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映画「婚約者の友人」嘘がテーマ 良い嘘と悪い嘘

2018-06-13 16:31:16 | 映画

          
 1918年11月に第一次世界大戦が終わったが、ドイツ人とフランス人の間で未だ憎しみの火が消えていない1919年。クヴェードリンブルクにあるフランツの墓に、誰かがバラの花を手向けてあるのを見たアンナ(パウラ・ベーア)。

 フランツは、医師のハンス(エルンスト・シュトッツナ)とマグダ(マリー・グルーバー)夫妻の一人息子で、アンナの婚約者だった。戦争が終われば結婚の予定だった。しかし、フランツは戦死した。

 二日続けて墓の前にたたずむ男を見たアンナ。何故か? という疑問が漂う中、その男がハンスのもとを訪れる。ハンスはフランス人と知って有無を言わさず追い返す。その男は、アドリアン・リヴォワール(ピエール・ニネ)と言い「私は殺人者」だと言って出て行った。

 この来訪者にこだわったのはハンスの妻マグダだった。「ひょっとしてフランツの友人かもしれない。フランツがパリに行っていたから」という訳だった。アンナは町のホテルでアドリアンの滞在を確かめて招待の手紙を託した。

 やって来たアドリアンは、想像した通りの話を始めた。フランツとパリで出会い、町の居酒屋やルーヴル博物館に行ったり、アドリアンが音楽学校の出でヴァイオリンをフランツに指導したなどと言い、特にルーヴルではエドゥアール・マネの絵に魅了されたとやや沈んだ表情で語った。

 アンナはアドリアンを町に案内したり郊外を散歩したり、またアドリアンから町のダンスパーティに行こうと誘われたりして親しみを感じ始めた。

 一方アドリアンは、アンナとより近しくなっていくのを不安な気持ちでいた。フランツと友達だったというのが嘘だからだ。真実を話さなくては。1918年9月15日マルヌ県ドルマンでの激しい戦闘の中、塹壕で鉢合わせしたのがフランス兵のアドリアンとドイツ兵のフランツだった。

 銃を構えたアドリアンの前でフランツは絶望の表情を浮かべた。寸分の睨みあいのあと、アドリアンは引き金を引いた。弾丸はフランツの心臓を射ぬいていた。即死だった。アドリアンは、フランツの銃を確かめると弾丸が入っていなかった。このことからアドリアンは、自分は単なる殺人者と思うようになった。そしてフランツの家族に赦しを求める決心をする。

 アドリアンの告白を聞いたアンナは、激しい怒りに包まれた。後日、ご両親に直接伝えたいと言ったアドリアンを抑えてアンナは「もう話した」「ご両親の反応は?」アドリアンの問いには「どこの親も同じでしょ」「そうか。当然だろう」とアドリアン。

 実はアンナは嘘を言っていた。両親はアドリアンの純粋な心にうたれ、会うのを楽しみにしていたし、再びヴァイオリンを弾いてくれるのを望んでもいた。

 時間の経過とともにアンナの心にも変化が見え神父に事情を告白。神父の「赦しを与えたほうがいい」のアドヴァイスが、アンナにアドリアン宛ての手紙を書かせた。しかし、手紙は未達で返って来た。その住所を手掛かりにアンナは、アドリアンを探し始めた。

 なんとかたどり着いたのは、リヴォワール邸のお屋敷だった。そこにはパリ管弦楽団も辞めたアドリアンと幼馴染のファニー(アリス・ドゥ・ランクザン)がいた。雰囲気からしてこの二人は結婚するに違いない。アドリアンへの思いが強かったアンナも、夕食会の席でアンナがピアノ、アドリアンがヴァイオリン、ファニーが歌うのを見て、いたたまれなくなり席を立つ。翌朝、ソーリュー駅でアドリアンとの最後の別れとなった。

 アンナはフランツの両親宛てに次のように記した。「親愛なる両親へ パリにいます。やっとアドリアンに会えました。とても元気で、二人によろしくと言っています。彼はパリ管弦楽団のコンサートマスターです。毎晩オペラ座に演奏を聴きに行っています。コンサートでは私がピアノの伴奏をすることもあります。パリ中を案内してくれて夢のような毎日です。フランツの思い出の場所にも連れて行ってくれました。昨日はルーヴル美術館でマネの絵を見てきました。このような時間をお二人と共有できたらどんなに良いでしょう。いつ家に帰るかまだ分かりません。フランツが愛した街で楽しく暮らしています。お体に気をつけて 愛を込めて アンナ」

 アンナは全くのウソを書いている。アドリアンに会う前に手紙のような想像をしていたのかもしれない。従って、アンナの失意が悲しい。手紙はそんなアンナの苦しい胸の内を告げずに、両親への気遣いが見える。アンナの優しい嘘だろう。

 そしてルーヴル美術館のエドゥアール・マネの作品「自殺」の前にたたずむ。先客の若い男が問いかける「君もこの絵が好き?」アンナ「ええ、生きる希望が湧くの」

 「自殺」を見る人によって感じることは違ってくるだろう。悲劇に同調する人、あるいは無残な死に反発する人も。アンナは強く優しい女性だった。

 この映画はモノクロが基本で、最後のシーンはカラーだった。人間は嘘をつく生き物と言われるが、嘘も人間の心の機微を映していないだろうか。白と黒の映像は、人間の心の影を描出しているようにも見える。印象に残る映画の一つ。2016年制作 劇場公開2017年10月
  

  

  

監督
フランソワ・オゾン1967年11月フランス、パリ生まれ。

キャスト
ピエール・ニネ1989年3月フランス生まれ。2014年「イヴ・サンローラン」も印象に残る。
パウラ・ベーア1995年2月ドイツ、ベルリン生まれ。
エルンスト・シュットッツナ1952年ドイツ生まれ。
マリー・グルーバー1955年6月~2018年2月ドイツ生まれ。
アリス・ドゥ・ラクザン出自未詳
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