治活動用ポスターの一部が、県屋外広告物条例に基づく許可期間を過ぎても掲示されたままになっていることが26日、分かった。県は条例違反の可能性があるとして撤去を求める方針。
 ポスターは演説会を周知する内容で、掲示期間を2022年10月29日~23年2月28日とする県の届け出済み書が記載されている。同支部長を務める県議の金井康夫氏は上毛新聞の取材に「ポスターをはがし切れていない場所もあるので速やかに撤去したい」とした。
**********
 しかし、同支部長の金井氏が政治活動用ポスターの撤去を「忘れた」というのは不可解なものです。なぜなら、沼田市の有権者ならば記憶していますが、平成27年並びに平成31年の県議選でも、金井氏は同様のポスターを掲ホしていますが、いずれも選挙前に撤去をしていたからです。
 ですので、今回は、「忘れた」のではなく、意図的に貼り続けたのではないでしょうか? というのは、過去のポスターは、当時の群馬県知事と一緒に写っていますが、今回は特に懇意とされている二人の国会議員だからです(別紙2)。
  そこで、ご質問です。
【質問1】何か別の意図があるのではないでしょうか? 貴会の見解をお聞かせください。

2 政治資金収支報告書について
  上記1のポスターに関連して、令和4年分の政治資金収支報告書を見てみますと、これまたおかしいことに気付かされます。
  別紙1の記事の通りだとすると、当該ポスクーは自民党沼田支部の活動ですが、支出されているのは群馬県沼田市第三支部です(別紙3)。自民党の場合、郡市支部と県議の個人支部に分かれています。県議個人の政治活動ですから、この報告書の記載で良いように思いますが、一方、沼田支部の報告書を見ますと県政報告会支出の記載があります(別紙4)。
  言うまでもなく、政治資金収支報告書は故意の有無に関わらず、虚偽の記載をした場合は有罪です。なお、合同の県政報告会を行った利根郡は、星野県議の個人支部である群馬県利根郡第一支部に記載をされています(別紙5)。
  ここで、ご質問です。
【質問2】ポスターも県政報告会も、県議個人の活動ですから両方とも第三支部で支出するべきではないでしょうか?
【質問3】金井県議の場合、政治資金報告書への記載に虚偽があったかどうか、確認していただき、その結果を共有していただけますでしょうか? 

3 政務活動費について
  金井氏の政治資金の取り扱いがおかしいので、続けて政務活動費を見てみることにします。令和3年12月27日に、県政報告レポート第41号印刷代として、部数15,520枚で257,730円が支出されています(別紙6)。一方、令和5年3月5日に、県政報告レポート第45号印刷代として、部数14,050枚で499,800円が支出されています(別紙7)。
  もちろん、物価の高騰、カラーの有無やサイズによって、印刷代は変わってくるでしょう。しかし、金井氏がHP上で公開されている県政報告レポートを見比べると、印刷されたサイズは分からないものの、第41号の方がページ数は多く、同じカラーです。2年弱の期間が空いているとは言え、同じ印刷所で、部数が1,000部以上減った印刷代が2倍近くかかっているのです。
  そこで、ご質問です。
【質問4】貴会としても、これはおかしいとお思いになりますでしょうか? なぜなら、令和5年3月5日と言えば、県議選の直前です。本当に、県政報告レポート部数14,050枚の印刷代なのでしょうか? 普通は疑問を抱くところですが、貴会は金井県議から何か説明をお聞きになっていますでしょうか? あるいは、まだお聞きになっていない場合、金井県議もしくは同県議の秘書など関係者に、このことを確認なさいますか? ちなみに金井県議の秘書は川手満氏(連絡先090-7718-0419)です。

4 弔電について
  群馬県議会は、平成23年6月7日開催された代表者会議で、冠婚葬祭の虚礼廃止について次のとおり申し合わせをしました。
     *****虚礼廃止に関する決議(平成2年6月14日)
      群馬県議会は、政治改革を求める国民の期待と県議会に対する県民の負託と信頼に応えるため、公職選挙法の規定を遵守することはもとより、虚礼を廃して公正で廉潔な議員活動を推進し、もって政治倫理の体現に努めるとともに、健全なる議会政治の発展を期することを決意する。
  群馬県議会は、この「虚礼廃止に関する決議」の趣旨を尊重し、虚礼を廃して公正で廉潔な議員活動を推進するため、弔電は自粛する、とし、また、答礼として自筆で出す暑中見舞い、年賀状以外は公職選挙法上禁止されていることを確認しています。
  ところが、沼田市内の各葬儀場に確認すれば明らかですが、金井氏は県議会で自粛が要請されている弔電を出し続けています。
  ここでご質問です。
【質問5】このことをお調べいただけますでしょうか? あるいは貴会の所掌ではなく、別の部署、たとえば議会事務局がこうした事案に対応しているというのであれば、そちらのほうに調べるように依頼いただき、結果を共有するように依頼いただけますでしょうか?

                              以上

別紙(添付):
1 令和5年12月27日付上毛新聞報道記事

2 金井県議と2人の国会議員が映った政治活動用ポスター


3 自由民主党群馬県沼田市第三支部の令和4年分政治資金収支報告書(抜粋)



4 自由民主党沼田支部の令和4年分政治資金収支報告書(抜粋)



5 自由民主党群馬県利根郡第一支部の令和4年分政治資金収支報告書(抜粋)



6 政務活動費実績報告(県政報告レポート第41号印刷代、部数15,520枚で257,730円)

7 政務活動費実績報告(県政報告レポート第45号印刷代、部数14,050枚で499,800円)

8 県政報告レポート第45号



9 県政報告レポート第41号


**********

 ところが、この文書を受け取った群馬県選挙管理委員会書記で群馬県市町村課選挙・政治団体係の高橋誠係長は「当委員会は、このような情報をいただいても、以前から申し上げている通り、調査権がないので、対応が困難であり、まして、それぞれの県議の行った内容については、選良としての判断があったと思うので、それについての質問をされても、コメントする立場にない。また、仮に実際の不法行為があったとしても、以前から申し上げているように、告訴や告発をする権限を持たないので、直接、県警捜査二課などのしかるべき機関に相談してほしい。なので、報告ということであれば預かってもよい」というのです。

 当会は、「やはりそういうことを言うかもしれないと想像はしていたが、具体的な証拠もあることから、直接本人に対して、議会事務局を通じて、事実関係について説明するよう働きかけてはもらえませんか?」と強く要請しました。しかし、県選管書記の高橋係長は、「部署内で回覧して情報共有はするが、それ以上のことができるかどうか、検討するとしか、今は申し上げられない」という趣旨のお答えでした。

 その後、1月26日に別件で東京高裁でお目にかかった際に、高橋係長に「その後、金井県議の疑惑についての上申書に対する対応は何か進展がありましたか?」と質問しましたが、同係長は「前回申し上げたとおりで、部内回覧はしたが、それ以上のことはしていないし、今後もするつもりもない」とのことでした。

■しかし、これでは、公正、公平な選挙システムが担保できるのでしょうか。なぜなら、選挙管理委員会とは、選挙が公正に行われるように選挙に関わる事務を管理する組織だからです。しかも、
選挙管理委員会は、行政機関のひとつでる行政委員会として、選挙の公平性を保つために、政治家である首長から独立した執行機関となっています。

 そもそも、県庁10階の群馬県選挙管理委員会の事務局は、群馬県市町村課選挙・政治団体係が担当しています。一般県民には、告発が義務とされることはありませんが、公務員の場合は、刑事訴訟法239条2項に「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」と定められており、告発義務が課されています。

