写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

小焼けとは

2017年11月11日 | 旅・スポット・行事

 横浜に住んでいたころの話である。江の島に遊びに行っての帰り道、江の島大橋を渡っていた。ちょうど陽が沈んだ直後で、遥か西の空は美しい茜色に染まっていた。奥さんが思わず「夕焼けがきれいだね」と言ったとき、ちょうどそばを通りかかった同年配の女性が「あれは夕焼けとは言いません。日没後に夕焼け状態になることは小焼けと言うんですよ」と親切に教えてくれた。

 生まれて初めて知り、奥さんと顔を見合わせて、知らなかったことを少し恥ずかしく思った。小焼けとはそんなことだったのかと、それ以来、教えてもらったことを「小焼け」の正しい定義だと信じて今まで生きてきた。

 つい先日、夕方の散歩に出かけたとき5時になった。いつものように時報として「夕焼け小焼け」のメロディが大きな音量で流れてきた。その曲に合わせて頭の中で歌いながら歩いたが、江の島でのことを思い出し、家に戻ってその真偽を確かめてみた。

 「『小焼け』とは、『夕焼け』と語調をそろえていう語」と書いてあるが今一つよく分からない。「小焼け」自体に意味はありません、とも書いてある。日本語のような音数律の詩の場合、リズムを整えるために、意味のない枕言葉だとか対語が使われる。童謡の中には「大寒小寒」「大雪小雪」「涼風小風」「仲よし小よし」など同様の例がたくさんあるとも述べている。

 江の島で教えてもらった説はどうやら間違いであることが分かった。それにしてもあの女性、説明の仕方に説得力があって、ついつい信じてしまった。そんなことにお構いなく、今日も ♪夕やけ小焼けで 日が暮れて 山のお寺の鐘が鳴る……♪ と懐かしいメロディが流れている。