Fish On The Boat

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『ヤフーの1on1』

2024-06-25 23:02:06 | 読書。
読書。
『ヤフーの1on1』 本間浩輔
を読んだ。

「LINEヤフー」に合併するより前に出た本です。合併後もこの「1on1」は続行されているのか、気になるところです。

「1on1」とは、たとえば週に一回の頻度で一度につき30分の時間を業務内に取り、上司と部下が一対一で差し向っておこなう対話のことです。そこで行われるのは、上司から短い問いかけに応えるような形で部下が自らを語っていく、部下の内省を深める対話です。そのために、上司は講習を受けています。主に、コーチング、ティーチング、フィードバック、進捗確認の四つで構成されます。上司に求められる技術はその他、レコグニション(承認。本書では、その人をそのまま受け止めることにあたります)とアクティブリスニング(頷きや表情などで傾聴する技術)です。

どうしてこのような直接利益に結び付かないセッションを行うのか。人事担当でヤフーに「1on1」を普及させた著者は、経験学習のため、そして「個人の才能と情熱を解き放つ」ため、と言い切ります。

経験学習は、「1on1」によって部下の内省が深まることで、その内省によって経験が学習されて身についていくこと、そしてそれによって考える力がつき、自分なりの考え方が培われていくことを意味します。「コルブの経験学習モデル」によると、人が経験から学ぶときには、<具体的経験→内省(振り返り)→教訓を引き出す(持論化・概念化)→新しい状況への適用(持論・教訓を活かす)>というサイクルをたどる、というものだそうで、これが目指される「経験学習」です。

いっぽう、まるで漠然とした標語のような「個人の才能と情熱を解き放つ」はどうか。これは、本書の中で多角的に語られていますが、なかなか含みがあるというか、豊かな意味性があるというか、内容が生きている言葉だと思いました。トライアンドエラーをくり返しながら自らの適正に気付き、それを活かす形で仕事していく。そうすると、やりがいと成果が大きく得られやすい。会社から与えられる仕事をこなすより、自分で自分がいちばんうまくできる仕事を選んでおこなう、つまり「アサインよりチョイス」という言葉も書かれていました。また、「個をあるがままに活かす」ですし、個人の「人としての強さ」を増させようという言葉でもあるようです。そのため、「1on1」がその助けとなっていく。

では、「1on1」の要となる、コーチング、ティーチング、フィードバックについてみていきます。

コーチングとは、部下が内省しながら自力で答えを見つけるために上司がサポートすることです。上司はYES・NOで答えられない的を広くとった質問をすることが主体となります。「どうして怒ってしまったの?」「どうしてAさんは言う通りにしなかったんだろう?」などという質問がそうです。これを部下は、その都度かんがえて言語化していきます。その過程と出てきた言葉と考えが大事なのでした。

次にティーチング。これは、教えることなので、社内のルールではこうだよ、など、コーチングの必要のないような規則や手順などを教える技術です。

最後にフィードバック。これは、あたまは周りからこう見えていますよ、ということを教えることです。部下が何かひとつ仕事を終えたとき、その姿が周囲からどう見えていたかを、好意的にも否定的にも教えることで、部下は自分ってそんな感じなんだ、という気づきが得られる。まあ、知りたくないことも多いでしょうが、本書ではいろいろ知ることが大事だとしています。そこでまた内省が働くきっかけになったりしますし、道を逸れている場合にフィードバックを起点として立て直すことができます。

といったところですが、「コミュニケーションは頻度」という名言が出てくるんですけれども、なるほどそうなのか、とちょっと頭に留めておこうと思いました。3か月に一度、長い話をするよりも、短い話をちょくちょくする関係を構築したほうが、お互いの関係はざっくばらんに近づくようです。

また、「仕事はお金を稼ぐための苦役である」という認識が、労働に対して強いと思いますが、そこに一石を投じて、できれば価値観を変えてしまえるような職場・会社にしたいという著者の思いも、この「1on1」にはあるようでした。

あと、こういう箇所があります。由井俊哉さんという人事コンサルタントの方との対談部分から。

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由井:多くの経営者は、そこを我慢できないんです。そもそも経営者は、元から強い価値観を持っていて、誰かと対話しなくても自分から動いて切り開ける人なので、まどろっこしいプロセスが必要な人のことを理解できないのでしょう。