 行政が適正に行われるためには、各種行政機関が相互に協力して一体となって行政機能を発揮するのが重要になります。そこで、その運営について協力義務を課すとともに、告発に裏付けられた行政運営を行うことにより、犯罪の捜査や公訴権の行使といった刑事的な行政についても適正な運用をし、その機能がより効果的に発揮されるようにするために、公務員の告発義務が定められているわけです。

■とりわけ、選挙という公民権に係わる業務に携わる群馬県選挙管理委員会の事務局を兼務する群馬県市町村課選挙・政治団体係は「選挙管理事務、市町村選挙連絡調整、政治資金規正、政治団体」について担当しており、公職選挙法や政治資金規正法の正しい運用についての啓発活動も主な業務の一つのはずです。

 しかし、今回のように、肝心の選挙管理委員会は、県民が具体的な証拠を添えて報告し、対応を促しても、ちっとも動こうとしません。

 なので、やはり直接、群馬県警の捜査二課に告発の相談をする必要がありそうです。関連情報の収集や、金井県議のお膝元の状況の確認を進めるなかで、前向きに検討することにしたいと思います。

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

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中国共産党の脅しにめげず台湾国民がくだした総統選の結果と台湾国民の政治的バランス感覚についての考察

2024-01-14 22:25:38 | 国内外からのトピックス



今回2024の台湾総統選挙の結果



前回、2020年の台湾総統選挙の結果

■4年に一度、国民の直接投票で首長を選ぶ台湾の総統選挙が、1月13日(土曜日)に投開票が行われ、同日午後8時半(日本時間9時半)に民進党の頼清徳候補が勝利宣言を行いました。台湾では、民主化が実現し、1996年から総統を直接選挙で選出しており、同じ政党が3期続けて政権を担うのは今回が初めてとなります。



■台湾では、1945年8月の日本の敗戦により、日本人が去った後、連合国軍の協定に基づき、中華民国国民党政府に返還委譲されました。当時、中華民国主席の蒋介石が任命した陳儀が行政長官として1945年10月24日に台北に赴任し、翌25日に式典が開かれて、台湾での日本統治時代は終焉しました。

 当初は多くの台湾人が国民党を快く出迎えましたが、まもなく祖国復興の希望が幻想だと気付かされることになりました。なぜなら、国民党政権が台湾で実権を握ってからは、役所では汚職が拡がり、軍紀は乱れ、一般市民の物品を強奪する行為が頻発したからです。

 国民党から台湾の行政長官として任命された陳儀は、台湾の一般市民に対して、口では「中国の同士で主権者になった皆さんは、日本による奴隷支配から中国の主人になった」と説きましたが、公務員試験は北京語で実施するなどして、必然的に台湾人を役所から排除しました。さらに、自由な社会を目指そうとした台湾人が、台湾学生連盟、台湾農民協会、台湾建設協会など社会・業界団体をつくろうとしましたが、陳儀は一切認可せず、新たな社会統制が始まりました。

 こうした情勢下で、二・二八事件が起きました。これは、1947年(民国36年)2月27日、台北市でタバコを売っていた台湾人女性に対し、取締の役人が暴行を加えたことを発端に、翌28日には台湾人による市庁舎への抗議デモが行われましたが、憲兵隊が機関銃を乱射し数十人が死傷したため、抗争はたちまち台湾全土に広がりました。警備総司令部は急遽、戒厳令を布告しましたが、台湾人は放送局を占拠して全台湾に事件の発生を知らせました。

 翌3月1日、暴動は台湾全土に波及し、圧政への不満が高まっていた台湾人は、旧日本軍が残した僅かな兵器や規律で立ち向かい、多くの地域で一時実権を掌握しました。しかし、国民党は中国本土から援軍を派遣し、3月8日、憲兵2千、陸軍1万1千の増援部隊が基隆港と高雄港から上陸すると、台湾人に向けて発砲しながら進軍しました。この部隊は米国の支援で装備された部隊だったため、ほぼ武器を持たない台湾人の抵抗はたちまち劣勢に陥り、警備総司令部は3月14日に全島を平定しました。

 筆者の台湾の義父は1999年に74歳で亡くなりましたが、終戦前の20歳の頃、沖縄戦に備えて基隆で日本人の上官のもとで戦闘訓練に明け暮れていましたが、結局沖縄への船が全て沈められたため、命拾いをしました。終戦で日本が敗戦したことで、虚脱感を覚えたそうですが、いわゆる「犬が去って豚が来た」といわれる国民党占領下で起きたこの事件で台湾人として蜂起し、日本式軍事訓練を受けた仲間と共に、日本軍が残した武器を手に、果敢に国民党軍と戦った話を、筆者が台湾に行くたびにしてくれました。その際、いつも「(義父の地元の)台中の放送局を占拠したが、台南の放送局がもっと頑張って持ちこたえてくれれば、戦況は好転したはず」と言っていました。よほど口惜しかったのでしょう。そしてこの話をする前に、必ず家の周囲の窓をしっかりと閉めていました。なぜなら、1980年代前半はまだ戒厳令が布かれていたからです。

■やがてまもなく、中国大陸での国共内戦に敗れた蒋介石率いる国民党が、1949年12月に台湾に移ることを決定し、蔣介石は1950年3月1日、「中華民国」総統に返り咲きました。その後、アメリカの支援をもとに大陸の中華人民共和国との軍事対立が続く中、蔣介石一族は絶大な権力をにぎって独裁政治を続け、共産党軍の侵攻に備えてすでに1949年5月20日に戒厳令を布き、人権を抑圧する体制を作り上げました。その体制下で台湾の人々は政党活動、言論・集会、労働運動などの自由を奪われました。

 しかし、1971年にはアメリカのニクソン大統領による米中関係の改善のあおりを受けて、国際連合の「中国」の国連代表権を失うという事態となりました。台湾をめぐる情勢が厳しくなるなか、蔣介石は1975年4月5日に死去し、権力は息子の蔣経国が継承しました。なお、戒厳令は1987年まで38年続きました。

 筆者は当時、戒厳令が布かれていた1970年代後半に、台湾造船公司(TSBC)への船舶建造に関するパッケージ・ディール方式のビジネス(船の設計図に加え、エンジンやポンプや航海計器などの装置類をまとめて供給するビジネスモデル)に携わっていましたが、その時、仲介商社として起用していた日商岩井(現・双日)の現地駐在の有能な日本人商社マンが、真夜中に急用で車を運転したところ、突然信号を無視してきた軍関係の車両に激突され、死亡するという事件がありました。しかし戒厳令下にあったため、事故の補償など全く為されず、残された若い妻と子が不憫でなりませんでした。

■蒋経国は1972年、行政院長となり、独裁者の父である蔣介石から事実上党・国・軍を引き継ぎました。しかし、既に国民党の掲げる全中国の正統政権であるとする主張は破綻して、大陸光復=大陸反攻のスローガンはもはや絵空事であることを自覚していた蒋経国は、国際的な孤立に伴う対外的な中華民国の正統性の危機に対して、「台湾化」に活路を見いだそうとしました。

 日本統治時代に整備されたインフラや教育、医療等の効果により1950年代~1960年代を通じて台湾は順調に経済が発展してきましたが、大陸反攻をスローガンに掲げた軍事面での投資が優先され、空港や鉄道は日本統治時代のままで産業基盤の整備は立ち遅れていました。そのため、国の危機を憂えた台湾の人々の中には海外への移住を目指す動きも盛んでした。

