そらみつ みそら file  ~To Provide You With Unity~

こころとからだについて、気がついたことを書いていきます。
『』の中の言葉は、見えない世界から伝わってきたものです。

日本語に育てられる脳

2022-12-08 17:06:00 | Weblog
日本語の特異性は、それを使う日本人の脳がどのように機能するかを規定するところに現れていると言う。
以下、東京医科歯科大学名誉教授の角田忠信氏による「日本語人の脳」(言叢社)より。

運動系や感覚情報を出入力する神経伝達機構は左右対称的で、大脳半球の運動野は体の反対側の筋肉運動を支配している。
このような働きを交叉支配という。
視覚・聴覚・平衡器・皮膚や筋肉の受容器などの感覚情報も交叉神経が優勢になっている。

19世紀になって人間の言語を支配しているのは脳の左半球(左脳)であることが提起された。
左脳に入ってくる言語情報を拾いやすいのは右耳ということになる。
これは、聴覚の両耳分離聴取テストという方法で結果を得ることができる。
両耳から異なったメロディを同時に聴かせて、後から聴かせたサンプルの中から選ばせると左耳の正答率が高い。
逆に、言葉や計算問題を両耳に提示すると、右耳が優れている。
言語中枢の局在する左脳に言語情報を届けやすいのは右耳なのだ。

ここまでは、気づかなかったかもしれないが推測可能だろう。
ここから先が面白い。
難しい用語は避けて説明してみることにする。

日本語人は「あいうえお」の母音は左脳で処理する。
非日本語人はそれらを右脳で処理する。
「日本語人」であって、「日本人」でないことに注目してほしい。
この処理の違いは、外国語で生育した日系人と帰国子女の調査から、6歳から8歳の終わりまでの言語環境によって決定することがわかっているという。
つまり、9歳まで日本語で育った人は、国籍に関係なく日本語の母音処理の型が固定して、その後の言語環境の影響を受けない。
さらに。
言語音以外に多くの環境音を使った実験の結果、日本語人は人の感情的な声、虫の音、鳥や動物の鳴き声、小川のせせらぎ、風・波・雨の音など多くの自然音で左脳優位になることがわかったのだ。
非日本語人では、これらは非言語半球である右脳での処理が優位になる。

これが、日本語にシトシト、ザアザア、ゴウゴウ、スヤスヤ、ウロウロなどの擬声語、擬態語が多様に生まれた理由のようである。
外国語人には雑音に聞こえるもの全てが、日本人には意味のある語として左脳に入ってきてしまうという現象が起きる。
虫の声、山鳴りや川のせせらぎも、声となって日本語人の脳には飛び込んでくる。
彼らはBGMではなく対話相手なのだ。

日本語が、自然を人間と対立するものではなく、一体不離なものとする感覚に導いたのではないか、と後半で著者の対談相手の林秀彦氏が指摘する。
日本語がある限り、日本人のこころはこの世の中に保たれるということだろうか。

ちなみに、日本語人と同じ特徴を唯一示したのが、ポリネシア語を話す人々である。
母音一つでも意味を持つ構造が日本語、ポリネシア語にはあるのだ。
母音だけの組み合わせの「有意語」が多い。
ポリネシア語の母音は日本語と同じく5つ、子音が簡単で極めて母音的な言語で、Rと Lの区別はない。
これほど日本語に類似した音韻上の特徴を持った言語はないという。
また、共通する5母音すべてが日本語以上に多彩な有意語を作るらしい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする