アン・リー監督 トニー・レオン タン・ウェイ ワン・リーホン 2007年米・台湾
1930年代から40年代への中国は、激動の時期であった。ヨーロッパの植民地政策による侵略と日本による満州国の設立、日中戦争への突入など、外国からの介入とそれに対する反攻で国内は波乱と疲弊の時代を迎えていた。
そんな時代、中国を舞台にした女スパイといえば、中国清朝の王女として生まれ日本人の養女となった男装の麗人、川島芳子を思い浮かべる。しかし、日本ではあまり知られていないが、もう一人いたのである。
中国人を母に、日本人を父に持つ、鄭蘋茹(テンピンルー)である。上海、香港を舞台に、彼女は抗日の工作員として密かに活動した女スパイだった。
彼女を題材にした小説「色・戒」(「傾城の恋」より)が、「ラスト、コーション」の原作である。
1938年、中国本土の混乱から逃げて香港にやってきたワン・チアチー(タン・ウェイ)は、学生のとき演劇仲間の抗日運動に入り、女スパイになる。敵対する特務機関のリーダー、イー(トニー・レオン)の暗殺を目論見、仲間と協力して上海で実業家夫人になりすまし、首尾よく彼の家に出入りするようになる。イーは、用心深い男で、なかなか正体を見せない男であった。
そのイーに色仕掛けで接近し、女を武器に陥落させる作戦をとることになる。そのためチアチーは同僚の仲間(ワン・リーホン)を相手に処女を捨て、女を磨く訓練すらする。
チアチーに疑惑を捨てきれなかった冷静で冷徹なイーだが、彼女の魅力に惹かれ、やがて肉体関係を結ぶ。チアチーにとっては、イーとの肉体関係はイーをおびき寄せる罠である。
セックスは、彼を油断させ、籠絡させるための手段であるはずのチアチーであるが、死と隣り合わせのイーとの性は、ときに暴力的に激しく、燃え尽きるように熱いものであった。
それでも隙を見せないイーだったが、チアチーに心が傾き、やがて暗殺の好機が訪れる。そして、見張っているチアチーの同僚による、イー暗殺の絶好の瞬間が訪れる。しかし、そのときチアチーは、思わず彼を助ける行動をとる。
描かれるのは性愛で、問われているのも性愛である。
あらかじめ愛が捨象された性愛は、愛に昇華するのであろうか。明日をもしれない虚無的な性愛は、動物的な匂いを漂わせ、観念的な同僚との学生時代からの愛を、幼く弱々しく感じさせる。
肉体による性愛関係は、終局、思想・観念の関係に勝るのだろうか。
ラスト(Lust)は「色」、コーション(Caution)は「戒め」。「色・戒」とは、何とも深遠な中国的タイトルである。
ナチの親衛隊と収容所にいたユダヤ女性の退廃的な性愛を描いた「愛の嵐」(リリアーナ・カヴァーニ監督・伊)の、東西の対極にある映画と言える。
主演女優のタン・ウェイ(湯唯)が素晴らしい。清楚ななかに色香が漂う。初めあどけなく、次第に妖艶な女に変わっていく。そのすらりとした容姿を、チャイナドレスが魅力を引き立てている。
中国ではカットされ7分間短縮されたというトニー・レオンとのセックスシーンは、激しく官能的である。最初のセックスシーンでは、暴力的に、ドレスの下からむき出しになったガーターベルトが欲望を喚起させる。生唾を飲み込むこのようなシーンは、久しぶりだ。
タン・ウェイは映画初主演だが、「非情城市」(侯孝賢監督・台湾)で、国際俳優に上りつめたトニー・レオンを完全に喰っていた。
おそらく、国際的女優に成長するであろう大型新人の出現である。
1930年代から40年代への中国は、激動の時期であった。ヨーロッパの植民地政策による侵略と日本による満州国の設立、日中戦争への突入など、外国からの介入とそれに対する反攻で国内は波乱と疲弊の時代を迎えていた。
そんな時代、中国を舞台にした女スパイといえば、中国清朝の王女として生まれ日本人の養女となった男装の麗人、川島芳子を思い浮かべる。しかし、日本ではあまり知られていないが、もう一人いたのである。
中国人を母に、日本人を父に持つ、鄭蘋茹(テンピンルー)である。上海、香港を舞台に、彼女は抗日の工作員として密かに活動した女スパイだった。
彼女を題材にした小説「色・戒」(「傾城の恋」より)が、「ラスト、コーション」の原作である。
1938年、中国本土の混乱から逃げて香港にやってきたワン・チアチー(タン・ウェイ)は、学生のとき演劇仲間の抗日運動に入り、女スパイになる。敵対する特務機関のリーダー、イー(トニー・レオン)の暗殺を目論見、仲間と協力して上海で実業家夫人になりすまし、首尾よく彼の家に出入りするようになる。イーは、用心深い男で、なかなか正体を見せない男であった。
そのイーに色仕掛けで接近し、女を武器に陥落させる作戦をとることになる。そのためチアチーは同僚の仲間(ワン・リーホン)を相手に処女を捨て、女を磨く訓練すらする。
チアチーに疑惑を捨てきれなかった冷静で冷徹なイーだが、彼女の魅力に惹かれ、やがて肉体関係を結ぶ。チアチーにとっては、イーとの肉体関係はイーをおびき寄せる罠である。
セックスは、彼を油断させ、籠絡させるための手段であるはずのチアチーであるが、死と隣り合わせのイーとの性は、ときに暴力的に激しく、燃え尽きるように熱いものであった。
それでも隙を見せないイーだったが、チアチーに心が傾き、やがて暗殺の好機が訪れる。そして、見張っているチアチーの同僚による、イー暗殺の絶好の瞬間が訪れる。しかし、そのときチアチーは、思わず彼を助ける行動をとる。
描かれるのは性愛で、問われているのも性愛である。
あらかじめ愛が捨象された性愛は、愛に昇華するのであろうか。明日をもしれない虚無的な性愛は、動物的な匂いを漂わせ、観念的な同僚との学生時代からの愛を、幼く弱々しく感じさせる。
肉体による性愛関係は、終局、思想・観念の関係に勝るのだろうか。
ラスト(Lust)は「色」、コーション(Caution)は「戒め」。「色・戒」とは、何とも深遠な中国的タイトルである。
ナチの親衛隊と収容所にいたユダヤ女性の退廃的な性愛を描いた「愛の嵐」(リリアーナ・カヴァーニ監督・伊)の、東西の対極にある映画と言える。
主演女優のタン・ウェイ(湯唯)が素晴らしい。清楚ななかに色香が漂う。初めあどけなく、次第に妖艶な女に変わっていく。そのすらりとした容姿を、チャイナドレスが魅力を引き立てている。
中国ではカットされ7分間短縮されたというトニー・レオンとのセックスシーンは、激しく官能的である。最初のセックスシーンでは、暴力的に、ドレスの下からむき出しになったガーターベルトが欲望を喚起させる。生唾を飲み込むこのようなシーンは、久しぶりだ。
タン・ウェイは映画初主演だが、「非情城市」(侯孝賢監督・台湾)で、国際俳優に上りつめたトニー・レオンを完全に喰っていた。
おそらく、国際的女優に成長するであろう大型新人の出現である。
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