 このため蔣経国は1973年11月に、産業基盤の整備と重化学工業の振興を目的とし、十大建設と呼ばれる国家プロジェクトに着手しました。それらは、南北高速道路建設、西部縦貫鉄道電化、北回り鉄道敷設、桃園国際空港建設、台中港建設、蘇澳港拡張、中国鋼鉄創設、中国造船創設、石油化学プラント建設、そして3つの原発を含む発電所建設でした。

 筆者が初めて台湾を訪れたのは1976年1月ですが、その際、IHIの技術指導を受けていた高雄の中国造船の100万トンドックや、熊谷組の技術指導を受けて造った南北高速道路を目の当たりにした記憶があります。

 この十大建設の成功は、台湾社会に団結と達成感をもたらしました。そして1970年代を通じ、台湾経済の発展は世界経済において台湾の地位を高めることに成功し、韓国、香港、シンガポールとともに「アジア四小竜」と呼ばれる存在となり、今や、台湾人の一人当たりGDPは、我々日本人を上回っています。

■さて、今回の総統選挙では冒頭に示したように3期連続の民進党政権が決まりました。ただし、国民党・侯友宜氏と民衆党・柯文哲氏の合計の得票率(60.0%)が、当選した頼清徳氏(40.1%)を上回ったことから、「総統選挙における民進党の優位時代が終わった」と分析する向きもあります。

 そして、同じ日に行われた立法院(日本の国会に相当)の選挙では、全部で113議席のうち、中国との対話を重視する国民党が最多の52議席を獲得し、民進党の51議席を1議席上回って第一党の座を確保しています。ただし、両党とも過半数の57議席に達せず、8議席を獲得した第三政党の民衆党がキャスチングボートを握っている状態となりました。今後の政権運営にとってこの8議席が大きな意味を持つのは確かで、2月から始まる立法院での議長選出が早くもヒートアップしています。

 それにしても、なぜ「選挙の争点」として、民進党の頼氏と国民党の侯氏が明確に「中台関係」の争点化を図ったのに、中間派の有権者、とりわけ若者世代にはあまり響かなかったのでしょうか。民衆党の柯文哲氏は、当初、国民党との連立(合作)を標榜していましたが、総統選間近になり、総統候補を巡る調整がまとまらず、結局袂を分かち、結果的に総統選挙では民進党が勝利しました。

 しかし、前回の5議席から8議席に増やし、国民党も民進党も立法院では過半数を取れなかったため、存在感を増したかたちとなりました。柯文哲氏は中台関係について、あいまいなスタンスをとり、1987年の戒厳令解除を節目として、それまでの国民党一党独裁に対する台湾の民主化運動が達成されるまでの実態を知らない若い世代の間には、国民党も民進党も旧来の既存勢力という認識が広がり、2019年8月6日に当時台北市長だった柯文哲により結成された民衆党に新鮮さを感じたものとみられます。

 実際のところ、民衆党の柯文哲氏は、前言をいとも簡単に翻すため、信用できないとみる向きも多数います。それでも、独裁政治をいやというほど味わった台湾人には、政権が長期にわたると腐敗するという意識が依然として高く、そのため、中国共産党の脅威が迫る国際情勢の中にあっても、民進党の3期目となる長期政権に抵抗があることも事実です。また、国民党に限らず、民進党の立法院の候補者の中にも、汚職や不倫のスキャンダルを抱えた前議員がおり、民進党は決してクリーンなイメージではないことも、民衆党の得票数アップの一因とみられます。

■それにしても、なぜ総統選では民進党で、同時に行われた立法院選挙では、僅差とはいえ国民党が民進党を上回り第一党となれたのでしょうか。

 台湾では、中華民国の創建者である孫文の「五権分立」理論に基づいて、行政院・司法院・考試院・監察院と共に一院制の立法機関として立法院が設置されています。中華民国にはもともと、総統・副総統の任免権、憲法改正権を有する最高機関「国民大会」が存在していましたが、2005年に廃止されたため、立法院が名実共に唯一の最高立法機関となっています。

 また、蒋介石による国民党一党独裁時代の1948年から1991年までは、中国大陸で選出された議員が立法院の大半を占めていましたが、1992年以降は澎湖、金門、馬祖を含む台湾在住の有権者によって選出された議員だけで構成・改選されています。会期は2月~5月、9月~12月の二会期制を採用しており、現在、議員定数113、任期は4年です。

■今回の総統選を見ると、九州ほどの面積に住む約1955万人の有権者のうち約72%にあたる1400万人余りの投票者数ですが、投票は午後4時に締め切られ、開票作業が始まり、4時間半後の午後8時半(日本時間午後9時半)には開票結果が公表され、当選人が勝利宣言をしたことです。これほど早く開票作業ができるのはなぜだろうと筆者は疑問を持ちました。

 そこで、台湾の親戚筋に聞いたところ、開票作業はそれぞれの開票所で開票し、直ちに集計作業が行われ、中央選挙委員会に結果を連絡しているのだそうです。日本のように、投票箱を役所の職員が一人で持ちまわったり、山奥の投票所から遠い市街にある開票所に運んだり、という非効率な方法ではないこともその理由です。

**********フォーカス台湾2024年1月15日17:17
開票作業の不正指摘する動画拡散 中央選挙委トップ「100%自信ある」/台湾

中央選挙委員会の李進勇主任委員=資料写真
(台北中央社)13日に実施された総統・立法委員(国会議員)選の開票作業を巡り、インターネット上では一部投開票所での不正を指摘する動画が複数拡散されている。中央選挙委員会の李進勇(りしんゆう)主任委員(閣僚)は15日、全国24万人以上の選挙スタッフが法にのっとって作業を進めたことに「100%の絶対の自信がある」とし、候補者陣営が結果を受け入れられないのであれば、訴訟を起こすよう呼びかけた。
 台湾の選挙の開票作業では投票用紙を一枚ずつ観衆席に広げて見せ、得票者の読み上げを行い、正の字で票を集計していく方式が用いられている。インターネット上に出回っている動画では、投票箱の底に仕切りで票が隠されていた疑いや読み上げられた候補者とは別の候補者に票が加えられた疑い、決められた手順に従わずに集計が行われた疑いなどが指摘されている。
 動画について中央選挙委は14日、拡散されている多くの動画は一部の場面を切り取ったに過ぎず、開票作業に濡れ衣を着せ、対立感情をあおるのが狙いだと指摘。信じたり、拡散したりしないよう呼びかけた。
 不正疑惑を受けて15日に記者会見を開いた李氏は、少数の人が偽情報を拡散したことは非常に遺憾だとし、台湾の民主主義の価値観や選挙管理機関の公正、全ての選挙スタッフの潔白を守ると明言。たとえ1人であっても選挙スタッフが不正を働いていたことが裁判所で認定されれば、即座に辞任すると宣言した。
 非営利組織の台湾ファクトチェックセンター(台湾事実査核中心)は15日までに、投票箱に票が隠されていた疑惑や別の候補者に票を加えていた疑いを指摘する動画について、いずれも「誤り」とする調査結果を発表している。
(陳俊華/編集:名切千絵)
**********

 今回の総統選・立法院選挙では、中国共産党によるさまざまな妨害工作が行われました。上記の記事にあるようなSNSを使ったフェイク動画もそのひとつです。

■台湾では、選挙運動費用の上限や候補者のポスター掲示の制限などはなく、候補者の上り旗が、街中の道路わきの至る所に立ち並びます。候補者のポスターも、総統選候補と地元選挙区の立法院委員候補のツーショットのポスターが、駅前、バスターミナル周辺、主要交差点に面したビルの壁面一杯に貼られます。

