一昨日左下の親知らずの抜歯をした。
あらぬ方向を向いているケースが多い親知らずだが、僕のも左から中心に向かって隣の歯を押し出す向きで歯茎の中に埋まっていた。
勢いがあるわけではないから圧迫の痛みはないのだが、多少は生えようと上向きの力が加わったせいか歯肉に穴が開いていて一部が露出しているので、食べかすがそこに詰まりやすく気に触るのだ。
食べかすがしっかり取れないと炎症を起こし虫歯になりやすいと歯科医から指摘されていた。
2年ほど前にも抜くことを考えたが、調べてみるとなかなかにリスクもあるようだし、ちょうど歯の治療で酷い思いをした人の話を聞いたことも重なって躊躇してやめてしまった。
その時はかかっている歯科医で処置してもらうのではなく大病院の口腔外科でという話だったのも気になった。
今回改めて決心したのは食事の際に必ず気が親知らずに向くことがやはり嫌だったのに加え、将来医療が充分に得られない環境で問題が発生するリスクを取り除きたいと思っていたからだ。
昨年後半に歯の掃除をしてもらいに行ったところ、歯周ポケットが当然ながら10ミリ程度あり悪化はすれど良くはならないことを痛感した。
あらためて歯科医に相談したところ、彼が手術を承諾してくださった。
「あれ、前回はやってくれないとおっしゃいましたよね?」
と口に出しそうになったが、僕の気持ちを汲んでくださった以上面倒な話はやめにした。
周辺の歯のケアも加わるので自由診療でそれなりにかかる。
大病院の口腔外科だと健康保険が効くので安いのだが、上手かどうか不明な人に委ねることは嫌なのだ。
終わって分かったが親知らずの抜歯は健康保険を使えば三割負担で2千円かからない、驚くほど安い手術だという。
すぐにでもしてもらいたいという気分だったのだが、先生の都合がこの時期まで空かないので2月末になった。
新型ウイルスの流行の真っ只中になりここで免疫が落ちることをするのはどうだ?という考えが頭をもたげたが、その瞬間
『(手術は)大成功』
という声がする。
こういう時に迷わないで済むのは本当にありがたいことである。
麻酔はしてもそれなりに痛いものではあった。
だが、どのくらいの痛みからサインの左手を上げていいものかわからない。
案外痛みには強い方だという自負があるのと、途中で中断して麻酔を追加するなど余分に手を煩わせるのが嫌だったのでそのままお任せしていた。
一番痛い時には「今後コロナウイルスがどうなっていくか」について聞いていた。
その結果聞こえたのが昨日のメッセージである。
強い痛みがある時は集中しやすいのだ。
歯茎に対してどんな動きを加えているかはおぼろげに感じ取れた。
あ、今抜いたなとか、何か詰めて消毒しているなとか、縫っているな、とか。
上手な人の手にかかっているというのはとにかく安心だし、リラックスできた。
終了後、経過を撮影した動画を見せてもらいながら衛生士さんに説明を受けた。
隣の奥歯の親知らずに接していた面の一部の状況が若干微妙らしいのだが、問題はないだろう。
ここで、衛生士さんがロキソニンを出して
「飲みますか?」
と聞くので、とりあえず
「いりません。」
と答えた。
聞かれるぐらいだから拒否権があるのかと思ったが、
「麻酔が切れた時に痛みが出るからここはぜひ飲んでください。」
ということだった。
断固拒絶する理由はないので水で一錠流し込んだ。
ここで本当にびっくりしたのだが、痛み止めって恐ろしく効くのですね。
毎秒ごとにスーッと痛みが和らいでいくのがわかり僕は目を丸くした。
その感動を伝えられた衛生士さんは面倒くさい人だと思ったことだろう。
これだけ効くのは普段薬を飲まないせいもあるのだろうが、これによって助かっている人が多いのも頷ける。
ロキソニンは4時間あけないと次のを飲んではいけないそうで、そうなると午後10時半以降ということになる。
痛み次第で2錠なら飲んでいいという。
ここは出来れば飲まずに済ませたいと思った。
親知らずの抜歯は抗生物質が処方されることもあるようだが、経過が良かったのだろう、僕はされなかった。
今後抜歯をする人の参考になるだろうから書いておくと、長い入浴、飲酒、激しい運動は回復には全く影響はないが血の巡りをよくするので痛みが増す可能性があるのでやめておくのが無難と言われた。
腫れのピークは2日後ということだ。
いきなり激しい運動をする意思はないし、入浴は制限されるかもと先に済ませてきた。
問題は飲酒だったが、ほんの少しだけ考えてやはり飲んだ。
麻酔が切れた8時半の時点でほぼ違和感はなく、痛みは増さなかったのだ。
これならばいつもしないことをして日常のペースを乱すより、普段どおりの生活をした方が良いとの判断だ。
寝入るのにいつもと変わりはなかったが夜中に数回起きた。
夜中に起きるのも珍しいことではないが、歯の周辺の痛みが多少あった。
痛み止めを飲むか迷うほどの痛みでもなかったので、自分で左の肋骨付近を触りながら呼吸で痛みを取り除く。
歯の痛みを取るために歯の付近を触る必要はない。
胴体部分や首などを探り違和感のある場所を見つけ、それを取り除けば歯の痛みも軽減している。
やはりこれは充分に機能する。
手術直後に飲んだロキソニンとの違いは、ロキソニンは飲んだらそのまま痛みが消滅したのに対し、自分でやるのだと少しずつ痛みが戻ってくることだった。
回復しようと体が頑張っているのがそのまま痛みなのだから納得できることだ。
そうは言っても、やっているうちに寝てしまう。
睡眠の障害になるほどの痛みは出ず、いつもと同じように朝4時半に起きて読書などしていた。
抜歯による異変だろうが、午前6時に少し寒さを感じたので二度寝し、1時間後には全く元に戻った。
腫れのピークと言われたのが今日にあたるが、見た目にも全く変わりはない。
親知らずの抜歯はできるだけ若いうちがいいという。
歳をとると生活習慣病が出てきたりして、余分なリスクを背負い込むからだ。
そういう点では全く問題なく終えられたことは自分の健康状態が良かったことの反映でとてもありがたいことだが、やはり処置してくださった先生の腕の素晴らしさにこそ感謝である。
5年ほど前に虫歯だった右下奥歯の神経が死んだ瞬間の激痛、その後12時間以上にわたってじわじわ増した鈍痛をよく覚えている。
痛みに強いと自負があると先ほど書いたのは、この時に激しい痛みの最中で丸半日仕事も普通にしたし、その後飲みに行っても何も変わりなく過ごせたことが理由としてある。
ただ、あの時は顔の右半分が冗談のように腫れていた。
それを誰も指摘しなかったのは、多分腫れすぎていてみんな大人の気遣いを見せてくれたのだと思う。