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ミステリー ドン・ウィンズロウ「歓喜の島」

2005-05-23 20:29:05 | 読書
 ドン・ウィンズロウの作品は何冊か読んでいて、好きな作家の一人。この作品は、1958年のクリスマス・イヴから大晦日にかけてのニューヨークが舞台。1958年は米ソの冷戦真っ只中で、音楽、アート、演劇、政治、文学とニューヨーク文化の最盛期、その時代のニューヨークに憧れがあったと著者の言葉。

 元CIAの工作員が主人公でジャズ、セックス、殺人とミステリーには欠かせない要素で成り立っていて、巧みな描写とユーモアで読むほうは楽しい。ストーリーは驚くほどのこともなく、騙し騙されてというもの。それより、たくさんのホテルやレストラン、バー、クラブの名前が出てきて、実際に存在するのかあるいはかつて存在したのかという興味が湧く。

 それとニューヨーク生まれの著者が描く街の描写をガイドブックにしてもいいくらい。たとえば“ブロードウェイは街の北から南まで走っているけれども、ウォルター(元CIA工作員で調査員)がブロードウェイを思うとき、それは普通、タイムズ・スクエアのあたりだった。すなわち、劇場街、偉大なる白い通り(グレート・ホワイト・ウェイ)、まばゆい明かりのブロードウェイだ。

 ウォルターのような映画(ムービー)ファンにとって(‹ザ・セラー›の芸術家気取りの連中みたいに″フィルム″と呼ぶのを、彼は拒んだ)、ニューヨークは映画天国だ。プラザのはす向かいにある小ぎれいなパリス劇場では、『ザ・ホーシズ・マウス』にアレック・ギネスが挑戦しているし、ラジオシティ・ミュージック・ホールでは『メイム叔母さん』にロザリド・ラッセルが出ているし、小さいけれども有名なサットン劇場では―3番街から少しはずれた五十七丁目―レスリー・キャロン、ルイ・ジュールダン、モーリス・シュヴァリエ、ハーミオン・ジンゴールドが『恋の手ほどき』に出ていて、ウォルターはもうそれを五回観ている。

 ブロードウェイの封切館なら1ドルあれば入れるから、オデオン劇場で『媚薬』のジミー・スチュワートとキム・ノヴァックを見ることも、トランスラックス劇場で『ドクターズ・ジレンマ』のレスリー・キャロンとダーク・ボガードを見ることも、ヴィクトリア劇場でスーザン・ヘイワードが『私は死にたくない』と叫ぶのを見ることも、アスター劇場で『旅路』のバート・ランカスター、デボラ・カー、リタ・ヘイワース、デイヴィッド・ニーヴンを見ることも可能だ。ウォルターはひどいブロードウェイ病に罹っていた”実に懐かしい名前が出ている。

 このほかにもプラザ・ホテル、レインボー・ルームなどがでてくるが、いずれも実在している。この本をガイドブックにプラザ・ホテルに泊まり、ナイト・クラブやジャズ・クラブに足を向けるならば相当な金額を覚悟しなくてはならない気がする。ブラック・タイ着用のクラブもあるので言葉と度胸も持ち合わせが必要だろう。1958年は1ドルで映画を観られたが、いまはいくら払えばいいのだろうか。

 ISLE OF JOY by Don Winslow
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