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映画「ルビー・スパークスRUBY SPARKS ’12」劇場公開2012年12月

2013-06-06 14:01:22 | 映画

                 
 天才作家ともてはやされていたカルヴィン(ポール・ダノ)は、いまや最大のスランプに陥っていた。一冊目の大ブレイクがあって二冊目にとりかかるが、タイプライターの前に座っても、一つの単語どころか一字も打てない。頭の中で活字が凍り付いているようだ。

 精神科医に悩みを打ち明け、ひと時の安らぎを求めるが、精神科医から「下手でもいいからなにかを書いたほうがいい」というアドヴァイスを受ける。
 夜明けの光を背にして長い髪をなびかせた女性が夢に現れた。カルヴィンは、はっとして夢から醒め超高速でタイプライターを打ち始めた。

 やがて自身が創造した女性、ルビー・スパークスに恋をした。そんなある日、起きてみるとキッチンにそのルビー(ゾーイ・カザン)がいるではないか。大人のファンタジーは心地よい印象を残しながらハッピー・エンドへ。
 遂にカルヴィンは、二冊目「ガールフレンド」を完成させた。これもベスト・セラー確実といわれる。著者サイン会で“これは僕の真実、信じ難い愛の物語だ。魔法のような本だが、恋も魔法のようなものだ。どんな作家でも幸運に恵まれているときは、言葉が自然にあらわれ出る。彼女はやってきた。その彼女を僕は言葉で綴る”とカルヴィンは結ぶ。

 この脚本を書いたのはルビー役も演じたゾーイ・カザンで、ゾーイは映画「欲望という名の電車」「波止場」「エデンの東」を監督しマーロン・ブランド、ジェームズ・ディーン、ウォーレン・ベイティなどを見出したエリア・カザンの孫娘に当たる。

 ゾーイ・カザンは決して目を見張る美人ではないが、この魔法のお話に現実味を与える。そして、創造した女性に恋をすることは当然あり得ることだ。恐らく作家は創造した人物に恋をしているのではないだろうか。私は信じる。
 もし信じられないと思うなら、自分でラブ・ストーリーを書いてみればいい。男なら理想の女性を創造すると、切ないくらい恋情に襲われる。私も一度経験しているから間違いない。
            
            
            
            
            
            
監督
ジョナサン・デイトン1957年7月カリフォルニア州アラメダ郡生まれ。

製作総指揮、脚本
ゾーイ・カザン1983年9月ロサンジェルス生まれ。祖父にエリア・カザン

キャスト
ポール・ダノ1984年6月ニューヨーク市生まれ。
ゾーイ・カザン 
アントニオ・バンデラス1960年8月スペイン、マラガ生まれ。
アネット・ベニング1959年5月カンザス州トペカ生まれ。
クリス・メッシーナ1974年8月ニューヨーク生まれ。
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映画「大臣と影の男’11」劇場未公開 製作国フランス

2013-06-04 16:27:18 | 映画

                 
 半年間でマルセイユの港湾問題を解決。リール~トリノ線を開通させ、港湾の民営化も実現させた運輸大臣ベルトラン(オリヴィエ・グルメ)は、鏡の前で“闇夜に餓えたトラとなれ”と自分を鼓舞する。
 政界を舞台に大臣と秘書官ジル(ミッシェル・ブラン)の哀歓が描き出される。やり手のベルトランでも、ふっと漏らす言葉に人生は一人ぼっちを実感する。

 オペラ鑑賞がストで中止になったとき、いつも行動を共にする女性秘書に「飲みにいくか?」と聞くと「今日はダメ、用事があるの」という返事。
 スマートフォンのアドレスを眺めて「4000件中 友人はゼロだ」と呟く。華々しい仕事ぶりから、この言葉は寂しさが漂う。

