競馬総合チャンネルでは「血統クリニック」と題して、毎週のメインレース(2歳3歳戦中心)の出走予定馬の血統解説をしています(木曜更新)
菊花賞はこんな感じです
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◆能力差で三冠達成
オルフェーヴルはノーザンテースト4×3譲りの伸びのない体型を受け継ぐ一方で、父や母父譲りの柔らかな体質も受け継いで全身を使って走れるし、追われてますますダイナミックになるフォームは父の伯父サッカーボーイをもほうふつさせる。腰に力がついてスタートが良くなったし、中距離馬だが折り合いはつくので、名ステイヤーといえるぐらいの馬がいなければ能力差で三冠達成だろう。
◆牝系のスタミナは優位
フェイトフルウォーはオルフェーヴルと同じステイゴールド×メジロマックイーンだが、母母がKey to the Mint(ダンスインザダークの母母父)の近親でここにNijinskyやRibotが入り、母もは芝2600mで勝ち鞍があるように母系はよりスタミナ型。無駄のない燃費のいい走りでバテたことがない馬で、新馬戦は放馬で走り回った後でも勝ってしまったし、セントライトも内伸び馬場で外々を捲って長く脚を使った。3000mでオルフェを負かすとしたらスタミナ優位のこの馬だろう。
ウインバリアシオンはハーツクライにパワーのある米血をもってきてハットトリックの中距離版というイメージの血統だが、そのイメージ以上にしなやかさがあって長いところで斬れる。秋になって一回り成長し、かかるところはないので3000mもこなすだろう。
ゴットマスタングはコマンダーインチーフの甥で母はSadler's Wells×ダンシングブレーヴとメイショウサムソン的。この母系のスタミナで追い込む馬で、フジキセキ産駒でも長距離適性は高そうだ。前崩れならヒモ穴に一考。
ショウナンマイティは凱旋門賞馬Allegedの4×3を持ち、愛ダービー馬Balanchineが出る牝系のしなやかさも受け、Storm Catのスピードを中距離で爆発させる。ステイヤーではないが3000mはこなせるだろう。
ユニバーサルバンクの母はKlaironとRibotのクロスを持つスタミナ型で2500m以上で4勝した。息子もスローに良績が集中している点に長距離への適性が感じられ少し警戒。
サダムパテックはリーチザクラウンと似た配合形で、中山でも好走はするが東京や京都外回りが最も斬れるタイプ。ただしフジキセキ×エリシオ×Mr.Prospectorだから、距離延長はプラスではない。
ダノンマックインは母母父にリアルシャダイが入るし、上にも長距離の向きの馬がおり距離適性は低くない。母がノーザンテーストにRobertoとDamascusだから急坂向きのパワー型で、京都で上がりが速くなると前走を過信できない面はあるが。
トーセンラーはダービー1,2着馬を押さえたきさらぎ賞が光るが、母父がマイラーのLyciusでこの影響も感じられる体型走法だけに長距離は歓迎ではないだろう。
シゲルリジチョウはサニングデールの甥だが、母のSadler's Wells×Darshaanという組み合わせは欧州2400mで猛威をふるう配合で、グラスワンダー産駒としてはコスモヘレノスのようなステイヤーだろう。この距離は魅力だが前走のズブさジリっぽさをみると京都の良では厳しいか。
ベルシャザールはキンカメ産駒でFlower Bowlのスタミナを増幅した配合をしていて、バテずにジワジワ伸び続けるが速い脚に欠けるのが泣き所。一雨欲しい。
フレールジャックはサンデーとGlorious Song牝系を通じるHalo≒Red God3×4・4だからダノンシャンティと似た配合で、ベストは1800~2000mあたりだし折り合いの不安も残る。
何度か書きましたが、血統評論というのは「生まれる前」と「生まれた後」でスタンスを変えないといけないし、変えるべきだろうと考えています
たとえば新馬勝ち馬の「血統評価」とか、毎週のレースの「血統予想」とかは、血統というフィルターを通しての馬の論評であって、それは笠シショーがいう「血統と馬体と走りの考察の一致した点で馬を語らなければならない」ということでもあり、ようするに発現したものと血統表とのすり合わせ作業なのです
