Fish On The Boat

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『重力ピエロ』

2010-12-03 12:03:03 | 読書。
読書。
『重力ピエロ』 伊坂幸太郎
を読んだ。

謎解き要素がメインの、いわば推理小説の類なのでしょうか、
僕は推理小説をあまり読まないので、はっきりカテゴライズするには
知識が足りないのですが、推理小説だとすると、
純文学的な匂いもする、推理小説と言えるかもしれないです。

とはいえ、大衆文学的なエンタテイメント要素が数多くちりばめられています。
その多くが会話の面白さ、冗談のおもしろさ、
相手の反応やそれに対する自分の反応や解釈の面白さです。
読んでいても、頭で考えるよりも先に、「ふっ」と吐息をもらすかたちで
笑ってしまうことが多かった。

深刻な事は陽気に伝えるべきなんだ、というようなことがこの作品の中で言われますが、
この作品自体がそういう彩色を帯びた作品であるとも言えることができます。
自らの出生の原因が、ただならぬ事実によるものである、という
自分のアイデンティティがぐらぐらするに違いない重荷を背負わされた主人公の弟や、
ガンに冒された父親など、主人公に近しい登場人物の状況の設定は、
なかなか負の要素の強い、その設定だけを聞くとどんよりと重くて暗い気持ちに
させらてしまうものになっています。
なのに、作品を読んでいても、笑ってしまう。
ユーモアを含んでいたり、ウィットによって吐き出される言葉が、実に心地よく、
ストーリーなんかは、あらすじだけ滔々と真面目に読むことになれば、
どんどん胃のあたりにもやもやしたものを感じるようなものなのに、
作りこまれた物語はそうではなくて、暗くもなく、明るくもない、第三の場所へと
読者の気持ちを持っていかせて、そこで読ませることになる。
その第三の場所こそ、ある種の達観を経験させられる心理状態なのかもしれないし、
物事を客観的に見る術を教えてくれるところなのかもしれない。
物事を深く考えるには人生は短い、みたいな句も出てきます。
どうでしょう、
「深刻な事は陽気に伝えるべきなんだ」、
「物事を深く考えるには人生は短い」、
この二つはちょっと結びつきそうな気配がしませんか。

謎解きモノなので、ストーリーについては言及しません。
この本の前に書かれた作品、『オーデュボンの祈り』や『ラッシュライフ』のほうが、
読みやすいといえば読みやすいし、驚きはうえだったかもしれない。
だけれど、今作『重力ピエロ』は、幾分重厚感を持った文体と、扱う内容の重さと、謎解きのバランスが良いです。
それに、さきほども書きましたが、笑える要素が多い中で、かすかな通奏低音のように、
深刻な心理などが基盤をなし、文飾のハーモニーの土台を支えている。
前二作を好むか、今作を好むかは、好き好きによるでしょう。

というわけで、初期の伊坂作品から読み始めて、文体の変化が今作でわかり、
その後の作品でどう変化し、成熟し、進化していくのかが楽しみになってきました。
とりあえず年内の伊坂作品の読書はこれで終わりでしょうかねぇ。
他にも読みたい小説がありますので。


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