写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

イエン

2011年11月23日 | 生活・ニュース

 「念のため組織を採りました。検査をしてみましょう。結果は2週間後に分かります」。若い医者が写真を指さしながら言った。

 毎年、人間ドックで検査を受けている。昨年同様、胃の検査は口からではなく、鼻から内視鏡を入れての検査を受けた。それでも内視鏡が喉のあたりを通過するときには咽頭反射を起こして何度も「オエッ」となる。何事に対しても鈍感な私だが、こと喉に関してだけは感度がよすぎるようで困る。

 検査が終わったあと、医者の前に座って結果を聞く。胃壁に1か所小指の先ほどの小さく赤みがかったところがあった。念のためその個所の組織を採取したという。「多分悪いものではないと思いますが、組織検査に出しておきます」という。

 それから2週間、小春日和の天気の良い日が何日もあったが、遊びに出る気がしない。吉和のあたりは紅葉が美しい季節だ。見に行ってみたいとは思うが、今一つ晴れやかな気持ちになれない。ガレージのロードスターの周りをぐるり回ってみたり、ボンネットを開けてほこりを払ったりしてみるだけだ。

 図書館に走り、10冊借りてきた本を読んでみるが、一字一句を目で追うのではなく、斜めにはしょってページをめくるだけ。面白い話の本を読んでも、窓の外の明るい景色を見ても、心の底から楽しむ気持ちになれない。秋雨がしとしと降るような日には、そんな気持ちが倍増する。

 しかし、一方では「まあ、何か見つかったら見つかったでいいや。その時にはその時だ」という気持ちもある。若いころは「もしそうだったら、どうしよう」と、病気を恐れる気持ちが強かったが、この年になると、「仕方ない。なるようになるさ」と達観した気持ちの方が強くなっている。

 こうしてみると、年を取るのも悪くはない。同じ現象に対して受容・寛容の気持ちになれる。さて当日、神妙な顔をして医者の前に座った。「胃炎でしょう。悪いものではありません」。病院を出て空を仰げば晩秋の秋日和。「今日はドライブだ~」。無罪放免、えん罪であった。でもねぇ、医者に対して文句はイエン。