Fish On The Boat

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『予告された殺人の記録』

2024-06-17 12:08:05 | 読書。
読書。
『予告された殺人の記録』 G・ガルシア=マルケス 野谷文昭 訳
を読んだ。

ノーベル賞作家として名高く、代表作『百年の孤独』が文庫化されるニュースが話題にもなったG・ガルシア=マルケスの中編作品。

殺人犯となる双子の男たちが「サンティアゴ・ナサールを始末する!」とあたりかまわず言いふらします。屠殺用ナイフを隠そうともせずに持ち歩きながらです。それから町中で急激にうわさが広まっていったにもかかわらず誰にも止められず、双子の殺人犯たちににしても誰かが止めてくれるのを期待していたところがあっただろうに、決行されてしまった殺人事件の物語。実際に著者が生まれ育った町で起きた事件をモチーフに小説化したものだそうです。

事件から30年後の世界で、主人公が事件の調査をするというかたちで、事件の経緯が明らかにされていきます。多角的に語られるひとつの殺人事件。いろいろな人物がその事件のことを語っていく。それぞれの人生がその事件のうえで重なっている部分をみているような感覚もあります。

1ページ目から最後までずっと語られるこの事件を俯瞰で眺めるとすると、殺人事件としてはそんなに珍しくないそのひとつなんだという気もします。悲劇であることは間違いないのだけれど。それが、各登場人物の考え方や心理がそれぞれであり、独自性があり(それでいて、ありがちだと思えもする近しさがあったりする)、迷いや逡巡や思い込みや気持ちの弱さがそのままというくらいに書かれているから、物語のディテールがとても生きいきとしてなおかつ唯一性を感じさせているように思えるのでした。

様々な私情がそこには存在しています。そして、汚されたこの小さな町の名誉のため、そして殺された金持ちに対する妬ましかったり恨みがましかったりする深層心理のため、望まれた殺人という性質も感じさせさえします。

いろいろな運命がこの事件のパーツを成している、それもボタンの掛け違いのような組み合わさり方によって起きてしまった事件、という性格もあるでしょう。そういったところが巻末の解説を読むことで、くっきりとしてくるところがありました。解説を読んで、「なるほどなあ」と思う部分は多かったです。

完成度が高い作品ですね。

そういうところとは別に、僕としては好きだった箇所を引用して終わりにします。
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「二人ともまるで子供みたいだったよ」と彼女はわたしに言っている。そう思ったとたん、彼女は背筋が寒くなった。なぜなら、日ごろから、子供だったらどんなことでもしかねないと思っていたからである。(p66)
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殺人を犯す直前の犯人たちの様子から、ある人物がふと感じるところです。なんということもない箇所ではあるのですが、こういうレトリックって上手くないですか。一人の人物がひとつの表象から感じたことが、常日頃の自身の哲学や知恵と不意に結びつく感じが好きです。



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