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第二次大戦で最後に沈められた重巡洋艦インディアナポリスの史実「パシフィック・ウォー」

2017-06-18 16:24:06 | 映画

              
 史実と言っても大枠はそれに違いないが、水兵同士の喧嘩とか金持ちのお嬢さんに恋したラブ・ストーリー、それにインディアナポリスの艦長と伊58艦長の和解などは脚色なのだろう。

 1945年7月26日テニアン島へ極秘任務の原子爆弾用の部品と核材料を運んだあと、重巡洋艦インディアナポリスは7月30日フィリッピン海で日本の潜水艦「伊58」から発射された6本の魚雷のうち3本が命中、弾薬庫が誘爆し12分後に沈没した。

 インディアナポリスの乗員1199名のうち約300名が攻撃による死亡、約900名が海に投げ出された。インディアナポリスの艦長チャールズ・B・マクベイ大佐(ニコラス・ケイジ)も伊58の艦長橋本以行(もちつら)少佐(竹内ゆたか)も人情味があり常識を備えた人間だった。

 マクベイ艦長は、直属の士官が横柄でわがままな性格を諌めたり、沈没する艦のできるだけ最後に脱出したり、漂流中もなけなしの缶詰を部下から先に与えたりした。一方の橋本艦長は、伊58潜水艦に搭載している人間魚雷・回天をできるだけ使わないという配慮をしていた。

 インディアナポリスの海に投げだされた約900名の兵士のうち救助されたのは316名だった。マクベイ艦長もその中の一人だった。士官の中でただ一人の生き残りとなった。サメの餌食もあったが、多くは水、食料の欠乏、体温低下、生きる意志の喪失それから起こる幻覚症状などで命が奪われた。米軍基地が通信傍受を受けながら適切な処理を怠ったのも多くの死者を出した要因に拍車をかけたといわれる。

 生き残ったマクベイ艦長には、遺族からの怨嗟の声が渦巻き、さらに軍事法廷が待っていた。訴因は、1魚雷の回避に有効といわれるジグザグ航行を怠った罪。2退艦命令を出す時期を怠った罪。

 この二つの訴因は、軍事法廷にかける必然があるのだろうかと思う。極秘任務ということで駆逐艦の護衛もついていない。どうやって潜水艦から逃れよというのか。魚雷3発を受け弾薬庫の誘爆という事態では、真っ先に消火活動と破損箇所の修復だろう。状態の確認と可否の判断は、いくら急いでも5分はかかるだろう。それから全員を脱出させると考えると時期を怠ったとは思えない。

 面白いのは、1について敵国だった橋本艦長を予備審問に呼び証言させていることだ。戦争が終わっているとはいえ敵国だった艦長を証言台に立たせる。自国の潜水艦長たちや専門家で事足りないのかなあ。アメリカ人特有の合理主義かもしれない。

 その橋本艦長の証言は「あの位置関係ならジグザグ航行していても撃沈できた」というものだった。私の印象としては、同じ軍人同士の連帯感があって、最前線で命を賭けて戦う艦長を航行の仕方で軍事法廷で裁くという見識に反逆したかもしれないとも思う。

 映画でも証言を終えた橋本元艦長がマクベイ大佐の目を見つめて小さくうなずく場面がある。「どうだ。これでいいだろう?」と言っているようだ。映画では予備審問なのか本審問なのかは分からない。判決は、1は有罪、2は無罪だった。

 映画では、法廷の外の庭でマクベイ艦長と橋本艦長の劇的な対話が用意されている。
橋本「日本ではあり得ないことだ。立場が逆でもあなたが召喚されることはなかった」
マクベイ「回避策はあっただろうか?」
橋本「あなたの艦は無防備でわれわれが近くにいた。大日本帝国海軍の艦長として敵を殺すのが任務だった。だが、人として後悔している」
マクベイ「貨物の中身はおおよそ見当はついていた。私も任務を果たした。だが、人としてまったく名誉など感じていない」
橋本「貨物の運搬を阻止していたら結果は違っていただろう。今日、かつての敵を許すことができた。いつの日か人として許し合えるだろう」二人は挙手の礼で別れを告げた。

 この場面は、オバマ大統領が2016年5月27日広島訪問、安倍首相が2016年12月27日真珠湾を訪問したことを連想した。

 また、人間魚雷・回天もそうだし特攻隊(神風特別攻撃隊)も同列で人命軽視の日本人と言われても仕方がない。特攻隊の発想は誰か。第二次世界大戦以前からあって城英一郎少佐の頭の中で芽生えていた。1931年山本五十六少将と相談。「最後の手は肉弾体当たり、操縦者のみにて爆弾搭載射出」が了解事項のようだった。橋本艦長も人命をむざむざと捨てる気になれなかったのだろう。良心的な軍人もいたということだ。少し救われる気持ちになった。

 マクベイ艦長は、ジグザグ航行をしなかったとして有罪になったが、上官たちの尽力で有罪が取り消された。それでも遺族からの怨嗟は止まず1968年拳銃自殺で幕を閉じた。

 軍法会議から50年後、ハンター・スコットと言う12歳の少年がこの事件を知り調べ始めた。その結果、「当時の海軍上層部がインディアナポリスの位置情報をきちんと管理できなかったことが大きな理由であり、そのことを隠すために彼に罪をなすりつけた可能性が高いことが判明した。橋本艦長が予備審問の際にマクベイ大佐を擁護する内容を証言していたが、本審問ではカットされているという事実も判明し問題とされた(ウィキペディア)」 

 このことからマクベイ艦長の名誉回復運動が広まり、ビル・クリントン大統領の署名によって無罪が確定した。この映画もドキュメンタリー・タッチで描いてあるが、マクベイ艦長に焦点を当てて人間性に迫れば見応えのある作品になったと思う。2016年制作 劇場公開2017年1月






監督
マリオ・ヴァン・ピーブルズ1957年1月メキシコ・シティ生まれ。

キャスト
ニコラス・ケイジ1964年1月カリフォルニア州ロングビーチ生まれ。1995年「リービング・ラスベガス」でアカデミー主演男優賞受賞。
トム・サイズモア1961年11月ミシガン州デトロイト生まれ。
ユタカ・タキウチ (竹内ゆたか) 岐阜県生まれ。2000年5月渡米。

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