かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

胡同(フートン)のひまわり

2011-07-02 01:46:57 | 映画:アジア映画
 監督・脚本: 張揚(チャン・ヤン) 出演:スン・ハイイン ジョアン・チェン チャン・ファン 2005年中国

 中国の映画では、家族の愛や親子の愛の表現で出色の作品を多々生み出す。中国人の家族の血は、他のどこの人種よりも濃いと感じてしまう。
 「北京ヴァイオリン」(監督:チェン・カイコー)では、ヴァイオリンの才能ある息子を連れて、田舎から北京へ出てきた、貧しくとも実直な親と子の物語だった。
 「胡同のひまわり」(原題:向日葵)は、絵の道に挫折した男が、息子にその夢を強制的に託す物語である。
 「胡同」(フートン)とは、北京にある古い路地、横丁のこと。大半は元と明、清、この三つの時代につくられたもので、北京には数千本もあったといわれ、おびただしい数の胡同が故宮の周囲に張り巡らされている。
 その一画にあるのは、中庭をロの字形に建物で囲む「四合院」という伝統的な住まいである。その胡同も四合院も、現在では近代化の波によって壊され新しいビルになり、年々少なくなっている。

 「胡同のひまわり」は、この胡同で暮らす一家族を、文化大革命が終わった1976年から30年という時代の変遷の中に、郷愁いっぱいに描き出す。
 まず、子どもたちの遊びが映しだされる。胡同は、子どもたちにとって最高の遊びの広場だ。
 パチンコ(ゴム銃)やメンコ(ぺちゃ)やビー玉など、かつての日本の子どもたちの遊びと変わらない。夜、子どもたちを集めて行われる映画会も、日本人にとっても懐かしい。
 自ら画家を目指していた父(スン・ハイイン)が、文化大革命で挫折した自分の夢を9歳の一人息子の向陽(シャンヤン)(チャン・ファン)に託すことから、物語は濃く深く染まっていく。遊び盛りの息子に、遊びよりも絵を優先させる。それも強制的に。
 気のいい母親(ジョアン・チェン)は、間に立つがどうすることもできない。
 日本でもよく見かけられた、頑固で一徹な父親像と強くて優しい母親像。
 頑固な父親のもとで絵の道に進んだ子であったが、成長しても親子の対立は解消されることなく、愛憎半ばしながら互いに傷ついていく。

 息子のシャンヤン役は3世代の異なる男優たちが演じ、頑固で一徹な父親役は実力派俳優スン・ハイインが好演。人のいい元気な母親役も、ジョアン・チェンがはまり役となっている。
 急速な近代化の影で消えゆく胡同(フートン)で営まれる家族の日々が、日本人にも懐かしく郷愁を誘う映画となっている。
 
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