goo blog サービス終了のお知らせ 

かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

ヴァイオリンの味

2006-07-10 01:48:41 | 歌/音楽
 ヴァイオリンのコンサートへ行って来た。専門家でない者にとっては、音楽のコンサートは、芝居と一緒で、大ファンでもない限り、知りあいが出演しているとか、何か縁がないと行かないものである。
 僕のヴァイオリン教室の先生が出演するというので、これは是非と言って鑑賞した。「MARI室内合奏団」による弦楽奏コンサートである。会場は、府中グリーン・プラザ・けやきホール。ヴァイオリンを中心に、ヴィオラ、チェロ、ベースの合奏であった。先生は、賛助出演ということで、残念ながら独奏はなかった。

 まずは、モーツァルトの「ディベルティメント」より第2番、そして楽しい第1番である。
 僕は、島田雅彦のデビュー作「優しいサヨクのための喜遊曲」を、何という気障なタイトルをつけてとずっと思っていた。恥ずかしながら、その喜遊曲がディベルティメントなのだとは、最近知ったのだった。
 それを知ってから、ディベルティメントを聴くのが楽しくなった。何しろ、読んで字のとおり喜遊曲なのだ。話は逸れるが、最近の島田雅彦は、「レクィエム」を書いているようだが。

 音楽は素人を承知で言ってしまうと、ヴァイオリンはワインのようだと思った。
 独奏の最初は、小森奈緒美さんである。曲は、モーツァルトの、やはり「ディベルティメント」第17番より「メヌエット」である。
 若さを卒業し、ちょうど脂の乗り切った年頃の優しそうな人である。風情と同じく、流れるように淀みない音色だ。ただただ聴き惚れる。
 この年頃の人は、ブルゴーニュの白であろうか。果実の風味と酸味をたっぷりと含み、芳醇な味が出たころだ。何の料理にも合う。肉にも野菜にも。宴の最初に飲んでもいいし、最後に飲んでもかまわない。何の欠点もない。賛辞のみだ。

 次に独奏された女性は、年配の中村幾代さん。この合奏団のミストレスである。みんなと一緒に座っているだけで、その人だけが違うのが分かる存在感である。曲は、ベートーベンの「ロマンス」ヘ長調。
 演奏も、メリハリがあり力強い。どんどん引き込まれるものを感じる。年齢を感じさせない、それどころか年齢の持つ揺るぎない力を持っているのが分かる。
 もう、熟成したボルドーの赤のビンテージものであろう。料理は、ステーキとチーズぐらいでないと対抗できない。ボルドーの赤、カベルネ・ソーヴィニヨン系は、長く寝かせれば寝かせるほど味にコクが出るが、保存が良くないと、とんでもないもの、つまり出自が分からないものになるから十分な観察が必要だ。

 次は、若い山中美穂さんと鈴木明子さん。現役の学生であろうか、何しろはつらつとしている。曲は、J・S・バッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調」。
 表情も変えずに、手が器用に目まぐるしく動くのには感心だ。う~ん、本当に器用だ。羨ましい限りだ。その躍動感を見ているだけでも楽しい。
 このころの演奏家は、若いボージョレーであろうか。若くていいのだ。いや、若いからいいのだ。何しろ、葡萄というより摘み取ったばかりの苺の風味がする。採りたての、さっぱりとしたまろやかな味を楽しむのだ。それはまた、食欲をそそるのだ。これから、どんな味に変わるかは別に、今が旬なのだ。

 最後に、アンコールとして、日本の曲が演奏された。「カエルの歌」とか「カラス」等々で、子どもの頃に聴いたことがある曲だ。指揮者で主催者の梶原マリさんは、「西洋音楽のあとで、お茶漬けを食べたくありませんか」とおっしゃって、これらの日本の曲をトリとして出された。
 しかし、悲しいかな、やはりお茶漬けはお茶漬けである。オードブルから肉を食べてワインを飲んだあとは、デザートを食べるかコーヒーを飲みたい。茶漬けの味は、お琴や尺八でならそれなりの哀愁と味が持てるであろうが、モーツァルトやベートーベンのあとでは、荷が重いのは明らかであった。

 以上は、専門家ではない戯言、「かりそめのモノ書きのための喜遊曲」ですので。
コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◇ 誰にでも秘密がある | トップ | ◇ 8人の女たち »
最新の画像もっと見る

3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
表記訂正? (シトワイヤン)
2006-07-11 00:00:58
文中にある、子供の頃に聴いた「カラス」という日本のお茶漬け曲とは、童謡『七つの子』のことでしょうか?
返信する
カラスの歌 (おきゃどー)
2006-07-11 12:00:57
「カラス」の曲は、確かに「カラス、なぜ啼くの…」という歌詞の、「七つの子」です。最近、僕の住居の近くで、朝早くからゴミを目当てにカラスが啼いて、うるさい限りです。「可愛い、可愛い…」と子を思って啼いてるとは思えません。
返信する
本歌取り (しまたろう)
2006-07-12 09:33:20
おきゃどさん、おばんです。ヴァイオリン同窓のしまたろうです。

ブドウ酒のたとえ、さすがです。足元にも及びませんが真似事をしてみます。私の場合には、二匹の豚児連れ座席一番後だったのでほとんど視覚的要素ゼロで、独奏者をワインにたとえてみますと。



1、シャルル・ジョゲの華やかなシノン。ロマネスクのお城の雰囲気、でも楽しい。

2、長年秘蔵のヴォーヌロマネ。思ったよりきてました。

3、たまたま当たりのアルゼンチンワイン。情熱と陰影、これから楽しみ。



お茶漬けのほうは、私は結構いけました。フレンチに醤油が隠し味になっていたりするの、結構好きなんですが、お茶漬けそのまんま出す、というのも(たまには)良かったり。トシかもしれません・・・(爆)
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

歌/音楽」カテゴリの最新記事