 メディアも、選挙の半年前から、選挙情勢について報道をはじめ、1か月くらい前からは朝から夜まで、多くの放送局や新聞、ネットチャンネルで報じます。

 今回の総統選・立法院選挙の投票率が72%になったのも、総統という国のトップを直接選挙で選ぶという制度はもちろんのこと、国際情勢のなかで自国の置かれた立場を台湾の国民が良く認識していることもあるでしょうが、かつての独裁政治から民主化を勝ち取ってきただけに選挙の重みを理解していることが背景にあると考えられます。

 それにしても、よく聞かれるのは、なぜ総統には民主党の頼清徳氏を選んだのに、立法院の委員選挙は国民党に票を入れる台湾人が多いのか?という質問です。筆者も疑問でしたので、台湾の親戚筋に聞いてみたところ、国際情勢については中国共産党と一線を画す民進党を支援するが、地元の候補者は、戦後、国民党政府下でいわゆる地元のコミュニティの各種団体への補助金やら、土着の宗教団体への優遇策やら、地縁・血縁重視の隣保班や同族意識など、いわゆる日本のムラ意識で構成されるタテ社会で見られるような集団意識が醸成されてきたため、これが依然として根強く存在していることが原因だという見解が示されました。

 言ってみれば、日本でも地方議員選挙の場合、議員はおらが地区からぜひ当選させたいという仲間意識に通じるものがあると言えます。他方で、国のトップを直接選挙で選べる台湾では、やはり国際的な立場からの施策で判断するという投票行動をするため、こうした捻じれ減少が起きることになるわけです。

 事実、1996年に国民党の李登輝が総統に就任してから、2016年に民進党の蔡英文の総統選挙の時に、初めて民進党が第一党になるまで、立法院は国民党が筆頭政党として議長を務めていました。その間、2000年から2007年の民進党の陳水扁政権の時も、同様、立法院は国民党が過半数を占めていました。したがって、今回は16年ぶりの捻じれ状態の立法院ということになります。

■こうした経緯を見ると、台湾人の政治に対するバランス感覚というものが垣間見えて来るようです。なにはともあれ、現状維持を訴えた民進党の頼清徳氏が総統選に勝利したことを皆さんと喜びたいと思います。今後、台湾海峡を挟んで中国共産党によるさまざまな台湾への圧力が加えられると思いますが、引き続き台湾の支援に取り組んで参ります。

【群馬県台湾総会書記からの報告】

※関連情報
**********NHK News Web 2024年1月14日19:06
台湾総統選 民進党・頼清徳氏が当選 立法院は過半数維持できず
 13日に投票が行われた台湾の総統選挙で、与党・民進党の頼清徳氏が550万票を超える票を獲得し、野党の2人の候補者を破って当選しました。台湾で1996年に総統の直接選挙が始まってから初めて、同じ政党が3期続けて政権を担うことになります。
 一方、同時に行われた議会・立法院の選挙では民進党が過半数を維持できず、5月に就任する予定の頼氏は難しい政権運営を強いられることになりそうです。

 4年に1度行われる台湾の総統選挙には、与党・民進党から今の副総統の頼清徳氏、最大野党・国民党から現職の新北市長の侯友宜氏、野党第2党・民衆党から前の台北市長の柯文哲氏のあわせて3人が立候補しました。

 投票は13日に行われ、即日開票の結果、民進党の頼清徳氏 558万6019票、国民党の侯友宜氏 467万1021票、民衆党の柯文哲氏 369万466票で頼氏が当選しました。

 投票率は71.86%で、前回4年前より3ポイントあまり低くなりました。

★中国との向き合い方が争点の1つ★

 選挙戦では、中国との向き合い方が争点の1つとなり、中国の圧力に対抗する姿勢を示す与党・民進党が政権を維持するのか、中国との対話や交流拡大などを訴える野党が政権交代を実現するのかが焦点となりました。

 頼氏は、「中国と台湾は別だ」という立場で、アメリカなどとの連携を強めて中国を抑止しようという現職の蔡英文総統の路線を継承すると訴えました。

 これに対し、野党の2人は、頼氏がかつて「自分は現実的な台湾独立工作者だ」と発言したことを執拗にとりあげ、なかでも侯氏は「民進党政権が台湾海峡の両岸に武力衝突の危機をもたらした」と批判し「両岸の交流を密にして衝突のリスクを下げる」と主張しました。

 しかし、中国当局が今回の選挙を「平和か戦争かを選ぶものだ」と定義して台湾の選挙への介入ともいえる姿勢を示すなか、侯氏らの主張に支持は広がりませんでした。

 頼氏はことし5月に就任する予定で、台湾で1996年に総統の直接選挙が始まってから初めて、同じ政党が3期続けて政権を担うことになります。

★民進党の頼清徳氏が勝利を宣言★


 与党・民進党の頼氏は日本時間の午後9時半すぎ記者会見し勝利宣言しました。

 この中で頼氏は「選挙イヤーの最も注目された最初の選挙で、台湾は民主主義陣営の勝利を成し遂げた」とした上で「民主主義と権威主義の間で、台湾は民主主義の側に立つことを選んで全世界に示した。台湾の人たちはみずからの行動によって、外部勢力の介入を食い止めることに成功した」と述べました。

 頼氏は「台湾海峡の平和と安定を維持するのが総統としての重要な使命だ。ごう慢にもならず、卑屈にもならず、現状を維持する。対等と尊厳を前提とし、対抗に代えて対話を行い、自信を持って中国との交流と協力を進め、台湾海峡両岸の人たちの福祉を増進し、平和共栄の目標を達成する」と述べました。

 一方で「中国の言論や武力による脅しに対して、私には台湾を守る決意もある」と述べました。

★頼清徳氏 勝因は★


 頼清徳氏は今回の選挙戦で、この8年間、政権を担ってきた民進党・蔡英文総統の路線を継続することを訴え、「現状維持」を望む幅広い層に支持を広げたものとみられます。

 今回の選挙で大きな争点のひとつとなった中国との関係について頼氏は「台湾は中国の一部だ」という中国の主張を認めず、アメリカなどとの関係強化によって中国に対抗しようという姿勢を強調していました。

 選挙戦では「台湾は世界の台湾であるべきだ。中国に頼る過去の路線に後戻りしてはいけない」と訴えてきました。

 また、副総統候補として台湾当局の駐米代表を務めた蕭美琴氏とコンビを組み内外にアメリカとの関係強化の路線を継続する姿勢を示したことも受け入れられたとみられます。

 さらに選挙戦では若い世代が関心を寄せる住宅対策や子育て政策など内政に力を入れることもアピールしました。

 根強い人気のある現職の蔡英文総統のもとで副総統を務めた頼氏は、今回、幅広い層からの支持を得たものとみられます。

★蔡英文総統 「台湾の人々は民進党政権の継続を選んだ」★


 蔡英文総統は日本時間の13日午後10時すぎに与党・民進党の集会で演説し「私たちは世界に向けてどのような困難もどのような抑圧も民主主義への信念をくじくことはできないと証明した」と述べました。

 そのうえで「きょうの選挙の結果、台湾の人々は民進党政権の継続を選んだ。私たちは与党として着実に前進するとともに台湾をさらに強くしなければならない」と強調しました。

 そして「選挙の終わりは、団結の始まりだ。きょう誰に投票しようと、民主的な台湾は再び新たな一歩を踏み出した。あすから私たちはともに台湾のために努力しよう」と呼びかけました。

★頼氏 一夜明けすぐ 日本の窓口トップや国会議員と会談★


 当選した頼氏は14日朝、台北市内の民進党本部で日本の台湾に対する窓口機関、日本台湾交流協会のトップの大橋光夫会長と会談しました。

 この中で頼氏は、能登半島地震で亡くなった人への哀悼と被災者へのお見舞いの気持ちを伝え、大橋会長は、台湾の人たちの思いやりに感謝しました。

 そして頼氏が「日本は台湾にとって非常に緊密な民主主義のパートナーだ」と述べたのに対し、大橋会長は「日本の人たちは日台関係の重要性を理解している」と応じ、協力関係をさらに引き上げたいという考えで一致しました。

