ミャオの家より

今はいないネコの飼い主だった男の日常

飼い主よりミャオへ(40)

2008-10-26 07:55:12 | Weblog
10月26日
 拝啓 ミャオ様

 二日前の嵐で、家のまわりは、樹々の折れた小枝や、盛りの紅葉の葉などがあちこちに散乱している。その落ち葉の上には、さらに黄色く色づき始めたばかりのカラマツの葉が舞い落ちている。
 その嵐の時の、南からの生暖かい風に代わって、北からの風が吹いている。北海道内の、週間天気予報では、北の地域でついに雪のマークがつけられた。もう初雪が降るのもそう遠くはないだろう。
 そんな雪の季節を先取りするように、大雪山の旭岳に登ってきたのだが、これはその前回の記事からの続きである。
 
 旭岳北面の硬い雪の斜面を下りてくると、そこは熊ヶ岳との鞍部になっていて、夏は指定キャンプ地としてにぎわうところである。風もなく、私の靴のアイゼンの音だけが聞こえている。
 右手の後旭の方へ一筋に、何日か前のキタキツネの足跡が続いている。ゆるやかに熊ヶ岳のカルデラの稜線へと登っていく。振り返ると、純白の雪に覆われた旭岳が、なだらかにそして滑らかに光り輝いている(前回の写真)。
 こんな穏やかに見える山容だからこそ、悪天候の時やガスに包まれた時などは、方角が分からなくなってしまう。目標物の少ない山だけに、天気の悪い日に道に迷うと、危険なのだ。
 ロープウエイで五合目まで上がれて、たやすく登れる山だからこそ、夏場に数多くの遭難事故が起きているのだ。山は、晴れた日に登るにかぎる。
 熊ヶ岳からなだらかな稜線を歩いて、間宮岳に着く。巨大なお鉢カルデラから吹き付ける風が冷たい。振り返ると、まっ平らな間宮岳の雪原の彼方に、熊ヶ岳、旭岳、後旭と並んで見えているが、その後には取り囲むように雲が湧き上がっている。
 硬くしまった雪の稜線を北に向かって下っていく。お鉢カルデラ側には、降り積もった雪が1mほどの雪堤になって続いている。そのカルデラ壁が続く向こうには、白雲岳が見えている(写真)。
 ただ今回残念だったのは、一度雪が降り積もった後、さらに雪混じりの厳しい北西の風が吹き付けるような、冬型の季節配置にならなかったために、あの風紋やシュカブラ、エビのしっぽ(いずれも風と雪が作る造形)がほとんど見られなかったことである。
 目の前に聳える北鎮岳との鞍部から、左に回りこんで、半分ほど雪が解けて、黒い火山礫が見えている小尾根を下っていく。そこから南面のジグザグの道を、やわらかい雪にはまり足をとられながら沢に出る。硫黄臭が漂い、岩に仕切られた露天風呂がある。中岳温泉であるが、冬場はぬるくてとても入れたものではない。
 流れに沿って下っていくと、熊ヶ岳と旭岳の裾野が作る広い盆地に出る。裾合平である。夏は、その一面に広がるチングルマの花が素晴らしい、恐らくは日本一の大群落だろう。秋の紅葉の時期もまた見事である、まして背後の旭岳が白い雪に覆われていればなおさらのことだが、一月ほど前に紅葉の時期は終わり、半ば雪に埋もれていた。
 そしてこの旭岳の裾野を回りこむようにして、姿見への道が続いている。道は、意外にも固い雪に覆われていて、余りぬかるむこともなく歩きやすかったのだが、何しろ一ヶ月ぶりの山歩きで、もうすっかりバテバテの状態だった。
 それでも何度か休みながら、姿見の鏡池にたどり着き、そこでしばらくの間、旭岳が夕日に染まる姿を眺めて、ロープウエイ駅へ。
 最終5時の一つ前のゴンドラに乗り、そして少し離れた所にある駐車場に着く。8時間余りの山歩きだった。行って良かった、青空、雪山、ひとりだけの静けさ、他に何を言うことがあるだろう。
 後は、家に戻って、撮ってきた写真をパソコンの画面で見る。一枚、二枚、さあーん枚とナベアツふうに数えながら、ひとりニヤつくのだ・・・まったくわれながらネクラな趣味だと思うけれど。
 しかし、暗いところにいるモグラにはモグラの楽しみがあり、深海魚には深海魚だけの暗い海での楽しみがあるのだろう。そして、ミャオにはミャオの楽しみが・・・もうすぐしたら帰るからな。
 その前に、これから本州の山に登りに行ってくる。しばらく、便りを書けないけれど、戻ってきたらすぐに報告するつもりだ。
                       飼い主より 敬具