俺の明日はどっちだ

50歳を迎えてなお、クルマ、映画、小説、コンサート、酒、興味は尽きない。そんな日常をほぼ日替わりで描写

「 シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕 」 T・ハミルトン / D・コイル

2014年01月19日 17時12分05秒 | 時系列でご覧ください

僕の物語は、連戦連勝の輝かしいスーパーヒーローの神話ではなかった。それは狂った世界で競争をして、ベストを尽くした普通の男の物語だった。大きな過ちを犯し、それでも現在を懸命に生きている男についての物語だった。それが、僕が伝えたい物語だった。そして僕はこの物語を語り続けたいと思った。自転車競技のために、そして自分が前に進むために。
(本文496ページより)
ヨーロッパのプロ自転車ロードレースの第一線で活躍したタイラー・ハミルトンが、自身の半生を選手時代のドーピングとの関わり合いを軸に一人称で語る極めて読み応えがありスリリングな1冊。

ちなみに本文そのものは、そうしたハミルトンを一人称の語り手としながらも、実際の書き手は共著者であるスポーツライターのダニエル・コイルが2年の歳月を費やして聞き取り、“ ハミルトンが語り、コイルが書く ” といった形式がとられ、そうすることによって渦中にいた人間の独善的な書き方ではなく、かといって単なるジャーナリストレポートに陥ることもなく、その結果、俗悪な 「 暴露本 」 ではなく、血の通った見事なドキュメンタリー作品に仕上がっていたのだ。

それにしても 「 事実は小説より奇なり 」 という、何とも古めかしい言葉を思い出されるほど、この本の中で描かれている出来事は、まるで映画や小説のよう。

ドーピングなくしては勝利を手にすることが出来なくなった当時のロードレースの現実を背景に、非合法であるその行為をレース前から準備して、レース中もいかに行なっていたのかが、圧倒的なリアリティを持って描かれ、生々しく伝わってくるし、当局からの追及から逃れるため、自宅で床に伏せて居留守を使う場面など、そのまま映画になりそうなシーンも多々あったりして、ワクワクドキドキ。

そして、ここで描かれているのはそうしたドーピングにまつわることだけではなく、同時に一人の人間の成長物語という普遍性を持った作品でもあるので、ツールを知らない人でも楽しめると思うし、そしてツールの出来事を知っているならばなおのこと、引き込まれてしまうはずです。
機会があれば是非!

ただ、同時にランス・アームストロングのファンには相当に落胆させられる内容なので、その点はご注意あれ…



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