 主演のオリヴィエ・グルメの風貌は、いわゆる欧米人には見えない。日本人といっても違和感がない。さすがに体つきは日本人とは違うが。

 秘書官役のミッシェル・ブランの飄々とした雰囲気を醸し出すところは注目に値する。2011年セザール賞助演男優賞受賞も肯ける。

 これといってスキャンダルがあるわけでもない。淡々と物語りは進む。それでいてなぜか余韻の残る映画だった。

 それに日本情緒も少し加味されているようだ。オープニングが不可思議で、黒子が現れテーブルや椅子、ファイルや事務用品まで整える。おまけに素っ裸の女が現れ、片隅で大口を開けているワニに自ら飲み込まれて行く。音楽はかねや太鼓、つづみで構成されていた。
            
            
            
            
            
監督
ピエール・ショレール1961年生まれ。

キャスト
オリヴィエ・グルメ1963年7月ベルギー生まれ。
ミッシェル・ブラン1952年6月フランス生まれ。
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読書「憎しみの連鎖 LIEBERMAN'S LAW」スチュアート・カミンスキー

2013-06-02 18:19:50 | 読書

                
 『晩春の雨が降っていた。ここ小さな簡易食堂(ダイナー)のカウンター係は年寄りで白いエプロンをかけて、陶器の容器に低カロリー・シュガーのスィートゥンローとイークウォルと砂糖の袋を詰めていた。
 客は韓国人三人と奥のボックス席でサン・タイムズ紙を読んでいるがっしりとした白人の男だけだった。

 入り口のドアが開いて降りしきる雨の音と湿った空気が流れ込んできた。三人の若い韓国人が入ってきた。客の三人の韓国人は急に用事を思い出したように、食べかけの料理を残して代金を払った。カウンター係と白人の男は若い韓国人に気づいてもいない風情だった。

 カウンターに座った若い韓国人三人のうちサングラスをかけた男が言った。
「集金に来たんだ」
「集金って?」カウンター係が言う。
「みかじめ料、保護代だ」と若い男』
カウンター係はシカゴ市警のリーバーマン刑事、がっしりした男は、同じくハンラハン刑事だった。若い三人の韓国人は、まんまと蜘蛛の巣に囚われたようだ。

 これがこの小説の導入部の一部だが本筋ではない。いわばサイド・ストーリーと言ったところ。ミア・シャヴォット教会堂の主礼拝堂の長椅子のクッションが切り裂かれ、聖櫃の中の聖典(トーラー)四冊のうち三冊が広げられ引き裂かれ、一冊は消えていた。
 壁には「ユダヤ教徒はわれわれの赤ん坊を食らう」とか「ユダヤ人は出て行け、さもなくば死ね」と赤いペンキで殴り書きされていた。これが本筋のストーリー。

 リーバーマンも妻ベスもこの教会の信徒だった。歴史的に貴重な聖典がなくなったことで怒りが沸騰した。この事件を追うリーバーマンとハンラハン。

 もう一つサイド・ストーリーがある。リーバーマンの娘リサの結婚である。あらかじめ知らされていたとはいえ、オヘヤ国際空港のゲートでリサの相手アフリカ系アメリカ人と対面したときベスはこう思った。
「若い頃のシドニー・ポワティエには似ても似つかないわ」

 リーバーマンは「リサは子供を作るだろう。子供の肌は黒くなるだろう。自分が80歳になる頃、この孫たちは10代になり町を歩くと人々が怖がるだろう」という思いが頭をよぎる。

 リーバーマンは空港に立っているにもかかわらずアフリカ系アメリカ人のリサの夫マーヴィン・アレクサンダーに矢継ぎ早に質問の雨を降らせた。横にいるベスの制止を無視して。
「あんたはアメリカ人か?」
「これまで結婚したことは?」
「子供は?」

 マーヴィンは、ジャマイカ生まれの両親に育てられ、スタンフォードで医学博士号をとり、結婚はしていたが妻が早くに亡くなり子供はいないという事情が分かった。この辺の記述にはアメリカ社会の人種に対する微妙な感情の揺れのようなもが感じられるところだ。

 また、裏社会とのコネで持ちつ持たれつの関係は必要悪と思わせられる。事件捜査は、いろんな関連があって清く正しく捜査をしていればいいというものでもない。警察は犯人逮捕が至上命令だから。極上の警察小説だった。
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