もしも美しいまつげの下に、涙がふくらみたまるならば、
それがあふれ出ないように、強い勇気をもってこらえよ。
――ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
まだベートーヴェンを、“ジャジャジャ、ジャーン…”の「運命」のリズムと、ロマンチックなメロディーの「エリーゼのために」しか知らなかった高校生になったころ、私はこのベートーヴェンの言葉を見つけ、ノートに書き残していた。
言っている内容は何てことはないのだが、思春期の心には響く言葉だった。
これが、「もし目に涙がたまったなら、それがこぼれ落ちないように……」と訳されていたら、後世に残る言葉にはなっていなかっただろう。
まず、「もしも美しいまつげの下に」で、胸にグッとくるのである〈序奏・Adagio sostenuto〉。ここで、「美しいまつげ」を持つ者が誰かは問うことはない。
そして「涙がふくらみたまるならば」で、(何かがあったわけだが)どうする?と迫ってくる〈提示・Grave〉。それから、「それがあふれ出ないように」と方向が指し示され〈展開・Adagio cantabile〉、「強い勇気をもってこらえよ」と、ほっと心を落ち着かせてくれる〈結尾・Rondo, Allegro con brio〉。
ベートーヴェンだからこその、今でも素直に受け止めることができる言葉である。
ベートーヴェンは、“惨憺たる幸福”を引き受けた偉大な芸術家であった。
*今年の「熱狂の日」は、その「ベートーヴェン」
5月の黄金週間の4~6日に、3年ぶりに「ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2023」が、丸の内、有楽町駅近くの「東京国際フォーラム」で開催された。
この「熱狂の日」は、発祥の地フランス・ナント市はじめ、世界各都市で行われているクラシック音楽の祭りである。
その年のテーマにそって、海外からと国内のミュージシャンによる演奏会が、朝から夜まで東京国際フォーラムの3会場、および近辺の特設会場で、滞りなく行われるのが特長だ。しかも、料金が格安ときているから気軽に行けるのだ。
この季節、九州の佐賀に帰らなくて東京にいるときは必ずぶらりと聴きに行っていた。
東京以外の地方都市でやった年もあり、2011年に鳥栖市で行われたときは、私は佐賀に帰って田舎の空気とともに「ラ・フォル・ジュルネ」も楽しんだのだった。このときは、私の親しかった彼の奥さんであったハーピストの吉野直子さんと、ピアニストの仲道郁代さんの演奏が聴けたのは忘れられない。
そんな今年、2023(令和5)年の「ラ・フォル・ジュルネ」のテーマは、「ベートーヴェン」である。タイムテーブルには、ベートーヴェンの曲が目白押しであった。
5月4日、東京国際フォーラムに次の2演奏を聴きに行った。
〇15:30〜16:15、会場:ホールA
――ヴァイオリンが紡ぐ美しき歌〜傑作・第5交響曲と並んで打ち建てられた協奏曲の金字塔。
曲目:「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61」
出演:オリヴィエ・シャルリエ (ヴァイオリン)
日本センチュリー交響楽団 (オーケストラ)
角田鋼亮 (指揮者)
・オリヴィエ・シャルリエ(紹介)
パリ国立音楽院でフルニエ、ドゥカン、ユボーに師事。ブーランジェ、メニューイン、シェリングから才能を讃えられた。ミュンヘン国際コンクール第3位。パリ管、ロンドン・フィル、ベルリン響、チューリヒ・トーンハレ管等と共演。2020年にアルバム「ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ集」(Mirare)をリリース。
〇18:00〜18:50、会場:ホールA
――ベートーヴェンが憧れのパリの流行に乗った華麗な協奏曲と、高弟ツェルニーが補筆した遺作を。
曲目:「ピアノと管弦楽のためのロンド 変ロ長調 Wo06」
:「ピアノ・ヴァイオリン・チェロのための三重協奏曲 ハ長調 op.56」
出演:谷口知聡 (ピアノ)
辻彩奈 (ヴァイオリン)
伊東裕 (チェロ)
レミ・ジュニエ (ピアノ)
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 (オーケストラ)
松本宗利音 (指揮者)
・辻彩奈(紹介)
岐阜県出身。2016年モントリオール国際音楽コンクール第1位。2018年「第28回出光音楽賞」、2023年「第24回ホテルオークラ音楽賞」を受賞。2020年、自らが権代敦彦に委嘱した「Post Festum」を世界初演。コロナ禍にあって国内公演の代役で幅広く活躍。使用楽器は、NPO法人イエローエンジェルより貸与のJoannes Baptista Guadagnini 1748。
