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映画「ある女流作家の罪と罰 」落日の伝記作家が選んだ道は、有名人の手紙を捏造することだった。

2019-07-15 12:22:22 | 映画

              

 ハリウッド女優キャサリン・ヘップバーンの伝記を書いたことで有名になったリー・イスラエルの実話「Can You Ever Forgive Me?許してくれないの?」をもとに映画化された。

 ニューヨーク1991年午前3時30分、出版社の仕事場。ウィスキーの入ったグラスを片手に執筆するリー・イスラエル(メリッサ・マッカーシー)に「酒を飲みながらの仕事をやめろ!」の声。リーは思わず「黙れクソガキ!」。この一言で失職したリー。

 掃除もろくにしていないハエが飛び交う部屋に帰り着き愛猫に心を慰められる。(この時の背景に流れる音楽は、なぜかジェリ・サザンの歌うI Thought of You Last Night昨夜あなたのことを考えた、なのだ。歌詞の中に、朝まで眠れないとか孤独だとかがあるが。この映画の女性監督の好みかも)

 さて、収入源を失ったリー。書かなければと気持ちが焦るが、タイプライターのキーはいつまでも凍り付いている。リーは部屋の中を眺めた。額に入れたキャサリン・ヘップバーンの直筆の手紙が目に留まった。試しにトゥエルヴツリーズ書店に持ち込んだ。

 「リーへ 今日はスペンスと雑誌の撮影よ。つらい日々だけどあなたの優しさに感謝を あなたのケイトより インクの染みを許して、泣いてばかりなの」
 女性店主は、「素晴らしい。肉筆で感謝の気持ちが素敵。175ドルでいかが?」今のリーにとっては175ドルは、天の恵みに思えた。

 バーのドアは、懐かしの我が家と同じ、いつも待っていてくれる。リーはアルコール依存症気味。カウンターに座ると、ウィスキーのオンザロックを注文する。カウンターの端でビールを飲んでいた前科者でゲイのジャック(リチャード・E・グラント)が声をかけてきた。ある時点までは、この二人はなかなかいいコンビだった。

 転がったほうが歩くより早いんじゃないかと思わせるほど太めのリーと対照的にすらりと細目のジャックである。ちゃんとドレスアップしてレストランに繰り出せば、イギリス訛りのジャックとチャーミングなリーという組み合わせになる。手慣れた手つきでワインのテースティングをしながら、上品にホークで食べ物を口に運び、にこやかに見つめあっている二人を外から見ると、まるでロードアイランドの高級住宅地ハンプトンの住人に見える。決して有名人の手紙を捏造している詐欺師とは思わないだろう。

 マレーネ・ディートリッヒ、ノエル・カワード、ジュディ・ホリディと次々と彼、彼女の日常をタイプしていき、サインは 事前に図書館で本物の手紙を閲覧、文章を書き写してタイプ、サインはそれらしくして再度図書館へ。その時は本物と偽物を入れ替える。テレビの画面を上にして何も映らないザーという砂嵐状態にして本物の上に偽物を重ねてサインをなぞる。これで一丁出来上がり。

 こんなのが長続きするはずもない。ある書店でコレクターからあなたの手紙に本物かどうかの疑いがあると、したがって買い取れないという。それではということで、今度は売り込みにジャックがあたる。このころからFBIは内偵を進めていた。

 ジャックがゲイの相方をリーの部屋に連れ込み、散々散らかし猫まで死んだ。それを見たリーは、怒り心頭バカなゲイ男二人を放り出した。そんな時期に寸暇を置かずFBIは、リーを逮捕した。

 裁判が行われ判決前、女性判事から何か言うことがありますか? それに答えて「私は罪悪感と不安を抱えてきました。何か月も これは大げさです。悪いのは自覚していました。ただ、発覚することが怖かったんです。自分の行いを後悔しているとも言えません」
ここで弁護士が「リー」と諫める。
 それでもリーは続ける。「本当です。いろいろな意味で人生で最良の時期でした。ここ何年かのうちで唯一自分の作品に自信が持てたんです。でも実のところ、私の作品とは言えません。自分の作品で本気で勝負するのなら、私は批判を一身に浴びる覚悟が必要です。そこに飛び込む勇気が私にはなかった。飼い猫を失いました。あの子だけが私のことを愛してくれた。友達も失った。バカな男だけどこんな私に耐えてくれた。一緒だと楽しかった。やっと気づいたんです。私は作家じゃなかった。だから、結局のところ私にはそんな価値などなかったんです。そう思います。法廷の判断を正当なものとして、いかなる処罰も妥当であると受け入れ、完全なる理解の上その刑を全うします」

 そして判決は、「執行猶予5年、自宅軟禁6か月、自宅を離れるのは職場への通勤と奉仕活動と断酒会の参加のみとする。州外へは出ず重罪犯との接触は禁じ被害者への賠償に努める」であった。表向きしおらしさを出したが、リーにとってこの判決は無きに等しい。街角のバーでオンザロックのグラスを片手にジャックを待つ。

 現れたジャックは、見るからにエイズ患者だ。「リー、許さないぞ! 絶対に」けんもほろろに追い出されたのを根に持っている。リーは、二人の関係を主題に小説を書くつもりでジャックの承諾を求めた。最初は渋っていたが、悪く書かないのならOKだと言った。言い終わると「じゃあ」と言って街角に消えた。これがジャックを見た最後になった。そしてリーが書いたのが「Can You Ever Forgive Me?」だった。

 メリッサ・マッカーシー、リチャード・E・グラントこの二人の俳優もよかったし、ジェリ・サザン、フレッド・アステア、ダイナ・ワシントン、ベギー・リー、パティ・ページなどのオールディーズがほんのりとする。批評家の10点満点中、8.3点と評価が高い。この作品は劇場未公開、出演俳優の日本での知名度が影響しているのだろうか。

ぜひ、鑑賞願いたい。2018年制作

      

      

      
                          

ではこの曲、I Thought of You Last Nightをジェリ・サザンで聴いてみましょう。

   

監督
マリエル・ヘラー1979年10月カリフォルニア州生まれ。

キャスト
メリッサ・マッカーシー1970年8月イリノイ州プレインフィールド生まれ。本作で2018年アカデミー賞主演女優賞にノミネート。

リチャード・E・グラント1957年5月スワジランド生まれ。本作でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。

 


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