時間をかけて一段落、気持ちも整ったところで洞窟の内部に進んでいく。
最奥部、龍神が祀られている窪みが、6世紀にここらあたりの信仰が始まった地点とされている。
その手前でまたSさんの歩みが止まった。
気持ちは前に進もうとしても身体が受け付けない。
岩壁に身体を預けるようにして息を整えている。
「Sさんは洞窟入り口まで戻って休むのでもいいのではないか」
との意見が仲間内で出た。
少しだけ考えて、僕の中にはやはり最後のところまで進んでもらうべきだろうとの結論が固まった。
と同時に、
『出ていってもらおうとか、追い出そうなどと考えるのはやめて、ただまかせるように』
とのアドバイスが降りてきた。
硬直したSさんの身体がふっと緩んだ。
僕は先頭に立って、用意しておいた酒を付近の岩壁に少しずつ撒きながら進んだ。
日本酒の芳香が陰気な湿気に勝った。
洞窟を出て釣り人たちもいる付近まで戻り、適当な岩を選んで腰を下ろし、陽を浴びてゆっくりする。
Sさんの表情は先ほどまでと違う。
もう、大丈夫か問う必要もなさそうだ。
この日でエネルギーが去るというのではない。
2、3週間ここに残っているという。
だが、
『魔は制御されている』
とはっきりと伝えてきた。
このエネルギーの骨組みはなくなっていく。
この日訪れた地域では、五芒星が瞼の裏にずっと映り続けていた。