Fish On The Boat

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『PK』

2023-12-08 23:35:00 | 読書。
読書。
『PK』 伊坂幸太郎
を読んだ。

2002年ワールドカップアジア最終予選の試合終了間近に、日本代表チームがPKを獲得したことでW杯出場が決まるのですが、その場面での謎を、2011年に大臣をしている男が気にするのです。そういったところから始まる、「PK」「超人」「密使」の三作からなる連作短編です。「PK」「超人」は、同じような場面で事実が異なっているところがあり、そこは大切な注目ポイントなのですが、だからといってあとではっきり解き明かされはしません。そういう投げっぱなし加減も、読み手としての自由度として捉えれば、シンプルに、読み手の読み心地のよさにつながっている要素なんだろうなとしてみても、大きく外れてはいないのだろうと思います。

なんだか、どう書いてもネタバレになってしまいそうなので、とくだん内容には触れませんが、伊坂幸太郎さんらしい、さっぱりした軽さがあって計算されていて軽妙なおかしさがあって、読むことに没入させられる力がほんとに強力な作品だったことは書いておきます。アイデアも、ところどころの発想の飛んでるところも、冗談のセンスも、外さない人だなあと毎度ながら感心してしまいます。時間を忘れて夢中になって楽しんでしまいますからねえ。

「密使」はタイムパラドクスの解説や、タイムパラドクスが起こらない場合に世界が分岐する「パラレルワールド」論について、とてもわかりやすく登場人物が主人公に教えてくれている場面があります。いわば、主世界Aと、そこから分岐した並行世界A'やA"があるとすると、メインの世界はやっぱりAの世界だとこの作品では述べられている。ここを読んでいるときに、「でも、A’の世界を生きている人が、自分が分岐した世界の住人であり、目に見えている世界がメインの世界ではないなんて気づくことなんてできやしないし、A'もA"もそこの住人はその世界こそが唯一無二のメイン世界だと前提して生きているだろうに」と僕は思い始めてしまったのです。そうしたら、なんだか、ほんとうに今の僕がいる世界が分岐していないメインの世界なんだろうか、と強い疑いが生じてきまして。

というのも、「PK」「超人」と読み終えて「密使」にはいっていく前に、一旦『岩田さん』という本に移りました。任天堂社長でニンテンドーDSやWiiを世に出した方の考え方や言葉が詰まっているすばらしい本です。60pくらいまでを読んで、さて、それじゃあ『PK』に戻ろうと、最後の「密使」を開いた一行目が、<きっかけはポータブルゲーム機の予約だった。>でした。「ああ、岩田さん!」と思ってしまった(笑)。もうひとつ、本書の解説の最後、伊坂幸太郎さんのエッセイの文章が引用されて終わるのですけれども、そのほんとうに最後の一文が<仮面ライダーがいてくれて、本当に良かった。>なんですね。僕のユーザーネームは、仮面ライダー555を連想させるものだろうと自分でわきまえているので、ここでも、「ああ、仮面ライダーかい!」と思ってしまいました(笑)。そういうところから、この世界は、主世界であるとするならなんだか嘘くさいと思ったところなのです。……とまあ、ほぼ冗談ですが、それでなくても本作品の内容は不思議なものなのに、そこに奇遇と考えてよさそうなものまですり寄ってこられると、おもしろいもんだなあ、と掃いて捨ててしまわずに、取り上げておいて書き残したくなったのでした。あしからず。



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