全きょうだいの場合、「生まれる前」の評価ではドリームジャーニーとオルフェーヴルは同じだし、ディープインパクトとブラックタイドとオンファイアも同じですが、「生まれた後」の発現と血統表のすり合わせにおいては、評価は異なって当然だし異なるべきなのです
オルフェーヴルが夏の新潟で新馬を勝ったときには「ノーザンテーストのクロスらしい俊敏さがあるのは兄と同じでやっぱり小回り向きだろう」というようなことを書いたのですが、そのときはまだドリームジャーニーの有馬や宝塚の強烈な捲りの残像が残っていたんでしょう、ボンクラ血統屋は兄と弟との最大の違いにはまったく気づいていませんでした
それどころか芙蓉でホエールキャプチャに負けたときも、「(配合が似ている)ベストクルーズみたいな手堅いマイラーに巧いこと立ち回られたなあ…」ぐらいの感想しかなかったですね~
あそこで「今年の芙蓉Sは来年のクラシックに直結する叩き合いだった」と、声を大にしていえるほどの慧眼が欲しいなあ…(^ ^;)
阪神JFではレーヴディソールを倒せるのは◎アヴェンチュラしかいないと期待したんですが、阪神外回りの直線をテイエムオペラオーのようなしなやかさでスルスルと伸びてきたホエールキャプチャに驚かされ、こんなクロフネは見たことがないと血統表とレース映像を何度も見返して、これはBlushing GroomのしなやかさとNashwan×リマンドのスタミナがONになった馬でベストクルーズとは全然違うやんと、そう気づいたのがまずキッカケでした(シショーもJF後にホエールはタダモノではないと書いていた)
そして芙蓉の映像を何度も見直しているうちに、オルフェーヴルの全身を柔らかく大きく使ったフォームとしなやかな加速が、明らかに兄とは違うことにも気づいたのです
体型はノーザンテーストなのに体質は全然ノーザンテーストじゃなくて走らせると凄い動きをする、これはドリームジャーニーとは違う、新馬勝ったときに小回りの捲りだと書いてしまったけど、どこかで訂正しなければならない…と
そしてシンザン記念の予想で「ノーザンテーストを柔らかくしたような馬で兄とはタイプが違う、トウカイポイントのようなイメージでだから京都外回りでも◎が打てるんだ」と、ここでオルフェーヴルの実像の半分ぐらいがやっと見えてきた段階やったのかなあ…
そこからの成長充実と快進撃は今さら語ることもないほどで、代名詞はトウカイポイントからサッカーボーイに変わり、そして今ではオルフェーヴルという固有名詞だけでその素晴らしさを語ることができる馬になりました
以前「ノーザンテーストクロスの陰にPrincely Giftあり」と書きましたが、ノーザンテーストの体型と、ステイゴールドとメジロマックイーンのフランス異系血脈特有の柔らかさな体質という、本来なかなか相容れない遺伝要素が噛み合ったことがあのダイナミックな走りを生んでいます
ノーザンテースト的体型ながら父や母父の柔らかさで大きく動けるオルフェーヴル、Halo≒Sir Ivorの柔らかさと母系のFair Trialクロスの俊敏さの両方を受け継いで大きく速く動けるディープインパクト、ステイゴールドの柔らかさとデインヒルの頑健さの両方を受け継いで阪神でもロンシャンでも強いナカヤマフェスタ
これぐらいの名馬になると、血統表から常識の範囲内で想定される理想形をさらに超えた発現の仕方をしているもので、実際オルフェーヴルの全兄は体質もノーザンテースト的だし、ディープの全きょうだいはもっとFair Trial的でCourt Martial的でした
細やかな性格は一歩間違えば神経質だし、大らかな性格は裏を返せば大ざっぱで、このように長所と短所というのは表裏一体なわけですが、サラブレッドが血統表中の祖先から受け継ぐ競走能力も常に表に転ぶか裏に転ぶかの瀬戸際にあって、大きく動ける柔らかさはすぐに緩慢さや非力さになるし、強く動けるパワーはすぐに硬さになるし、親の長所は仔の短所として裏に転ぶことのほうが多いぐらいで、そんななかで名馬といわれるぐらいの馬は、柔らかくて強くて、速くて大きくて、すべてが表に出ちゃうんですよね~