 頼氏はこのあと、日本と台湾の交流を進める超党派の議員連盟「日華議員懇談会」の会長を務める自民党の古屋・元国家公安委員長と会談し、経済や文化の交流がさらに深まることに期待を示しました。

 頼氏が、当選から一夜明けてすぐに日本の代表と会ったことは、対日関係重視の姿勢のあらわれと言えそうです。

★米元高官が台湾訪問へ 頼氏と会談か★

 台北にあるアメリカの代表機関アメリカ在台協会は、アメリカ政府の元高官が、前例に従い、私人として14日から台湾を訪問すると発表しました。

 訪問するのは、共和党のブッシュ政権で安全保障政策担当の大統領補佐官を務めたハドリー氏と民主党のオバマ政権で国務副長官を務めたスタインバーグ氏の2人で、15日に台湾の政治指導者と会談するということです。総統選挙で当選した民進党の頼清徳氏と会談するとみられます。

 訪問では「選挙が順調に実施されたことにアメリカ国民の祝意を伝えるとともに、台湾海峡の平和と安定に対する我々の長年の関心を改めて表明する」としていて、中国が台湾への軍事的な圧力を強める中、台湾海峡の現状維持のために米台の連携を確認するねらいがあるとみられます。

 一方で発表では元高官が前例に従い、私人として訪問することを強調していてアメリカと台湾の間の公的な往来に反対する中国を過度に刺激しないよう配慮を示したとみられます。

★台北市民「生活を良くして」「安全を守って」★

 総統選挙から一夜明け、台北の市民からは新政権への期待などが聞かれました。

 このうち、民進党の頼清徳氏に投票したという23歳の女性は「頼氏には、台湾の人たちの生活を良くしてほしい。仕事の機会をつくってほしい」と話していました。

 また同じく頼氏に投票したという70歳の女性は「台湾の安全を守ってほしい。世界の人たちに台湾の民主主義を伝えてほしい」と話していました。

 一方、国民党の侯友宜氏に投票したという45歳の男性は「結果は残念だ。頼氏には、彼に投票しなかった人たちの声に耳を傾け、安全保障や経済問題に取り組んでほしい」と話していました。

★国民党の侯友宜氏が敗北を認める★


 国民党の侯氏は日本時間の午後9時ごろ支持者を前に「今回の総統選挙の結果について私個人の努力が足りず、非常に遺憾だ。政権交代を実現できず、皆さんを失望させた。私は心からおわびする」と述べ敗北を認めました。

★侯友宜氏 敗因は★

 侯友宜氏は今回の選挙で大きな争点のひとつとなった中国との関係について、台湾の防衛力を強化しながら中国との交流を密にして衝突のリスクを下げると主張しましたが、幅広い支持が得られませんでした。

 侯氏は、経済や教育などの分野で中国との交流拡大の必要性を訴え2023年11月にはFTA=自由貿易協定にあたる「経済協力枠組み協定」の協議再開や中国人観光客の受け入れ、それに中国人学生の台湾留学と台湾での就職を進める政策を打ち出してきました。

 また、2期8年続いた民進党政権について中国との関係が悪化し交流が減っただけでなく、台湾では、汚職や不正が増えたなどと批判し政権交代を訴えてきました。

 今回の選挙戦では、野党第2党の民衆党と連立政権を組む考えを強調し、柯文哲氏との候補者の一本化を模索したものの実現しなかったこともあり、国民党以外の支持層の獲得につながらなかったとみられます。

★民衆党の柯文哲氏も敗北を認める★


 民衆党の柯氏は日本時間の午後9時すぎ、支持者を前に「私はあきらめないので皆さんもあきらめないでほしい。私たちは必ず努力を続け、4年後、自信をもって柯文哲と民衆党に投票してもらえると信じる」と述べ、事実上、敗北を認めました。

★柯文哲氏 敗因は★

 柯文哲氏は今回の選挙戦で「新たな勢力による政治の変革が必要だ」だとして、台湾でこれまで交互に政権を担ってきた民進党でも国民党でもないみずからが率いる民衆党によって政権交代をすべきだと訴えましたが、幅広い支持が得られませんでした。

 また、今回の選挙戦では、立候補の届け出の締めきり直前に最大野党・国民党との候補者の一本化をめぐっていったんは合意したものの結局は実現しなかったことで、既成政党と組もうとしたというマイナスイメージなどから支持が広がらなかったものとみられます。

★与党・民進党 立法院の選挙では過半数維持できず★


 一方、総統選挙と同時に行われた議会・立法院の選挙では、113議席のうち、国民党が52議席、民進党が51議席、民衆党が8議席を、それぞれ獲得しました。

 民進党は改選前より11議席減らして過半数を維持できませんでした。住宅価格の高騰などへの不満が与党に向かったことや、長期政権をけん制する有権者の心理が要因とみられ、頼氏は「われわれの努力が足りなかったことを意味する。虚心に反省すべき点だ」と述べましたが、難しい政権運営を強いられることになりそうです。



★中国政府「民進党 民意を代表できない」★

 中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官は13日の深夜に談話を発表しました。

 この中で、総統選挙で当選した民進党の頼清徳氏の得票率が40%だったことや、議会にあたる立法院の選挙で民進党が過半数を維持できなかったことを念頭に「台湾地区の2つの選挙結果は民進党が決して主流となっている民意を代表できないことを示している」としています。

 そして「今回の選挙は台湾海峡両岸の同胞がさらに親しくなろうという共通の願望を変えることはできないし、最終的に祖国が必ず統一されるという大勢も止めることはできない」としています。

 その上で「国家統一を完成させるという立場は終始一貫している。『台湾独立』という分裂行動や外部勢力の干渉に断固反対する。台湾の関係する政党や団体などとの交流や協力を促進し台湾海峡両岸の融合発展を深め、平和的発展と祖国統一の大業を推し進める」として台湾統一への強い意欲を示しました。

 また、中国外務省も報道官の談話を発表し、「台湾問題は中国の内政だ。台湾の情勢がどう変化しようが、世界には『1つの中国』しかないし台湾が中国の一部分だという基本的事実は変わらない」と主張しました。

★中国のSNS 関連することば 検索できず★

 一方、中国のSNS「ウェイボー」では、13日の朝、台湾総統選挙に関連するキーワードが検索ランキングでトップになりました。

 しかし、その数時間後、このキーワードを検索しようとすると「関係の法律と政策により、この話題の内容は表示されません」という文章が表示され、検索できなくなり、当局などが神経をとがらせていることが伺えます。

 ただ、中国のSNS上には、当局などによる検閲をかいくぐることばを使っても民進党の頼清徳氏の当選をネット上で検索できないことを疑問視し「関係部門は台湾政策の失敗を直視する勇気がないのか」といったコメントもみられました。

★アメリカ ブリンケン国務長官 頼氏に祝意★


 アメリカのブリンケン国務長官は13日、声明を発表し、当選した民進党の頼清徳氏に祝意を示すとともに「台湾の人たちは、確固たる民主主義の制度と選挙プロセスの強さを改めて示した」と歓迎しました。

 その上で「アメリカは台湾海峡の平和と安定の維持や威圧や圧力とは無縁な平和的な解決に取り組んでいく。民主主義的な価値を持つアメリカと台湾の人々は引き続き、経済や文化などで連携を拡大していく」としています。
バイデン大統領 「台湾の独立を支持しない」


