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あっ! と声を出した衝撃のラストは忘れられない「或る終焉CHRONIC」2015年制作 劇場公開2016年5月

2016-12-17 16:45:15 | 映画

               
 背景に流れる音楽が一切ない。鳥の鳴き声、車のエンジンをかける音、車の走行音、ウィンカーの音、水が流れる音、足音、テレビ放送の音、食器を揃える音など日常の生活音だけ。考えてみると私たちの生活そのものが、そういう音に囲まれている。ロマンティックな音楽が流れているわけではない。物凄くリアルで自分が演じているような錯覚を覚える。

 オープニングはまるでミステリー。車のフロント・ガラス越しに、ある家の駐車場の車を誰かがじっと見つめている。朝なのか鳥のさえずりだけが聞こえる。やがて出てきた若い女性がエンジンをかける。エンジンの音は、ちょっと古い車のようだ。バックで出した車は通りを走り出す。

 監視していた車も追尾する。カメラは徐々に運転席に移動する。運転しているのはデヴィッド(ティム・ロス)だ。前の車はウィンカーを出して右折する。

 そこでぱっと画面が変わりデヴィッドの後姿。デヴィッドはパソコンでナディア・ウィルソンの写真をスライドショーで眺めている。後でわかることだがこのナディア・ウィルソン(サラ・サザーランド)は、デヴィッドの娘だった。デヴィッドは妻や娘と別れ、息子の死と共に疎遠となり今は一人暮らし。

 次の場面に移るとやせ細った女性が全裸で浴室の縁に腰掛けている。目をつむり頭は壁に寄りかかっている。この女性は、サラ(レイチェル・ピックアップ)という。

 水が蛇口から流れる音がする。男がその女性の体を洗っている。男は、デヴィッドだった。デヴィッドは末期の患者の世話をする看護師だ。

 寡黙で献身的なデヴィッド。多くの信頼を得ているが、ジョン(マイケル・クリストファー)の家族は違った。セクハラで訴えると所属の会社に通告があったという。男同士の気安さでジョンにポルノ映像を見せていたのが家族の顰蹙を買ったのかもしれない。家族はデヴィッドがジョンを操っていると思っているらしい。如何に献身的であっても、家族以上の親密さは誤解を招く。デヴィッドは解雇される。

 そしてマーサ(ロビン・バートレット)の介護を引き受ける。彼女はガンが腸に転移していて深刻な事態だ。化学療法の効果も薄く、マーサは継続的な治療を拒む。そしてデヴィッドに「あなたの息子さんのように私を逝かせて!」とマーサ。ここで妻や娘と別れた理由が判明する。

 しかし、一旦は断るデヴィッド。車で追っていって医学部に通う娘ナディアに声をかける。妻とも会話が復活する。かつての息子の部屋で佇むデヴィッド。そこでマーサの意志を受け入れる決断をする。

 きちっとした服装で横たわるマーサ。腕から薬物を注入するデヴィッド。会話はまったくなく、薬物を袋から出す音と終わった後、マーサの脈を見てカバンのファスナーを締める音だけ。外に出てカバンを自分の車に放り投げて、携帯でどこかへ「マーサは、心停止した」と告げる。

 患者の身になって痛みの分かるデヴィッドならではの結論だろう。この安楽死は、アメリカでは法的に認めている州もあるというから、単なる医療行為として描かれているのだろう。やがて衝撃的な結末へと導かれることになる。重いテーマではあるが意外に暗さが感じられない。原題の「CHRONIC」は長患い。

 

 

監督
ミシェル・フランコ1979年メキシコ生まれ。2015年カンヌ国際映画祭で本作が脚本賞を受賞。

キャスト
ティム・ロス1961年5月ロンドン生まれ。
サラ・サザーランド1988年2月ロサンジェルス生まれ。父はTVドラマ「24」で有名なキーファー・サザーランド。
レイチェル・ピックアップ1973年7月ロンドン生まれ。
ロビン・バートレット1951年4月ニューヨーク市生まれ。
マイケル・クリストファー1945年1月ニュージャージー州生まれ。

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