ミャオの家より

今はいないネコの飼い主だった男の日常

飼い主よりミャオへ(39)

2008-10-24 17:07:05 | Weblog
10月24日
 拝啓 ミャオ様
 
 昨夜から降り出した雨は、朝になって、風を伴う嵐模様になってきた。せっかく色づいたばかりの、林の樹々、モミジやカエデの葉が散っていく。この雨を境に、はっきりと冬が近づいてくるのだろう。
 その冬を先取りするように、三日前に山に登ってきた。なにしろ、足首の痛みを抱えていたために、前回の登山(9月24日、27日の項)からなんと、一ヶ月もの間があいてしまった。いつもなら、少なくとも一月に三四回は、山に行っていたのに、私としては、何ともツライ気持ちになってしまっていたわけで。もっともそのおかげで、家の林の中での薪作りのための仕事がはかどったのだから、何も悪い事ばかりとはいえないのだが。
 さて、その雪の大雪山に登るべく、朝5時に家を出る。狩勝峠、三の山峠にも、雪はおろか凍結した所もなかった。富良野の盆地に下りて、今度は旭岳温泉(旧湧駒別温泉)への道を登っていく。いつもの年なら、もう路面に雪があり、半分凍結しているのに、ロープウェイ乗り場の終点まで、雪を見ることもなかった。
 クルマの方は、もう10月の初めに、冬タイヤに換えているので心配はなかったのだが、まあ凍結路面に気を使いながら走るより、楽な方が良いけれど、それにしても山に雪が少ないのは、山岳景観上、私にとっては余り嬉しいことではない。ただし、山の上には、一面の青空が広がっている。途中ずっと曇り空だったので気になっていたが、この青い色を見ると、様々な心配は一瞬のうちに吹き飛んでしまう。
 8時45分の始発のロープウェイに乗って姿見の駅へ。観光客が20人余り、他に何人かの登山者の姿も。夫婦池から姿見の池へ歩いていく。雪は残雪模様で少ないけれど、凍りかけた池を前景にした旭岳の姿は、やはり何度見ても素晴らしい。
 そして遊歩道から分かれて、旭岳の登山道を登っていく。前方に、二人の登山者の姿が見えるだけ。右手には、トムラウシ山から十勝岳連峰への山並みが続き、富良野盆地を隔てた向こうには、夕張、芦別の山々の姿がはっきりと見えている。
それまでまばらだった雪も、八合目(姿見が五合目)辺りからは、固雪のま頂上まで続いている。一ヶ月ものブランクでバテバテになりながら、雪に覆われたなだらかな山頂に着く。
 何度となく登っている旭岳だが、いつも雪のある時ばかりで、つまり雪景色を見るために登る山なのだ。雪のない時期は、火山礫に覆われた山道は取り立てて見るべき花々もなく、北海道で一番高い山(2290m)という他には、格別に面白い山ではないからだ。
 そして、周りには少し雲が出てきたものの、今まで見えなかった他の大雪山群の山々が見えてくる。すぐ隣の後旭岳(ここから眺める旭岳は素晴らしい)、その後に白雲岳(2230m)、左に熊ヶ岳、さらに離れて北鎮岳(2244m)、比布岳などが並んでいる。
 そして、この頂上には私より先に、すでに二組の若いカップルの登山者が着いていた。挨拶をする。なんと二組とも外国人だった。一組はイタリアから、もう一組はスイスから・・・そして、日本人は私一人だけ。
 周りには雪に覆われた白い山々、彼らは地元の人たちで、ここはヨーロッパ・アルプスなのではないのか・・・欧米か!と、一瞬ツッコミたくなるほどだった。
 そしてイタリア人の二人は、すぐに頂上から登ってきた道を下りていったが、スイス人の彼は彼女と伴に、これから私がたどろうとする同じコースを行くつもりだと言った。
 私は、アイゼン(クランポン)がないと、この北斜面が心配だと言ってやった。私が、自分の靴にアイゼンをつけている間に、彼は様子を見るために、少し北側に下っていったが、すぐに戻ってきた。
 そして私の傍に来て、この斜面はなんとか下れると思うけれど、その先の岩場の所が心配だ、彼女と一緒だし、戻った方がいいのだろうと言った。
 この先に、岩場の所などないのだけれど、私は彼と握手して、二人と別れ、ひとり北斜面を下っていった。彼の靴跡が途切れた先には、もう何もない白い斜面が続いているだけだった。
 雪は、ずいぶん前に降り積もったままで、その後、下界の暖かさもあって、山にさらなる雪が積もることもなく、上の方が解けては固まりを繰り返して、すっかり春先のような固雪になっていた。
 かなりの急斜面だから、確かにこの凍結斜面では、アイゼン装着していないと、キックステップだけでは危険だと思う。最も下の方が平らな鞍部になっているから、スリップしたとしても大したことにはならないだろうが。
 程よく固い斜面に、アイゼンが気持ちよく効いている。下るにつれて、変わってゆく雪山の景色を、時々立ち止まっては眺め、カメラを構える。いいなあ、山はいいよなあ。(写真は熊ヶ岳への登りから見た旭岳北面)
 この続きは、次回に。 
                      飼い主より 敬具