 また、バイデン大統領は、13日、記者団から台湾総統選挙の結果について聞かれ「われわれは台湾の独立を支持しない」と述べました。

 「台湾は中国の一部だ」という中国の立場を認識する、従来からのアメリカの政策に変更はないという立場を改めて強調した形です。

★上川外務大臣 頼氏に祝意★


 上川外務大臣は談話を発表し「民主的な選挙の円滑な実施と頼氏の当選に祝意を表する。台湾はわが国にとって基本的な価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーで大切な友人だ。政府としては、台湾との関係を非政府間の実務関係として維持していくとの立場を踏まえ 日台間の協力と交流のさらなる深化を図っていく。台湾をめぐる問題は、対話により平和的に解決されることや地域の平和と安定に寄与することを期待する」としています。

★外務省幹部 「中国への警戒感強め 今回の結果につながったか」

 外務省幹部はNHKの取材に対し、「事前の予測通りの結果だ。中国側が選挙戦終盤に軍事的、経済的に圧力をかけたことや、偽情報などがあふれたことが、かえって中国への警戒感を強め、今回の結果につながったのではないか。日本としては、両岸問題の対話による解決が世界の平和と安定にとっても重要だと国際社会に働きかけていく」と述べました。

 また別の幹部は、「頼氏が勝利したものの、民進党は前回・4年前ほどの票は取れなかった。どのような外交政策を打ち出していくのか注視していく必要がある」と述べました。

★中国大使館「祝意表明は内政に対する重大な干渉」★

 上川外務大臣が祝意を示したことについて、東京にある中国大使館は14日、報道官の談話を発表し「日本の外務大臣が、公然と祝意を表明したことは、中国の内政に対する重大な干渉だ。強い不満と断固とした反対を表明する」として、日本側に抗議したと明らかにしました。そのうえで「“台湾独立”勢力にいかなる誤ったシグナルも送らないよう求める」などと日本側をけん制しました。

 「台湾は中国の一部だ」と主張する中国政府は、頼氏のことを「台湾独立派」と非難していて、日本政府が頼氏に祝意を示したことに強く反発したかたちです。

 また、中国外務省は、アメリカのブリンケン国務長官が台湾総統選挙で当選した民進党の頼清徳氏に祝意を示す声明を出したことについて「声明は『1つの中国』の原則に著しく違反し、『台湾独立』勢力に誤ったシグナルを送るものだ。中国はこれに強い不満を示し、断固反対する」としてアメリカ側に抗議したとしています。

★イギリス キャメロン外相 「台湾の活力ある民主主義を証明」★


 イギリスのキャメロン外相は声明で、今回の総統選挙について「台湾の活力ある民主主義を証明するものだ」と指摘し、当選した民進党の頼清徳氏に祝意を示しました。

 そのうえで「台湾海峡の両岸が、武力による威嚇を行うことなく、建設的な対話を通じて平和的に意見の相違を解決する努力を改めて行うことを願っている」としています。

★EU 「いかなる一方的な現状変更の試みにも反対」★


 EU=ヨーロッパ連合は声明で、選挙に参加したすべての有権者に祝意を示すとしたうえで「台湾海峡の平和と安定が地域と世界の安全と繁栄にとって重要だ。EUは台湾海峡での緊張の高まりを懸念し、いかなる一方的な現状変更の試みにも反対する」と強調しました。

★リトアニア ランズベルギス外相 「民主主義の力強さたたえる」★


 また、台湾との関係強化を進め、「台湾」の名を冠した出先機関「駐リトアニア台湾代表処」の開設を認めたことで中国から報復を受けているリトアニアのランズベルギス外相はSNSで頼氏に祝意を示し「台湾の人々とともにわれわれは、自由で公正な民主主義の力強さをたたえている」としています。

★ロシア外務省 「台湾は中国の不可分な一部 台湾の独立に反対」★

 ロシア外務省のザハロワ報道官は13日、声明を発表し「台湾は中国の不可分な一部であり、ロシアはいかなるかたちでも台湾の独立に反対している」と強調しました。

 そのうえで「台湾の選挙を利用して中国に圧力をかけ、台湾海峡や地域全体を不安定化させようとする特定の国々による試みは非生産的であり、国際社会は非難すべきだ」として中国を支持する姿勢を示し、アメリカなどをけん制しました。

★パラグアイ大統領府 「頼氏に心からお祝い」★

 南米で唯一、台湾と外交関係を持つパラグアイの大統領府は13日「頼氏に心からお祝いを伝える。民主主義の責務を果たした台湾の人々を祝福する」との声明を出し、頼氏の勝利を歓迎しました。

 頼氏は去年、南米各国の首脳とならんでパラグアイのペニャ大統領の就任式に出席していて、ペニャ氏はみずからのSNSで「私たちの国をより強くするために協力していく」と述べ、台湾とのさらなる関係の強化に期待を示しました。

★記者解説 中国 民進党政権への揺さぶり機能せず★

〔北京 中国総局・須田正紀記者(日本時間13日午後11時ごろ)〕
 これまでのところ、中国政府の反応は出ていません。国営メディアも民進党の頼清徳氏の勝利宣言などについて一切伝えていません。

 ただ、中国は台湾での政権交代をあからさまに望んできましたので、逆の結果が確実となり、いらだちを深めていると思われます。

 習近平国家主席は、「祖国統一は歴史の必然だ」と述べ台湾統一への強い意欲を繰り返し強調してきました。

 中国政府はこれまで台湾の民進党政権に硬軟織り交ぜたさまざまな方法で揺さぶりをかけてきましたが、今回、それが機能しなかったことが浮き彫りになった形です。

 今後、台湾に対する圧力を強めるのは間違いないと思います。アメリカ政府の高官は、選挙のあと非公式の代表団を台湾に派遣すると明らかにしています。

 今後、台湾がアメリカや日本などと連携する動きに対し、中国がより強硬な手段に出てくる可能性はないのか、注視していく必要があります。

★記者解説 アメリカ バイデン政権 民進党政権の継続に安どか★

〔ワシントン支局 渡辺公介記者(日本時間13日午後11時ごろ)〕
 アメリカメディアは頼氏が勝利宣言すると、相次いで速報で伝え、関心の高さがうかがえます。

 バイデン政権は、公式な反応を示していませんが、民進党政権の継続が確実になったことで「くみしやすい」と受け止めているとみられます。

 特に、副総統に就任することになる蕭美琴氏は去年11月まで、ここワシントンで台湾当局の駐米代表を務め、党派を超えた信頼を集めてきたこともあり、台湾の防衛力強化の継続性という観点からも、安どしていると思います。

 一方で懸念しているのは、中国の反応です。バイデン政権は、頼氏を「独立派」だとして警戒感をあらわにしてきた中国が、台湾への軍事的な圧力を一段と強化し、地域を不安定化させる可能性があると見ています。

 バイデン政権としては、ウクライナと中東で2正面の対応を強いられているいま、台湾海峡で緊張が高まることは何としても避けたい立場です。

 アメリカでもことし11月には大統領選挙があります。再選を目指すバイデン大統領としては、国内問題に集中する上でも中国との対立が先鋭化することがないよう、状況を注視していくものと見られます。
**********

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新年早々立て続けに発生した天災と人災・・・羽田空港で起きたおよそ有り得ない衝突事故

2024-01-07 13:01:36 | 国内外からのトピックス
衝突炎上した海保機の残骸。

■元旦恒例のニューイヤー駅伝もトヨタ自動車の圧勝に終わり、穏やかな午後のひと時をゆったりと過ごしていたところ、午後4時10分ごろ、能登半島で深さ16キロを震源とするマグニチュード7.6の地震が発生し、志賀町で震度7の非常に激しい揺れを観測し、深夜になっても延々と燃える輪島市内の光景が報じられ初夢を見る間もなくテレビにかじりついていました。

