かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

「ラ・ボエーム」は、オペラで? 映画で? シャンソンで?

2021-06-29 01:07:19 | 歌/音楽
 「ラ・ボエーム」(La Bohème:オーストリア・ドイツ合作映画、2008年)を観た。
 ジャコモ・プッチーニのオペラを映画化した作品である。
 その元は、アンリ・ミュルジェールの小説・戯曲「ボヘミアン生活の情景」(Scènes de la vie de bohème)(1849年)である。
 ボヘミアンとは、本来はボヘミア地方(現在のチェコ)に住むボヘミア人という意味であるが、主にロマ(ジプシー)を指す場合もあった。その後、自由で奔放な生活を送る貧しい若者、とりわけ芸術家志向の若者を称するようになった。

 舞台は19世紀のパリ。物語は、屋根裏部屋に住む貧しい芸術家志望の若者たちの生活、恋愛模様を描いたものである。
 主な登場人物は、詩人(の卵)、ロドルフォ( ローランド・ビリャソン)。
 お針子の、ミミ(アンナ・ネトレプコ)。
 画家(の卵)の、マルチェッロ(ジョージ・フォン・ベルゲン)。
 マルチェッロの恋人、ムゼッタ(ニコル・キャベル)。

 映画は劇場の舞台ではなく実際のロケでの撮影で、出演者は実際のオペラ歌手である。つまり、オペラを映画で楽しめる。

 *舞台の一場面、歌の台詞

 「ラ・ボエーム」は、大まかなあらすじを知っていたのと、その何曲かのアリアを劇場で聴いたことがあったが、実際のオペラは観たことはなかった。
 物語は、パリに住む芸術家志望の若者たち、そのなかの、詩人の卵のロドルフォとお針子のミミの出会いと、ミミの死という悲恋を中心とした恋物語である。
 全編、普通の話し言葉による台詞はなく、歌うことで語られる、いわばオペラである。
 心に残ったところ、言葉を記してみよう。

 ――ミミとロドルフォとが出会った場面での、ミミの言葉(歌)。
 人は私をミミと呼びます。でも、私の名はルチーアです
 私の話は短いですわ
 家や外で布や絹に刺しゅうをしています
 私は平穏で幸せです
 楽しみはユリやバラを育てること
 好きなものは、甘い魅力を持っているもの
 愛や春を語ったり、夢や幻想を語ってくれるもの
       (私の名はミミ)

 ミミの重い病気を知り、自分が身を引いた方がミミのためにいいと、別れを決意するロドルフォ。それを知ったミミは悲しみにくれる。一方、ロドルフォの友人、画家のマルチェッロも恋人ムゼッタと仲たがいになる。
 ――雪の降る街角で
 抱きあい、泣き顔で別れるロドルフォとミミに対し、ムゼッタとマルチェッロの恋人同士の喧嘩別れは清々しい。
 Mu(ムゼッタ):そんな恋人は大嫌い。恋人のくせに亭主づらなんて!
 Ma(マルチェッロ);軽薄な尻軽女め。 
 Mu:そうです。好きな人と愛を楽しみます。
 Ma;どうぞご出発を。おかげでお金持ちですよ。
 Mu & Ma: では、ごきげんよう。
 Mu:ご主人様、さようなら。喜んでお別れを申し上げます。
 ――二人、背を向け歩き出す。
 Mu:三流画家!
 Ma;毒ヘビ!
 Mu:カエル!
 Ma; 魔女!

 *シャルル・アズナヴールの「ラ・ボエーム」
 
 「ラ・ボエーム」というと、僕はどうしても彼自身の作曲によるシャルル・アズナヴールの歌を思わずにはいられない。
 若いとき、シャンソンを好きになった曲である。
 内容は、プッチーニの「ラ・ボエーム」のボヘミアンの男性が、年をとり、若いときに住んだモンマルトルの街角にやってきて、遠い青春を回顧する物語になっている。
 アルマニア系のアズナブールには、若いときパリでは異邦人、ボヘミアンの感覚があったのではなかろうか。
 曲は4章節になっていて、長さは4分を超え、歌詞は全編にわたり韻に富んでいて美しい。
 一部を紹介してみよう。

 ぼくは話そう
 二十歳にならない人たちには
 わからない時代のことを
 Je vous parle d'un temps
 que les moins de vingt ans
 ne peuvent pas connaitre

 ラ・ボエーム
 それは君がきれいだってことさ
 ラ・ボエーム
 ぼくたちはみんな才能に溢れていた
 La bohème,
 ça voulait dire tu es jolie
 La bohème,
 et nous avions tous du genie

 ある日ふらりと 僕はやって来た
 昔の住みかあたりを見に
 僕の青春を知っている あの壁も通りももうみつからない
 Quand au hasard des jours
 je m'en vais faire un tour
 a mon ancienne adresse.
 Je ne reconnais plus,
 ni les murs ni les rues
 qui ont vu ma jeunesse

 ラ・ボエーム
 昔は若くて、愚かにも血気にはやっていたものだ
 ラ・ボエーム
 その言葉は、今はもう何の意味もない
 La bohème,
 on etait jeunes on etait fous
 La bohème,
 ça ne veut plus rien dire du tout

 ――La Bohème「ラ・ボエーム」(ジャック・プラント作詞、シャルル・アズナヴール作曲)
 (写真は、レコード・アルバム「シャルル・アズナヴール・ゴールデン・プライズ」(キングレコード)の裏表紙)
 
 ロマ(ジプシー)音楽を奏でるハンガリー出身のヴァイオリニスト、ロビー・ラカトシュは、CD「ラカトシュ 超絶ヴァイオリン弾き」で、アズナブールの「ラ・ボエーム」を入れている。
 
 *

 若いときは、ボヘミアンに憧れた。
 さすらい人、デラシネ、根無し草、流浪、渡り鳥…楽器一つ持って知らない街へ流れていく……
 ラ・ボエーム……今は、もう何の意味もない。

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