*
5月5日に行われたヴァイオリニストの神尾真由子と前橋汀子の演奏を聴きに行こうと思ったのだが、会場が大ホール(A)でなくCホールだったこともあってか、私が予約を入れた段階ですでに満席完売になっていて諦めた。
東京国際フォーラムの会場は、まだマスク姿が目立つもののコロナによる自粛から幾分解放されたのか、大勢の人で賑わっていた。
私も、久しぶりの音楽の祭りを楽しむことができた。
*
近くの丸の内界隈は、祝日で会社は休みのはずだが「ラ・フォル・ジュルネ」の余波であろうか、結構な人が行きかっていた。
演奏会が終わった後、近くの丸の内の「三菱一号館」内の中華料理店で夕食を。酒は紹興酒で。
*私的ベートーヴェン Best3
私の個人的に好きなベートーヴェンの曲をあげてみた。
1.ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調「テンペスト」
2.ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調「月光」
3.ヴァイオリン・ソナタ第5番 へ長調「春」
*あなたが選ぶベートーヴェン Best 10
2020年、TV「らららクラシック」で、ベートーヴェンの生誕250周年を記念して、「あなたが選ぶベートーヴェン ベスト10」の投票を行った。結果は以下の通り。
第1位 交響曲第9番「合唱つき」
第2位 交響曲第7番
第3位 ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」
第4位 ピアノ・ソナタ第14番「月光」
第5位 交響曲第5番「運命」
第6位 交響曲第6番「田園」
第7位 ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
第8位 エリーゼのために
第9位 交響曲第3番「英雄」
第10位 ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」
※ 日本人は「第九」が好きなんですね!
それがあふれ出ないように、強い勇気をもってこらえよ。
――ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
まだベートーヴェンを、“ジャジャジャ、ジャーン…”の「運命」のリズムと、ロマンチックなメロディーの「エリーゼのために」しか知らなかった高校生になったころ、私はこのベートーヴェンの言葉を見つけ、ノートに書き残していた。
言っている内容は何てことはないのだが、思春期の心には響く言葉だった。
これが、「もし目に涙がたまったなら、それがこぼれ落ちないように……」と訳されていたら、後世に残る言葉にはなっていなかっただろう。
まず、「もしも美しいまつげの下に」で、胸にグッとくるのである〈序奏・Adagio sostenuto〉。ここで、「美しいまつげ」を持つ者が誰かは問うことはない。
そして「涙がふくらみたまるならば」で、(何かがあったわけだが)どうする?と迫ってくる〈提示・Grave〉。それから、「それがあふれ出ないように」と方向が指し示され〈展開・Adagio cantabile〉、「強い勇気をもってこらえよ」と、ほっと心を落ち着かせてくれる〈結尾・Rondo, Allegro con brio〉。
ベートーヴェンだからこその、今でも素直に受け止めることができる言葉である。
ベートーヴェンは、“惨憺たる幸福”を引き受けた偉大な芸術家であった。
*今年の「熱狂の日」は、その「ベートーヴェン」
5月の黄金週間の4~6日に、3年ぶりに「ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2023」が、丸の内、有楽町駅近くの「東京国際フォーラム」で開催された。
この「熱狂の日」は、発祥の地フランス・ナント市はじめ、世界各都市で行われているクラシック音楽の祭りである。
その年のテーマにそって、海外からと国内のミュージシャンによる演奏会が、朝から夜まで東京国際フォーラムの3会場、および近辺の特設会場で、滞りなく行われるのが特長だ。しかも、料金が格安ときているから気軽に行けるのだ。
この季節、九州の佐賀に帰らなくて東京にいるときは必ずぶらりと聴きに行っていた。