 翌1月2日、かねてより一度は生で見たかった箱根駅伝の観戦のため、高崎から湘南新宿ラインで新宿に行き、小田急ロマンスカーで11時に新宿を発ち、小田原で一時下車してから箱根湯本駅に向かい、そこから箱根登山鉄道に乗り換え、大平台駅で下車し、予約しておいたホテルでくつろいでいました。

 そして午後6時前に、何気なくテレビを点けたところ、能登半島地震の避難指示のテロップが大きく表示されていた画面に突然、炎上する飛行機が映し出されました。午後5時47分ごろ、羽田空港のC滑走路上で飛行機同士が衝突し、JAL機が前輪を失った状態で火だるまとなって、滑走路脇で止まり、最初はエンジン部分でチョロチョロ燃えていた炎が見る見るうちにJAL機全体を包む様子を呆然と見ていました。

■一連の災害と事故で、昨年11月から騒ぎが拡大していた自民党の裏金問題がマスコミ報道からすっかり影を潜めてしまいました。自民党にとってはまさに天祐、或いは神風ともいえる新年早々の大災害と大事故ですが、羽田空港がらみの航空機事故と言えば、1966年(昭和41年)に立て続けに発生した5件の航空事故のうち、2月4日の全日空のボーイング727-100型機の羽田沖墜落事故、3月4日のカナダ太平洋航空のDC8-43型機の羽田空港墜落事故、3月5日の英国海外航空(BOAC)のボーイング707-436型機が羽田離陸後、富士山付近の上空で乱気流による空中分解墜落事故、8月26日の日本航空のコンベア880-22M型機の羽田空港離陸直後に墜落炎上事故を思い出します。ちなみに、同年11月13日の全日空のYS11型機による松山沖墜落は大阪伊丹空港からのフライトでした。

 また、1982年(昭和57年)2月9日、日本航空350便のダグラスDC8-61型機が機長の心身症による逆噴射操作で羽田空港沖に墜落した事故も思い出されます。

■1月3日の報道を見てみましょう。

**********NHK News Web 2024年1月3日20:45
羽田空港事故 交信記録やり取り詳細 “18分の避難”機内で何が
 2日、東京の羽田空港で日本航空の旅客機が着陸した直後に海上保安庁の航空機と滑走路上で衝突して炎上し、海上保安官5人が死亡した事故で、国土交通省は管制官と双方の機体との当時のやり取りを公表しました。
 「やり取りの詳細は」
 「“18分の避難” 機内では何が」
 交信記録の詳細と、乗客の証言をまとめました。
 ※記事文末に管制官と双方の機体との詳細なやり取りを掲載しています。


 2日午後6時ごろ、日本航空516便が羽田空港の滑走路に着陸した直後に、出発しようとしていた海上保安庁の航空機と滑走路上で衝突して炎上し、海上保安官5人が死亡、1人が大けがをしました。
 また、日本航空によりますと、516便の乗客乗員で新たに1人がけがをしていたことがわかり、あわせて15人がけがや体調不良で医療機関を受診したことが確認されたということです。
 15人は全員、乗客だということです。
★交信記録の詳細は★


 この事故について、国土交通省は3日夜、管制官と双方の機体が英語でやり取りしていた交信記録の和訳を公表しました。
★事故4分前:午後5時43分★
 それによりますと、事故の4分前の午後5時43分に、管制官は日本航空機に対し、C滑走路への進入を継続するよう指示しています。
 この際、管制官は「出発機があります」と伝え、およそ2分後には「着陸支障なし」とも伝えています。
★事故2分前:午後5時45分★
 さらに、事故の2分前の午後5時45分に、管制官は海上保安庁の航空機に対し、誘導路上の停止位置まで地上走行するよう指示しています。
 これに対し、海上保安庁の航空機は誘導路上の停止位置に向かうと復唱しています。
★事故発生:午後5時47分★
 このあと、事故が起きた午後5時47分まで管制官から海上保安庁の航空機に対し、滑走路への進入を許可する記録はありませんでした。
 一方、海上保安庁によりますと、海上保安庁の機長は、事故のあと「進入許可を受けたうえで滑走路に進入した」と報告しているということで、まったく食い違う認識を示しているということです。
 事故原因を調べている国の運輸安全委員会は調査官6人を現地に派遣し、海上保安庁の航空機からブラックボックスを回収するなどけさから本格的な調査を始めていて、今後、双方の機長らから話を聞くなどして当時の状況や事故の原因を調べることにしています。
★“避難の18分” その時、何が★
 日本航空は2日の事故について、羽田空港に着陸してから乗客乗員379人全員が機体の外に避難するまで18分間だったと明らかにしました。
 この18分間に何があったのか。乗客の証言をまとめました。
【着陸】


★“ドンドンドン 機体がバウンド”★
 「最初は普段通りの着陸かなと思ったが、そのあとドンドンドンと機体がバウンドした。外に出たらエンジンが燃えていたので、ただ事ではないなと思った。どんどん火の手がまわって、機体から離れたあとは機体がすべて燃えているような状況だった」(群馬県 50代男性)
★“腰が浮き上がるくらいの衝撃”★
 「ボンっというかなり大きい音がして、火が見えた。腰が浮き上がるくらいの衝撃だった。1分くらいして煙が入ってきて、呼吸が難しくなった感じがした。乗員が『大丈夫ですか、落ち着いて』と声をかけていて、乗客はみな落ち着いていたが、緊張感があった」(群馬県の50代男性)
★“ガシャーンという音 照明が暗く”★
 「着陸する時、普段のドーンという音ではなくガシャーンというような音がして、その後機内の照明が暗くなり、乗務員から『落ち着いて下さい』というような声かけがありました。それから脱出するまで数分ほどだったと思いますが、私がいた位置では煙が少し見える程度で乗客に大きな混乱はありませんでした」(前方の席 55歳男性)
【その後、機内は】
★“焦げ臭さ 一気に充満”★
「扉が開くまでの時間は感覚だと5分くらいだと思います。機内の温度はあつくはなかったが匂いは焦げ臭さが一気に充満したような感じだった」(埼玉県 30代男性)
★“小さい子ども 多く泣き声”★
「乗客はみんな混乱した様子で、特に小さい子どもが多く泣き声がして、親がなだめている様子でした。出火が続いて煙が機内に入ってくるので、みんな不安でした」(神奈川県 60代男性)
★“過呼吸のような状態”★
「CAの方から『落ち着いてください』という機内放送があり、ほとんどの人は、落ち着いていたが近くに座っていた女性は過呼吸のような状態になっていました」(埼玉県 59歳男性)
【避難】