硬くて頑健なノーザンテーストのクロスには、Princely Giftの柔さを補いたい
http://blog.goo.ne.jp/nas-quillo/e/955d9f60975a304c335fa81475ed9a10
日本ダービー回顧~JAPANのチャンピオンは柔らかでしなやか
http://blog.goo.ne.jp/nas-quillo/e/f083087f62eaf83dc167130bd56597ce
京都11R 菊花賞
◎14.オルフェーヴル
○5.フェイトフルウォー
△13.ウインバリアシオン
×4.ユニバーサルバンク
×18.ショウナンマイティ
◎はノーザンテーストのクロス馬らしい体型だが、ノーザンテーストの硬い体質は受け継がず父や母父の柔らかな体質を受け継いで、父の伯父サッカーボーイのようなダイナミックなフォームで走ることができるのが素晴らしい。このように普通は相容れにくい遺伝要素が理想的に噛み合って発現したときに、父を超えるような名馬は生まれる。中距離馬だが折り合いさえつけば三冠を獲れる馬だろう。トーセンやサダムは京都外なら能力的には◎に次ぐが、血統的にみても距離延長で◎に迫るというのは難しいか。ウインは正直まだよくわからないが、3000mに延びて更に良い馬には思えない。○は◎と同じ配合だがキートゥザミント(ダンスインザダークの母母父)の近親で母は札幌2600mの勝ち馬で、サンデー+サッカーボーイ+ダンスインザダークとみればこれほど菊花賞向きの血統もなかなかおらず、アッと言わせるならこれだろう。ショウナンはアレッジドのクロスを持つしズブさもあるので距離は長いほうがいいかもしれない。マンカフェ産駒で春天で穴をあけたメイショウドンタクはホイストザフラッグのクロスだった。ユニバーサルの母もリボーのクロスを持ち長距離で活躍した馬で、父よりスタミナだけは上かもしれずヒモ穴に買ってみたい。
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このブログを始めて3回目の菊花賞を迎えましたが、毎年この菊花賞ウィークの週末に最高アクセス数を更新するんですよね~(ありがとうございます)
やっぱり今でも菊花賞=血統なんやなあ…と
「エビショウは池添にケンカ売りにいったけど、アンカツは2着を拾いにいった」という意見がウインズでも支配的でしたが、「オルフェーヴルは外を回るだろうから、負かすにはインに拘るしかなかった」とアンカツさんは言っているように、あれは2着を拾いにいったというよりも、オルフェーヴルの自爆待ち…というべきじゃないかと
露骨なイン伸び馬場で、オルフェーヴルが引っかかりながら外々を回らされる…という最悪のシナリオに賭けるしかなかったわけで、たしかに能力的には最もオルフェーヴルに近いところにいるけれど、3000mのスタミナにおいて優位に立っているわけではないだけに、当日のイン伸び馬場をみればなおのこと、僅かな逆転の望みに賭けるとしたらこれしか選択肢なかったということでしょう
オルフェーヴルの次に強い馬に乗っていてオルフェーヴルの強さを一番よく知っている人が、自爆以外に勝ち目はないと決断せざるをえなかった時点で、もう三冠は決まっていたのかもしれません
ただ一言いわせていただくと、ウインバリアシオンもトーセンラーもステイヤーではないですから、その他のステイヤーと目されていた馬たち、この舞台でステイヤーとしての資質に賭けるべきだった馬たちのロングスパートがなかったのがちょっと残念で、まあ淀みのないラップでしかも一団となって進むという菊花賞には珍しい展開で(オルフェーヴルの次にスピード能力のあるフレールジャックが先行したのが大きい)、ロングスパートに打って出るタイミングも難しかったかもしれませんが…
それにしても、勝ち馬のさらに外を回って真っ向勝負を挑んだトーセンラーも強かった
私は今でもこの馬は(全弟のスピルバーグと比較してみても)Lyciusのマイラーっぽさも発現しているとみていますが、母父がマイラーでその影響を受けていても長距離をこなしうるセンスがあるのがディープ産駒なのだと、ディープ産駒元年、この馬にはいろいろなことを教わりました
勝ち馬の血統については別エントリで