本間:そういうリーダーがトップにいる企業では、1on1なんて必要ないでしょうか。

由井:いえ、した方がいいとお私は思います。(p218)
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というところなのですが、どうして「1on1」をしたほうがいいかといえば、トップダウンで言われたことだけやる社員だと、現場での判断力が、「1on1」をしている社員にくらべて劣るからだといいます。そして、昨今の仕事の現場では、現場での判断力がモノを言う。そこで後れを取ると、稼げない時代になっているからでした。そして、人を大事にするからこそ、「1on1」をやるんだ、という心構えがすごくこめられている本でした。

ただ、この「1on1」はヤフー用にカスタマイズされてこそはいても、たとえば前述の由井俊哉さんは、前にいたリクルート社ですでに文化となっていたと語っています。また前に読んだ本によると、任天堂の社長だった岩田聡さんも、HAL研究所時代に「1on1」と言えるような面談・対話を行っていたのを読みました。そんな奇異な手法ではないということですね。わかる人にはわかっている技術だと言えるのではないでしょうか。

それと、余談ながら言ってしまうと、本の造りとしては、まず作ってみようという動機があり、勢いがあれば中身はついてくるというようなノリだと思いました。だから、けっこう空気を含んだおにぎりみたいに、突き詰めすぎていないし、わざとらしいくらいにわかりやすく、イメージを感じてほしいというテーマがあるように感じられもするのです。それはまるで、僕個人が「会社」というものに共通して嫌な感じを覚える時代時代のトレンド的というか、そういった強制的かつみなが進んで飲み込まれる、やっぱりノリとでも言うべきものが本書の中にもある感じがする。ある種の、選民性、優勢民であろうという潜んだ欲求から匂うものであって、それが本書にもある気がするのです。たとえば、何人かとの対談がありますが、そこではまるでアジェンダ(議題・テーマ)が踏まえられていないことでの失敗面として出来上がってるような、ほとんど益のない中身となっているような対談もあります。まあでも、読者はこのビジネス本の勢いにのって、まず雰囲気やイメージをつかめ、という狙いなのかもしれません。

では、最後に、これを会社など仕事面ではなく、家庭に応用したらどうなのか、を考えて終わりにします。

まったく内省しない家族の誰かによって、いろいろと不利益・迷惑を受けているならば、まず、話し合いの場をなんとか作って率直に伝えたりするべきでしょう。だけれど、その誰かによっては、自分が自分と向き合うことを強く恐れるため、「おまえと話をすると具合悪くなるから、もうやめだ」などと打ち切ったりすることがあります。また、話が核心に及ぶと、そのとたんに露骨なくらい話を別な方向に変えたり知らんぷりや聞いていないふりをしはじめたりします。これは僕の経験としてあります。それでですよ。こういう家族を相手にどう内省してもらい、自分の行動や性向を自覚してもらうか(まあその家族の誰かは確信犯的に自己中をやってる場合もありますが)。

コーチングやフィードバックという技術がここで活きるのではないでしょうか。これ、応用すれば、自分と向き合えないタイプの「内省しない家族」に使えるのではないかと思いました。テーブルに差し向ったりL字型に座り「1on1」で話し合うことができないのならば、なにかあったその瞬間に「それはこっちにしてみればこういうふうに受け取れるし、客観的にこういうふうに見えていたりするしこんな意味が含まれている」と一言二言。その家族に放ってみればいいのではないか。ゲリラ的なフィードバックです。そのためには、何かあったときにはまずいろいろこちらが考えておかなければいけません。こういうタイプの人は似たような迷惑パターンの振る舞いを何度も繰り返すものですから、それらの行為や意味合い、影響を言語化しておいて、何度目かのタイミングで言えたらいいと大成功だと思います。

不意打ちみたいにはなりはするけれども、相手はそれではっと気づいたりするし、そうしたことが継続的にできれば、総合的に時間はかかっても、いろいろな点での内省が自然とその人の中で行われるだろうし、自覚もなされたりしそうです。ただ、こういった「指摘」「その振る舞いの意味を教える」などはもしかすると干渉の部類に入るのかもしれません。こっちが干渉をするならば、相手からの干渉もある程度飲まなければいけないような気がしてきます。干渉が嫌な人は、そこで躊躇しますよね、僕みたいに。


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