★“落ち着くように” “立たないで”★
 「機内では『キャー』という叫び声が聞こえ、客室乗務員が『落ち着くように』とか『立たないでください』などと案内していた。煙が充満してきたので口と鼻を押さえて身を低くして避難するように言われ、出口から案内されて避難した。その後家族に無事を伝えた」(22歳 男子大学生)
★“低い姿勢で 子どもの口を押さえて”★
 「家族だけは守りたいと思い、子どもだけは煙に当たらないようにと、低い姿勢にさせて、妻には子どもの口を押さえてもらっていました。開くことができた前の扉から脱出用の滑り台で避難するまでには、10分から15分くらいはかかったように感じました。今は家族が無事でよかったと思っています」(埼玉県 33歳男性)
【交信記録(管制官と当該機とのやりとりのみ抽出)】
★午後5時43分2秒★
日本航空機:「東京タワー、JAL516スポット18番です」
管制官:「JAL516、東京タワーこんばんは。滑走路34Rに進入を継続してください。風320度7ノット。出発機があります」
★午後5時43分12秒★
日本航空機:「JAL516滑走路34Rに進入を継続します」
★午後5時44分56秒★
管制官:「JAL516滑走路34R着陸支障なし。風310度8ノット」
★午後5時45分1秒★
日本航空機:「滑走路34R着陸支障なしJAL516」
★午後5時45分11秒★
海保機:「タワー、JA722AC誘導路上です」
管制官:「JA722A、東京タワーこんばんは。1番目。C5上の滑走路停止位置まで地上走行してください」
★午後5時45分19秒★
海保機:「滑走路停止位置C5に向かいます。1番目。ありがとう」
 このあと、事故が起きた午後5時47分ごろまで、管制官から海上保安庁の航空機に対する滑走路への進入許可の記録はありませんでした
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日本航空516便のエアバスA350-941型機。機体番号:JA13XJ。日本航空として13機目のA350-900型機で、2021年11月18日に運用開始。今回の事故はエアバスA350の初の機体全損事故。価格3.11億ドル

海上保安庁の「MA770みずなぎ1号」のデ・ハビランド・カナダDHC-8-Q300型機。機体番号:JA722A(羽田航空基地所属)。羽田航空基地16時45分発予定で新潟航空基地17時55分着予定。本機は、元日に発生した令和6年能登半島地震の対応のため2回飛行、事故時は被災地向けの物資を中継場所となる新潟航空基地へ搬送予定。また、本機は2011年3月11日の東日本大震災による津波で仙台空港にて被災後、2012年3月29日に修復され唯一復帰した機体。価格約1700万ドル

■報道でも取りざたされていますが、なぜ管制官から海保機に対し、滑走路への進入を許可する記録が存在しないのに、海保機が滑走路に侵入し40秒間も離陸せずに留まっていたのか、という疑問です。

 そうした中、ネットに管制塔と日航機(JAL516)および海保機(JA722A)との交信記録が掲載されました。


*****JA722AとJAL516に関する交信記録*****
               発生年月日 令和6年1月2日
TIME(JST)            STATION              CONTENTS
17:43:02                JAL516                 Tokyo TOWER JAL516 spot 18
                              Tokyo Tower         JAL516 Tokyo TOWER good evening RUNWAY 34R continue approach wind 320/7, we have departure.
17:43:12                 JAL516                JAL516 continue approach 34R
17:43:26                 DAL276               Tokyo TOWER DAL276 with you on C, proceeding to holding point 34R.
                               Tokyo TOWER    DAL276 Tokyo TOWER good evening, taxi to holding point C1.
                               DAL276             Holding point C1, DAL276.
17:44:56                 Tokyo TOWER    JAL516 RUNWAY 34R cleared to land wind 310/8.
17:45:01                 JAL516                Cleared to land RUNWAY 34R JAL516.
17:45:11                 JA722A                TOWER JA722A C.
                               Tokyo TOWER    JA722A Tokyo TOWER good evening, No.1, taxi to holding point C5.
17:45:19                 JA722A               Taxi to holding point C5 JA722A No.1, Thank you.
17:45:40                 JAL179               Tokyo TOWER JAL179 taxi to holding point C1.
                               Tokyo TOWER    JAL179 Tokyo TOWER good evening, No.3, taxi to holding point C1.
                               JAL179               Taxi to holding point C1, we are ready JAL179.
17:45:56                 JAL166               Tokyo TOWER JAL166 spot 21.
                               Tokyo TOWER    JAL166 Tokyo TOWER good evening, No.2, RUNWAY 34R continue approach wind 320/8, we have departure, reduce speed to 160 knots.
17:46:06                JAL166                Reduce 160 knots RUNWAY 34R continue approach, JAL166 good evening.
17:47:23                 Tokyo TOWER    JAL166, reduce minimum approach speed.
                               JAL166               JAL166.
17:47:27                                            3秒無言

①JAL516(当該機:到着機1番目)
②JA722A(海上保安庁機:出発機1番目)
③JAL166(到着機2番目)
④DAL276(出発機2番目)
⑤JAL179(出発機3番目)
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 上記の交信記録を見ると、管制塔は海保機に対して「No.1, taxi to holding point C5.」と伝えており、滑走路の中に侵入せよとは言っていません。報道では、「No.1」という表現が、災害救援に従事していた海保機の機長に優先権を与えたかのように受け止められたのではないか、とする解説もありますが、羽田空港を基地として何度もフライト経験のある機長として、そのようなことは有り得ません。

 管制官は海保機に対して、待機順1番機として、「C5」の待機位置(Holding Point)まで地上滑走(Taxi)するように指示しています。

 一方、管制官は待機順2番機として、デルタ航空(DAL)デトロイト行き276便のエアバスA330-200型機には、「C1」の待機点(Holding Point)への地上滑走を指示しています。

 さらに、管制官は待機順3番機として、日本航空(JAL)山形空港行き179便のエンブラエルERJ-190型機にも、「C1」の待機点(Holding Point)への地上滑走を指示しています。

 海保機の大きさは、全長25.68m、全幅27.43m、全高7.49mです。一方、JAL179便の大きさは、全長36.24m、全幅28.72m、全高10.28mです。翼の幅で言えば、ほぼ同じサイズです。

 また待機順2番機のDAL276便の大きさは、全長58.82m、全幅60.30m、全高17.39mです。これは、同じくエアバスの中型機で、今回全損事故に遭ったJAL516便の大きさ、全長66.8m、全幅64.75m、全高17.5mとほぼ同じサイズです。

■こうしてみると、海保機はなぜC5の待機点を指示されたのか、という疑問がわきます。ほぼ同じサイズの待機順3番機のJAL179便山形行きの待機点が、待機順2番機のデルタ航空のエアバス中型機と同じくC1の待機点であるだけに、なにか特別待遇をされていたのではないか、という憶測が生じます。

 羽田空港のC滑走路の待機点(Holding Point)を一律にC1としていれば、今回の事故は決して発生しないはずです。

 途上国の空港でも、離陸の順番を待つ場合には、待機点を一つにして、先頭の待機順1番機のあとに、ぞろぞろ続いて進行し、順番に管制塔の指示をまって離陸許可を得たうえで、離陸をしており、羽田空港における待機点を変える今回のような運用は極めて疑問です。

 一刻も早く、こうしたバラバラな運用を統一化すべきであり、2度と同じ過ちを繰り返してはなりません。

 今回の事故は、管制官も海上保安庁も国交省の管轄であり、さらに言えば、日本航空ですら、日本政府との関係はこれまでも強く、航空関連団体への高級官僚の天下りは今でも水面下で脈々と続いていることから、どの程度、情報が捻じ曲げられずに国民に知らされるかどうか、注目して参りたいと思います。

■ちなみに、土壌環境が専門の大学教授が、「羽田空港をはじめ全国の空港の土壌汚染を調査したい」と国交省に申し入れたところ、国交省から「そんなことをしたら、2度と研究ができないようにしてやる」と脅かされたそうです。航空燃料にはいまだに鉛を添加したものが使用されており、それが燃焼ガスとして空港内や周辺に降り積もり、環境基準を大幅に超える土壌汚染が深刻ですが、誰もこの問題を取り上げないのは、そうした背景があるからです。

 それだけに、あわや全員即死という大惨事が奇跡的に回避された今回の事件の徹底した原因究明こそが、再発防止の最善策であることは言うまでもありません。

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】
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