東京以外の地方都市でやった年もあり、2011年に鳥栖市で行われたときは、私は佐賀に帰って田舎の空気とともに「ラ・フォル・ジュルネ」も楽しんだのだった。このときは、私の親しかった彼の奥さんであったハーピストの吉野直子さんと、ピアニストの仲道郁代さんの演奏が聴けたのは忘れられない。
そんな今年、2023(令和5)年の「ラ・フォル・ジュルネ」のテーマは、「ベートーヴェン」である。タイムテーブルには、ベートーヴェンの曲が目白押しであった。
5月4日、東京国際フォーラムに次の2演奏を聴きに行った。
〇15:30〜16:15、会場:ホールA
――ヴァイオリンが紡ぐ美しき歌〜傑作・第5交響曲と並んで打ち建てられた協奏曲の金字塔。
曲目:「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61」
出演:オリヴィエ・シャルリエ (ヴァイオリン)
日本センチュリー交響楽団 (オーケストラ)
角田鋼亮 (指揮者)
・オリヴィエ・シャルリエ(紹介)
パリ国立音楽院でフルニエ、ドゥカン、ユボーに師事。ブーランジェ、メニューイン、シェリングから才能を讃えられた。ミュンヘン国際コンクール第3位。パリ管、ロンドン・フィル、ベルリン響、チューリヒ・トーンハレ管等と共演。2020年にアルバム「ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ集」(Mirare)をリリース。
〇18:00〜18:50、会場:ホールA
――ベートーヴェンが憧れのパリの流行に乗った華麗な協奏曲と、高弟ツェルニーが補筆した遺作を。
曲目:「ピアノと管弦楽のためのロンド 変ロ長調 Wo06」
:「ピアノ・ヴァイオリン・チェロのための三重協奏曲 ハ長調 op.56」
出演:谷口知聡 (ピアノ)
辻彩奈 (ヴァイオリン)
伊東裕 (チェロ)
レミ・ジュニエ (ピアノ)
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 (オーケストラ)
松本宗利音 (指揮者)
・辻彩奈(紹介)
岐阜県出身。2016年モントリオール国際音楽コンクール第1位。2018年「第28回出光音楽賞」、2023年「第24回ホテルオークラ音楽賞」を受賞。2020年、自らが権代敦彦に委嘱した「Post Festum」を世界初演。コロナ禍にあって国内公演の代役で幅広く活躍。使用楽器は、NPO法人イエローエンジェルより貸与のJoannes Baptista Guadagnini 1748。
*
5月5日に行われたヴァイオリニストの神尾真由子と前橋汀子の演奏を聴きに行こうと思ったのだが、会場が大ホール(A)でなくCホールだったこともあってか、私が予約を入れた段階ですでに満席完売になっていて諦めた。
東京国際フォーラムの会場は、まだマスク姿が目立つもののコロナによる自粛から幾分解放されたのか、大勢の人で賑わっていた。
私も、久しぶりの音楽の祭りを楽しむことができた。
*
近くの丸の内界隈は、祝日で会社は休みのはずだが「ラ・フォル・ジュルネ」の余波であろうか、結構な人が行きかっていた。
演奏会が終わった後、近くの丸の内の「三菱一号館」内の中華料理店で夕食を。酒は紹興酒で。
*私的ベートーヴェン Best3
私の個人的に好きなベートーヴェンの曲をあげてみた。
1.ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調「テンペスト」
2.ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調「月光」
3.ヴァイオリン・ソナタ第5番 へ長調「春」
*あなたが選ぶベートーヴェン Best 10
2020年、TV「らららクラシック」で、ベートーヴェンの生誕250周年を記念して、「あなたが選ぶベートーヴェン ベスト10」の投票を行った。結果は以下の通り。
第1位 交響曲第9番「合唱つき」
第2位 交響曲第7番
第3位 ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」
第4位 ピアノ・ソナタ第14番「月光」
第5位 交響曲第5番「運命」
第6位 交響曲第6番「田園」
第7位 ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
第8位 エリーゼのために
第9位 交響曲第3番「英雄」
第10位 ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」
※ 日本人は「第九」が好きなんですね!
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