かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

◇ 誰にでも秘密がある

2006-07-06 02:42:40 | 映画:アジア映画
 チャン・ヒョンス監督 イ・ビョンホン チェ・ジウ キム・ヒョジン 2004年、韓国

 そう、誰にでも秘密がある。僕にも、そして、あなたにも。
 その秘密は、男と女の関係? 隠さなければいけないことこそ、快感の元でもあり、隠すことが重大であればあるほど、味わう快楽も大きい。隠すことの重圧と、そこから引き出される後ろめたさは、苦しさの裏返しである快感に比例する。

 三人姉妹の末っ子は、男性に対して積極的なクラブ歌手だ。内気で学究肌の次女は、男性をまだ知らない大学の研究生だ。長女は、もう結婚していて夫とはいささか倦怠期だ。
 その末っ子、キム・ヒョジンが、金があって格好もいい男、イ・ビョンホンをつかまえて、結婚することになる。その男は、末っ子と婚約したにもかかわらず、3姉妹すべてと関係してしまう。
 複雑な事態に陥った女は、困ったあげく男に詰問する。その度に、その男は言う。
 「誰にでも秘密がある」
 「人間は、一度に一人の人間しか愛せないわけではないんだ」
 初めて男に恋した次女、チェ・ジウは、夢みるようにそっと呟く。
 「泥棒のように私の心に浸入してきた愛」

 映画の中で、挿入される箴言が憎い。
 まず、最初に、三女に。――男の最後の愛が、女の初恋を満足させる――バルザック
 次に、秘やかに、次女に。――愛は雷のように近づき、霧のように去っていく――トップラー
 最後は、淫らに、長女に。――自由よ! その名で罪が犯されるのだ――ロマン・ロラン

 このような映画を僕は嫌いではない。特に、散りばめられた愛の台詞(ディスクール)が僕は好きだ。
 しかし、この映画の元は、1960年代から70年代にかけて話題作を連発した、イタリアのパゾリーニの作品『テオレマ』だろう。
 ある裕福な家庭に、謎の青年が舞い込んでくる。彼は、家族のすべての人間と関係を持つ。男性たちも含めた家族の誰もが、彼に心と身体を奪われる。その中で、家族は崩壊していく。主演は、『コレクター』で特異な演技を発揮したテレンス・スタンプだ。

 家族の誰もが虜になる存在、この普通の人間を超えた“超人”を登場させ、それを現代に置き換え、そして『テオレマ』とは逆に、ハッピー・エンドに仕立てたのが、この『誰にでも秘密がある』だ。
 しかし、この普通の人間を超えた魅惑的な人間の役は、韓流人気俳優のイ・ビョンホンといえども説得力に欠けると言わざるを得ない。美男でなくても、もっとミステリアスさがなくてはいけないのだ。

 ともあれ、以前から思っていたのだが、この映画もそうだが、韓国映画はなんてタイトルのつけ方が上手いのだろう。
 「膝と膝の間」、「三度は短く、三度は長く」、「猟奇的な彼女」と並べると、妄想を、いや想像をたくましくしてしまう。しかし、内容は僕らが想像するようなものではない。いたって真面目で、タイトルが巧妙で思わせぶりなのだ。
 最近のでは、チェ・ジウ主演で、『連理の枝』というのがある。恋愛ものとしては、究極のタイトルだ。『冬のソナタ』などという甘いものではない。内容は見ていないので知らないが、どうも純愛もののようだ。しかし、タイトルから言えば、我を忘れたどろどろの愛欲の物語だ。渡辺淳一の小説『愛の流刑地』をも勝るものだろう。
 『連理の枝』と来れば、姉妹編として『比翼の鳥』も、韓国映画として作ってほしい。願わくば、『オールイン』のソン・ヘギョ主演で。

 ――人生で最も楽しい瞬間は、誰でも分からない二人だけの言葉で、誰にも分からない二人だけの秘密や楽しみを、ともに味わっている時である――
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