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ウォーキング中の頭のなか……

2014-08-06 16:07:42 | 雑記

 人間の頭の中は、起きているときは絶えず思考が渦巻いていると言ってもいい。特に通勤電車の中とか飛行機の中、そして集中できるのがウォーキングのときだろう。ただし、歩く道が交通量の激しいところでは思考がばらつく欠点がある。

 幸い私のウォーキング・ロードは、遊歩道だから危険が皆無。40分ほどの間、じっくりと考えをめぐらすことが出来る。作家が散歩で考えを纏めるというのはよく聞く話。人は一人になったとき何かと考え事をするようだ。私も同じ。

 今日は読んだ本について考えていた。先月緑内障の手術で入院したとき持参した本が矢野隆著「無頼無頼(ぶらぶら)一ツ!」。この本も決して悪くないが、読み終わっても退院まで二・三日ある。

 そこで病院の図書室で司馬遼太郎の「風の武士」を借りた。この人の著書はいくつか読んではいたが、読み始めると留まるところを知らない。いずれにしても作家には読みづらい人と読みやすい人がいるのは確かだ。司馬遼太郎は、読みやすい人だろう。文体にリズムがある。それは元新聞記者の経験が生きているのかもしれない。

 その読みやすい文章をどのように書けばいいのかと考えていたが、決め手はなさそうでとにかく本をたくさん読んで、読みっ放しでなく、感想メモなどと共に気がついた文言も書き留めておくしかない様に思う。

 ウォーキングの帰り道に図書館にリクエストしていた本、坂東真砂子の「瓜子姫の艶文(うりこひめのつやぶみ)」を持ち帰った。艶文は恋文の古風な言い方と辞書にある。さて、その艶文を引用してみよう。
 『おまえさまとのあのこと 天にも昇るほどに心地よき候 思ひかへすほどに 身もわらわらと震へまゐらせ候 
 浮気まゐらせ候よしも おまへさまのあれだけは わらわのそばにお置きくだされますやう かたくかたく願ひあげまゐらせ候 
 いえいえ それもいけませぬ かくも善きことを よそでもいたすのかと思ひ候へば 腸(はらわた)も煮えくり返り候 
 はなればなれの間は したくともこらへまゐらせ候ゆゑ おまへさまもそのおつもりでゐてくだされまし たんとたんとお待ちこがれいりゐらせ候 
文箱の底から出てきた艶文を見つけて、りくの躯(からだ)は凍りついた。
(中略)夫の亥右衛門(いえもん)との交わりを想いつつ身悶える若い女の姿が瞼に浮かび、頭の奥からじいんとしびれが広がっていった。
「女将(おかみ)さん 女将さん」
階下から女子衆のしかの声が聞こえてこなければ、その場にいつまでも立ち尽くしていたかもしれない。
「どうしたのですか」
すぐさま背筋を伸ばして、腹の底から声を出した。そうすると気持ちがしゃんとなった。

 見事に我に返った。いつも思うのは、会話体のあとどのように結べばいいか、 ということだ。「……」と彼は言った。こればかりでは芸のない話だ。
「笑みを浮かべながら、彼は言った」
「口を尖らせて怒ったように彼女が言う」いろいろ工夫はするが、このアンダーラインの部分のように印象的な文体にはならない。
「どうしたのですか」とりくは、声を上ずらせて言った。 と書いても印象に残らない。
 さすがにプロ作家だと感心した次第。書き出しがこういう具合だから興味は尽きない。ちなみに坂東真砂子は、舌癌のため今年1月55歳で逝去。

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